第53話 四つの戦場
「小生は鉄球の《神器》使いをやりますぞ!」
「なら俺は、鎚の《神器》使いだな」
「ワタクシは
各々が戦うべき相手を見定めて、それに向かっていく。
んー、そういう事なら、私の相手は天秤の《神器》使いよね。
基本的に攻撃力の無い者同士なら、盾を投げれるだけ私の方が有利になるかもしれないし。
そう思って、モナイムに狙いを定めようとした時!
「!?」
空気を裂き、鞭のようにうねる鎖が、私の行く手を阻んだ!
「エアル様のお相手も、私がさせていただきますわ」
左右の手で二本の鎖を振るい、楽しげなレルールが私とコーヘイさんの前に立ちはだかる。
「オイオイオイ、そりゃ一人で俺達二人を相手するって事か?」
舐められたもんだなと、コーヘイさんが私の隣に並び立つ。
「ウフフ……勇者と英雄を同時にお相手できるなんて、聖女などと呼ばれる身としては、この上なく光栄ですわ」
どうやら、本気で私達を相手にするつもりらしい。
ううん、さすがにそれは甘く見すぎじゃないかしら?
「生意気な子供には、大人げない大人の力を見せてやる」
なんて、言うほどコーヘイさんも大人じゃないでしょうに。
まぁ、年長者を甘く見る子供には、ちょっとお仕置きが必要かもね。
聖女とか言われていても、レルールは年相応の体格しかしていないし、鎖の《神器》に注意して組付いてしまえば、簡単に押さえ込めるハズ。
まぁ、コーヘイさんがやったら絵面がヤバい気がするから、私が押さえ込まなきゃならないだろう。
「フフ、エアル様達のお考えは読めておりますわよ。ですが、そうは参りません」
むっ!何か奥の手でもあるって言うの!?
警戒する私達を前に、レルールは両手を組んで天を仰いだ。
「偉大なる天上の神よ……あなたの下僕たる、このか弱き信徒へ、困難に打ち勝つ勇気をお与えください!」
祈りの言葉を天に唱え、彼女は一心に祈りを捧げた。
すると、その変化は突然現れた!
ビキビキと音を立てながら、レルールの華奢な肉体が膨らんでいく。
太ったとか言うわけではなくて、彼女の筋肉が膨張していってるのだ!
「おお!神よ!」
何か危ない物がキマッているかのような、恍惚の表情で自らの肉体に現れた変化に、感謝の言葉を口にするレルール。
二回りほど大きくなった彼女は、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
も、もしかして、これが彼女に与えられた《加護》のひとつ【超・信仰】能力なのかしら!?
確か、信仰心の高さによってパワーアップする能力だったハズだけど、こんなにも姿形にまで影響を与えるなんて……。
まるで可憐な一輪の花が、堅牢な大木にでも変わったかのような印象だわ!
「と、とにかく近付いて押さえ込んじまえば、なんとかなるだろ……」
「そ、そうね……」
私が押さえ込もうとか、絵面を気にしてる場合じゃないわ。
ここは確実に、コーヘイさんにレルールを捕まえてもらわなきゃ。
なんて事を話していた次の瞬間、私の横をヒュッと風が通り抜けた。
と同時に、爆発じみた音が響いて、地面が大きく抉り取られる!
な、なによ、この破壊力は!?
「あら……まだ力を上手くコントロール出来ませんわね」
呆気に取られる私達の前で、ペロッと舌を出すレルール。
その可愛らしい仕草とは裏腹に、繰り出される攻撃のえげつなさは半端ではなかった。
「今度は外しませんわよ。『
ひ、ひいぃぃっ!
◆
「行けっ!我がゴーレム達よ!」
マシアラの作り出した重戦士型のゴーレム三体が、鉄球の《神器》使いルマッティーノに迫る!
「はぁっ!」
ゴーレム達の攻撃を避けながらも、鍛えぬかれた彼女の反撃は、正確にゴーレムの頭部を捉えていた!
本来なら、《神器》の能力で勝負はついている所だろう。
しかし、意識を奪おうにも肝心の脳が無いゴーレム達は、平然と体勢を立て直す。
「グフフ、無駄ですぞ。お主の《神器》は、生物相手にしか能力を発揮できますまい」
勝ち誇ったように言うマシアラに、ルマッティーノは小さく舌打ちをする。
「舐めないでいただきたい。私の
「ならば、試してみるといいでござるよ。モジャ氏との組み手の間に、攻撃を捌く事を学んだ小生のゴーレムを、砕けるかどうかねっ!」
「上等ですわ!」
鉄球の《神器》を振りかざし、再びルマッティーノはマシアラのゴーレムへ立ち向かっていった。
◆
「おおぉっ!」
雄叫びと共に、ジムリの
武装すらしていない、褌一丁の彼が相手なら、今の一撃は肉を裂き、骨を砕いているはずだった。
しかし、モジャはそんな彼女の攻撃に、まるでダメージを受けていない!
