033 南無三! 腕一本はくれてやる覚悟で

 さぁてさて、今日は特に進捗もないため体験談でエッセイを濁しますよ!


 ネタのない時は武勇伝の出番です。おれごん未来は抜け作で、そそっかしいうっかりさん。そんな自分とのつきあい方はよく知っています。

 お出かけする時はいつもトラブルと背中合わせ。それを忘れた瞬間に不幸に見舞われます。これはそんなお話。

 



 オレゴンって、大自然くらいしかないんですよ。あとは農場や果樹園。チューリップ祭りに始まり、バルーンフェスティバル。ラベンダーや各種果物狩り。コーンメイズ(とうもろこし畑の巨大迷路)。パンプキンパッチ。そんなこんなで北海道のような短い夏が過ぎて行きます。

 私はそれらに家族で参加しつつも、その短い夏を満喫しにひとりでふらっと山や海に出向きます。今回はその中の一回で起きた出来事を。


「やってしまった……!」


 痛恨の至り、油断してカバンを海に。波打ち際で車の鍵を水没させてしまいました。ハンカチで拭いて仕舞いましたが気になります。もう景色は頭に入って来ないので車に戻りました。

 嫌な予感は的中。鍵本体を車に差してもまるでエンジンが始動してくれません。なにやら見慣れない、車に鍵がかかったランプが点灯しています。

 盗難防止なのでしょう、鍵からの電気信号を受け取らないと動かないようなのです。それをかろうじて電波の入ったスマホの検索で知り、うなだれるおれごん未来。この時家から車で2時間の地点。やらかしました。


「落ち着こう。落ち着くことが何より大事だよ……!」


 まずお手洗いに。焦って動いても何も好転しません。さらに少し歩いてまず冷静になりました。

 家族へのヘルプだけは悪手、二度とひとり旅などさせてもらえなくなります。

 すぐにロードサービスの可能性を。契約しているので電話さえかければ来てくれます。これはOK。電話番号所持を確認。でもレッカー移動は高くつきそうです。

 その次にUBERをチェック。往復310ドルで家に予備の鍵を取りに戻れます。選択すれば1往復半の賞味7時間、丸1日潰れるのが確定。(´д`;)ヌウ


 とにかく最安値310ドルあれば復旧できます。これで安心しました。お金で解決できる問題は問題とは呼びません。


 落ち着いてネット検索をかけました。車の鍵、水没、復旧、と。そこには洗濯してしまった場合の措置が書かれてありました。

 洗剤の成分で短絡しており、真水でよく洗って乾燥させれば一時は使えるようになるらしいです。洗剤と海水の違いはありますが、付着物起因の短絡。復旧できる希望の火がともりました。


 鍵をバラしましょう。何やらマイナスドライバーでないと開けられない箇所が。そんな細かくて狭いところに爪なんて入りません。小銭の丸みですらそこには大きすぎて入らないのです。しかしここをこじ開けねば内部の乾燥なんて夢のまた夢。生きねば。もとい、開けねば。

 コストコの会員カードの角っちょがどうにか硬さと厚さでちょうど収まりました。


「ええい、曲がってもいいから回れぃ!」


 開きました。中からポタポタと海水が。これでやっとスタート地点。

 さっき買い求めたミネラルウォーターを惜しげもなく4本。ダメで元々、ジャブジャブに洗ってやりました。電池も指でゴシゴシ。どうせ一か八かなのです。


 ネットにはこのあとエアコンや扇風機で乾燥と書いてありました。それは動かないのです。エンジンがかからないので。

 ビュンビュンに振り回します。どうか笑わないで。癒されに来た海でプチ窮地に立たされ車の鍵を振り回す大の大人、おれごん未来をどうか笑わないで見守ってあげてください。


 10分ほど振りました。疲れたのと、半分がO型の私はもう行けるような気がしてきました。ネットには半日乾燥と書いてあったのにです。

 運転席に座り、祈るような気持ちで。

 電子基盤の他に、電池の方が死んだ可能性もあるそうです。CR2032の電池を買いに行くUBERの往復はたぶん40ドルほど。次に試すとしたらそれ。


「南無三!」


 これは書きかけの新作の主人公がここぞの時に叫ぶセリフです。その言葉の力を借りて、エンジンは無事に始動しました。


「行っけえ~!」


 主人公が似たような場面で叫ぶのは、前作ならこうでした。同じにするのが嫌で、それで今回は南無三( ̄人 ̄)ナムー ダンバインでショウが用いていましたね!

 結局1時間ほど余分に滞在してその場を離れました。ぶじに帰りついてからスペアの方と替えっこしたのは言うまでもありません。


 皆様もトラブル時のケーススタディ、津波看板ですとか、旅館での避難ルートなどは慣れない土地へおもむく機会の度にどうぞ。

 心配性で居る必要まではありません。心のどこかにあきらめと楽観を同居させましょう。物語の主人公のように腕一本はくれてやる覚悟で、310ドルは失う覚悟で。

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