学園のアイドルと隠れ美少女に手を出したら、ベタ惚れされた

佳奈星

第1話 可憐少女に頼られたら放っておけない

 放課後、俺、安本蓮やすもとれんは勉強しながら学校に残っている。

 勉強が家で出来ないという訳ではない……それでもこんな時間まで一人で学校に残っているのは、俺が一人暮らしをしているからだ。

 両親は健在で国内在住、本来一人暮らしなんてあり得ない環境だが、進学したここ南遠江高校みなみとおとうみこうこうが実家から離れていたに過ぎないという理由で、それは許可された。

 しかし、生活するのに電気代やら光熱費がかさむのは申し訳ないので、なるべく学校の設備を利用させてもらっているという訳だ。

 茜色あかねいろまる空を窓越まどごしにながめていると、静かに教室の扉が開くのが、窓の反射でわかった。

 ああ、もう教室内の方が外よりも明るいらしい……あと1時間くらいで閉門だろうなどと考えていると、開いた扉から入ってくる生徒が俺に近寄ってきたことが足音でわかった。


「安本くん……帰ってなくて良かった」

「何だ? 栗野くりの


 その女子生徒は栗野香夜くりのかや……あまり接点のない同級生だった。

 クラスではあまり目立たないものの、見た目だけなら姿を兼ね備えている。

 薄い茶髪が夕焼けに溶け込んで、安心する顔が奥ゆかしい。


「その……言いにくいんですけど……」

「ああ、何だろう」


 二人きりの教室、頬を赤らめた異性が話し出すまでそう長くはなかったが、俺は察した。

 そういえば、告白にはもってこいのシチュエーションだよな、この時間。

 どうして栗野くりのが好きになってくれたとか、そんなことは考えてもわからないし、どうでもいい。

 ただ、遂に俺にも彼女ができる時が来たのだと胸をなでおろしていた。

 これで……やっとDTディーティー卒業かぁ~。

 くぅ~っ、長かったな。

 ……なんて、心の中で盛り上がっている矢先、栗野は話し始めていた。


「その、さっきですね……いつも通り電車で帰ろうとしたら、定期券が期限切れていたらしく……乗れませんでした」


 何言っているんだこいつは。

 はあ、期待した俺がバカだったようだ……栗野はただ乞食こじきに来ただけじゃないか。

 納得いかないな……。


「財布も忘れてしまって……」

「判ってるよ。はいはい、幾ら?」

「え? いえ、お願いしたいことはそうではなく……」

「は?」


 栗野は手を振って否定の念を示した。

 俺の読みはどうやら的外れだったという事らしい……無駄に恥をかいた気分だ。

 だったら、何をお願いしたいのか簡潔にお願いしたいね。


「あの……確か安本くんって、一人暮らしですよね? よろしければ、泊めていただけませんか?」

「ん? んんん? 何を言っているんだよ、お前」


 栗野を泊める? 何処に? 俺の家? いやいや、どう考えても問題しかないだろ。

 栗野の親が警察へと捜索届けを出して、俺はというビジョンが頭に浮かんだ。


「ダメに決まっているだろ。俺に何かうらみでもあるのかよ」

「え? いえいえ、何のことですか?」

「何の事かは俺が訊きたいよ。大体、俺の家にまって、俺を逮捕したとしても、栗野だって何かされてないか、とか疑われることになるんだぞ?」

「全然そんなつもりはありませんから! え、もしかして安本くんは、私を泊めたら襲ってきちゃうんですか?」

「襲う。だから、ダメだ」


 断固だんことした拒否きょひ姿勢しせいを示すと、栗野は声を失い空白の刹那せつなが生まれた。

 しかし、次には熱の入った言葉を投げかけてきた。


「そんな! だったら、どうすればいいんですか? もうお母さんには友達の家に泊めてもらうって連絡しちゃったんです」

「え、じゃあ同性の友達にお願いすればいいじゃないか。そもそも俺は友達じゃないだろ」

「ひっ……」

「ひ? 何だよ」

「ひどくないっ、ですか? 私は友達だと思っていたのに……」


 栗野くりのは急にその場でうずくまって、誰かの机に腕をおいて悲壮感ひそうかんただよわせる。

 本当に栗野との接点なんてあまりないのに、友達だと思われていたとは……もしかして、小・中学校で一緒だった? いや、そんな事はない筈だ……記憶には自信があるし、南遠江高校みなみとおとうみこうこうは地元から結構離れている。


「待て、栗野と話したことなんて数えるくらいしかないと思う……」

修学旅行しゅうがくりょこう、一緒の班になったじゃないですか」

「修学……? それってまだ先の話だろ?」


 確かに栗野の話は間違っていないが、それで同じ班になったから友達? そんなわけ……。

 もう既に、修学旅行が終わって、それなりに話し合った仲ならわかるけどさ……やっぱり、変だよな。


「それでも、行きたい場所とか話し合った仲じゃないですか」

「それはそうだけど、それでお泊りしてもらうっていうのは……おかしくね? なんか、家に帰りたくないから都合よく一人暮らしの俺にお願いしているように聞こえる」

「そんな事ないです……よ?」


 俺の指摘が図星ずぼしだったのか、言葉から動揺どうよううかがえる。

 それだけならまだ誤魔化ごまかせたのに、栗野の顔を注視すれば、目の動きにまでおよんでいたのが判る。


「何故目をそららすんだ。メッキが剥がれてきてるぞ」

「もー! 本当は同性の友達にお願いしたのにドタキャンされたんですよ! 泊めてくれるって言ったのに、更に急な予定を優先されたんです! 私だって、傷ついているんです。女子がお願い事しているんですから叶えてあげたらいいじゃないですか!」


 友達がバックレてしまった、と……確かに難儀なんぎなことだ。


「おっ、とうとう正体を現したな。素直に親御おやごさんに連絡しろ」

「財布忘れたのは本当なんですよ……」


 ふむふむ……成る程、事情は判った。

 つまり、俺の采配さいはいによっては栗野とヤれるってことだな。

 俺は既に襲うと宣言したぞ……それでもお願いしてくるってことはそういうことだよな?


