初心
「人ひとり殺すなんてさ、大して難しいことではないよ。うそじゃない。実際にやり遂げた僕が言うんだから」
インテリ風情のそいつはそう言いながら薄っぺらな唇を一瞬ひきつらせたかと思うと、おもむろにわたしの肩に手を掛け、
「あぁ、失敬。やり遂げたなんて、大袈裟に言ってしまった……」
と、耳元に、吐息混じりの甘い声で囁いた。
「やめてよっ!」
肩に置かれた指先が首筋に這わされた途端、無意識にそう叫んでいた。
男の手を払いのけ、仄暗いカウンターの奥に目をやると、初老のバーテンダーが背中で聞き耳を立てている。
場末のこの店では、客に立ち入らぬのが暗黙のルールのようだ。
「ふふっあんた、こんな話を持ちかけておいて今さらなんだい。
刹那、ニヤ付くレイバン越しの、見えるはずもない瞳が光ったと感じたのは、乱反射した灯りのせいばかりでも無かろう。
対峙することも出来ない心の内を読まれたのか、遠慮無しにその手は、タイトスカートの膝頭をきゅうと掴んだ。
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