僕は手を振った

僕は手を振った

僕以外の幸福な人達を乗せた宇宙船が

今日、未来に向かって飛び立って行った

その眩しい炎を目を細め見送った


僕は手を振った

今日を過ぎ行く者たちに

自分の場所で笑って歩いていく人達に

錆びた公園のベンチに座って見送った


僕は手を振った

いつか夢見ていたあの頃の僕に

知らない方が幸せだった事が沢山ある

目の前を過ぎていった純粋な僕を見送った


僕は手を振った

ずっと続くと思っていた幸福に

知りたくもなかったよこの喪失を

僕だって幸せになりたかったよ


僕は手を振り続けていた

もう誰も通らない事は分かっている

けどまた誰かが通るような気がして

だから僕はこの場所から動けなかったんだ


僕はとうとう手を振ることを止めた

知りたくなかった事を知ってしまったから

認めなきゃ進めない事を悟ったから

それでも僕は立ち上がれなかった


僕はもう一度手を振った

何者にもなれない僕に手を振った

それを知ってもなお歩き出そうと思えたのは

過ぎ去ったあの人の笑顔を思い出したから


もう二度と帰ってこないと言いながら

どうせ帰ってくるんだろ、知ってるよ

だから今言うのは「さよなら」じゃないな

また会う日まで、死ぬんじゃないぜ

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