「あ、そうだな……栗野って、処女しょじょか?」

「ばっ、馬鹿にしないでください! そんな訳ないでしょう」

「じゃあ、非処女ひしょじょなのか……」

「ばっ、馬鹿にしないで……ください! そんな訳ないで……しょう」


 今度は顔を真っ赤に染め上げて恥ずかしそうにそう言った。

 どっちだよ! マジで!


「真面目に答えてくれ……俺も真面目だから」

「処女です……そんな、彼氏だっていたことないのに、酷いですよ……」


 そっか、彼氏いたことないのか……って知らんがな。

 しかし、ここまで性に弱い子だとは思わなかった。

 これで押し倒しても、マグロじゃなぁ……どうせなら、体力ある女の子と汗だくになりながら一晩中……みたいなことを考えてしまう。

 だから、なんか……興奮が冷めてしまった。


「はあ、わかった。千円あれば流石に足りるだろ。ほら、これで帰れ」


 俺は自分の財布を開き千円札を渡すと、栗野は驚いた顔をした。


「ちょっと、恥ずかしいこと訊いておいて、なんなんですか?」

「いや、帰りにくいのはわかったけど、ドタキャンは仕方ないだろ。あ、仕方ないって言っても、そいつはもう友達だと思わない方がいいぞ。運が悪かったと思って、親にありのまま説明すればいい」

「なんで真面目に返すんですか? 私は、ここまで恥ずかしい思いをさせておいて放置するんですか、と言っているんです!」


 なんだこいつ……つまりはそういった気分になってしまったという事だろうか。

 知るか……帰って一人ですればいい。


「怖いですよ……後から何を要求してくるつもりなんですか?」


 ああ、勘違いしていた。

 栗野くりの後腐れあとくされのありそうな千円という貸しが怖いのだ。

 まあ、帰る事には前向きになってくれて良かった……と思うべきだろう。

 しかし、どうしようか。


「じゃあ、千円返したりしなくていいから、一回胸揉ませてくれないか? それで全部チャラだ」


 以前、先輩から聞いた事があった……なんでも、脱がないで布の上から胸を揉むなら、この南遠江高校みなみとおとうみこうこうにおいて不純異性交遊ふじゅんいせいこうゆうには当たらないらしい。

 尤も、検証によればCカップ以下である限り適用される暗黙あんもく領解りょうかいらしいが、栗野は多分合格です。

 最近の女子はどいつもこいつもふくらんでいて、むしろ郷試きょうしの合格率並みに小さいのがいない……それは言いすぎか。


「なっ、成る程……そういうことなら、それで」


 そういって、両肩を後方へと動かし胸を突き出すように強調した。

 おいおい、やる気満々だな……ある程度覚悟していたという事か。

 決して大きくはないが、確かに存在があるソレに、俺の鼓動こどうはバクバクだ。

 いっ……良いんでしょうか?


「あっ、ごめんなさい。じかは……恥ずかしいんですけど」


 謝られると、悪いことをしている気がして、そんな背徳感はいとくかんに包まれた。


「いや、それは大丈夫だ。そこまで求めてない」

「じゃ、あ……ちょっと待ってください。ブラ外しますね……」

「お、おう」


 いや、これは……だって、さ、栗野くりの能動的のうどうてきにすることじゃん? 俺、悪くないよね?

 栗野はブレザーとカーディガンを脱いで、その後自分のシャツの第一ボタンを外し自分の腕を忍ばせわきの下に通して背中の金具を外そうとしていた。

 ヤバい……これは、ヤバい。

 バカな男子どもが女子更衣室覗きたいという欲求を口にした時、何が楽しいのか理解できなかった俺だが、少し理解におよびそうになる。

 いや、その恥ずかしがりながら頑張って自分の服の中をまさぐる構図が素晴らしいのだ。

 金具が中々外れず苦労している……良いものだな。

 なんとか取り外したブラを胸元から引っこ抜き、カバンに引っ込めたが……色が見えてしまった。

 桃色ももいろ……ピュア系なのか、栗野。


「それでは……どうぞ」


 そして、先ほどと同じく胸を突き出すように向けた。

 さっきよりも、若干大きく見えるが、それでもまだ小さい……いや、それを気にしているのだろうかニヤつきそうな表情を我慢している栗野の顔が可愛い。


「それでは、失礼します」


 俺はこの日、天へ上った気分になった。

 一回? 

 シャツの上からなのだし、当然じゃないか。

 距離が近いからか、栗野くりのにおいが鼻につたう。

 恥ずかしながら手で顔を隠し始めた時、俺は興奮を隠しきれずガッツリ掴んでしまって、それに反応した栗野が遠ざかったので、そこで終わった。

 最後に栗野はブラを付け直そうともせず、顔を見られないように隠しながら走って逃げ帰ってしまった。

 そして、同時に俺は栗野を好きになってしまった……こんな事をされて惚れない奴はおらん。

 家へ連れ込もうとしなかったのを悔いた……マグロでもいいじゃないか。

 スキンシップでオキシトシンが分泌された勘違かんちがいではない……と思いたい。


 俺はこの時、性的嗜好せいてきしこうのアップデートを完了した。

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