「防御されても、それを貫通して衝撃ダメージを与えるってのは大したものだが、残念ながら俺には効かない!」
彼の有する《加護》である【
しかし、その事を知らないジムリからしてみれば、まるで《神器》の力そのものが無効にされたかのような、そんか錯覚すら覚えるだろう。
「くっ……こんな馬鹿な」
「お前さん達は、俺達の前で能力を見せすぎたのさ」
仮にモジャとマシアラの相手が逆だったら、彼等は敗北していたかもしれない。
だが、こうして対策を練り、自分達に有利な状況に持ってこれた時点で、モジャは勝利を確信していた。
だが、そんな逆境に追い込まれたにも関わらず、ジムリから戦闘の意思は消えていない。
「どれだけ不利な状況でも……我が信仰がある限り、背を向けはしません!」
「そうか……なら、なるべく痛くしないようにするからな」
不退転の覚悟を見せるジムリに対して、モジャはスッと腰を落として低く構えをとった。
◆
「ふぅ……」
ウェネニーヴを前に、大きくため息を吐くライアランに、彼女は怪訝そうな表情を浮かべる。
「……何やら、不服そうですね」
「ああ、まったくもって不服だ」
ライアランは大袈裟な身ぶりと共に、ウェネニーヴを爪先から頭のてっぺんまで見回した。
「なぜ、かくも美しい少女である君に、
「……は?」
「その、ムダに大きい胸のぜい肉さえ無ければ、私の配下に迎えて優遇してあげられたものを……これを悲劇と言わずして、なんと言おう!」
何かに酔っぱらっているかのようなライアランを、氷点下の眼差しで見つめるウェネニーヴ。
「せめて、私に血を吸われる栄誉……ぶっ!」
まだ言葉を続けようとしたライアランの顔面に、竜の闘気を纏ったウェネニーヴの拳が突き刺さった!
「ま、前が見えねぇ……」
視界を奪われるほど陥没した顔面で、フラフラと虚空に手を伸ばす吸血鬼。
そんな彼に、冷たい笑顔を向けて、竜の少女はその両膝に蹴りを叩き込んだ!
関節を砕かれ、悲鳴と共に地面にライアランが転がる!
さらにウェネニーヴは、吸血鬼を踏みつけて、彼の動きを止めた!
「お姉さまになら兎も角、お前ごときにワタクシの体型をどうこう言われる筋合いは、ありませんよ?」
「ひ、ひぃ……」
「そうですね……吸血鬼は再生能力に長けているらしいですから、試してみますか」
そう言った次の瞬間、ウェネニーヴによる速射砲のような拳の連打が、憐れな吸血鬼に打ち込まれていった!
◆
「うおぉぉぉぉっ!」
「ひえぇぇぇぇっ!」
コーヘイさんと、私の悲鳴が重なる!
レルールから繰り出される、怒濤のような鎖攻撃を前にして、私達は成す術なく盾の後ろに隠れる事しかできなかった。
「この攻撃を受けて、一歩も下がらないのは、さすがですわぁ!」
洒落にならない威力の攻撃だけど、盾の重量を増す事でなんとか私達はその場に踏みとどまっている!
「おっと、危ねぇ!」
時折、防御をすり抜けてきた鎖の一撃を、コーヘイさんが弾き返す!
たまに、奇妙な軌道を描いて、盾の後ろにいる私達に鎖が襲いかかってくるんだけど、これなのよ、問題なのは!
今は距離が開いてるから、鎖の長さにあまり余裕はないみたいだけど、迂闊に距離を縮めれば鎖にも余裕ができて、変則的な攻撃が増えるだろう。
しかも、いつ天秤の《神器》によって、盾の能力が封じられるかもわからない。
そうなると、あっさり捕まってしまう事は目に見えているから、今は防御に徹するしか手がないのだ。
でも、こんな硬直状態も長続きはしないだろう。
なんとか、この状況を打破できないものか……その手立てを探していた私の耳に、コーヘイさんの呟きが届いた。
「せめて、レルールの鎖が一本なら、反撃は可能なのに……」
え!?それって、本当に!?
期待を込めてコーヘイさんに尋ねると、彼は自信をもって頷いた。
「攻撃のパターンはだいたいわかった。一本だけなら、鎖を掻い潜って、レルールに迫れるはずだ!」
おおっ、なんだか初めてコーヘイさんが勇者っぽく見えたわ!
「そう……なら、彼女の鎖を一本は私が止めるわ!」
「……できるのか?」
「できるかどうかは分からないけど、やるしかないじゃない!」
どうせこのままでは、反撃のしようはないし、向こうにはモナイムも控えている。
だったら、多少は無茶でもやれる事をやるしかないわっ!
「やっぱりスゲェよ、あんたは」
ん?なんか誉められた?
こんな時に、何を言ってるのよ、まったく!
気を取り直して、レルールの攻撃に意識を集中する。
そして来る、盾を避けて私に迫る鎖の攻撃!
ここだっ!
私はギリギリでその攻撃を受け止めると、同時に体ごと回転させて私自身にめちゃくちゃに鎖を絡ませた!
そう、あえて敵の攻撃に
「っ!?これは!」
パワーアップしているレルールは、私の体ごと鎖を引き戻そうとしたけど、そうは問屋がおろさない!
盾はすでに、数十トンの重さへと加重してある。
いくら今のレルールでも、ピクリとも動かせまい!
「いまよっ!」
鎖でグルグル巻きになった私の合図を受けて、コーヘイさんがレルールに向かって走り出したっ!
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