で、オマエは何ができるんだ? 3



 ソレしか、改名の希望がないとすれば、そうなるのだろう、が。 大きな落とし穴が、あるとすれば。


 ポイント管理者に、感情がある所だろう。


 根本的に難しいと思い、諦めないのが、さすが、ダメ子なのだろう。


「岩沢10Pで、だめ子はマイナス10P。

 ちなみに加点方式で、ポイントを一定数、溜めたら、改名することにする」


「ちなみに、なんポイントで、変わるんですか?」

「オマエは、100Pでスマ子。

 200Pでソニック、300Pで、真剣に、名前をつけてやろう」


「実質、マイナス310P…」


「おし、だめ子。座りなさい」

 ダメな生徒をしかりつけ。

 その場に、正座させる沙羅は、何なのだろう。



 だが、怒っている沙羅に。

 ポイントシステムと、命名権を握った男に、反抗しては、ならない。



 なぜなら。



 沙羅は、反抗的な目線の生徒に、上から声をかけた。


「こいつ、要らない子。略して__」

「沙羅様、すいませんでした」

ダメ子の様子からは、不満が見て取れる。


「思ってないな?」

「思ってますよぉ~」

 たとえ、どんな事をしてでも。

 覆してやろうと言う、意思と、思いだけが、沙羅に届き。


 沙羅に、素直に謝れば、キレイに納めてやろうという、気持ちすら、失わせる。


「よし、よ~く、分かった。

 用は、外で、全部、すませてこいよ。

 全部、終わるで、横穴に戻ってくるなよ?

 もう、ダメ子さんが、有能すぎるせいで。

 出すものは、全部、森の中に、還元する事が決まったから、よろしく」


「そ、そんなぁ!?」


「他に、どうすりゃ良いんだよ。

 俺も、我慢するしかないから、仕方ないだろ」


「男性と、女性は違うと思います!」


「男女差別なんて、今、引き合いに出されても、どうしようもないからな。

 このシビアな状況は、真の男女平等を、俺達に要求してるんだから」


「じゃあ、イイもん。なんとか、してきてみるもん!」

「カワイく言っても、岩沢と、キャラ、かぶるだけだぞ?」


 何とか、解決をみせた名前問題に、胸をなでおろし。

 うるさいダメ子を無視して、沙羅は、これから、どうすべきかを模索する。


 水源以外、何も解決せず。


 もっと言えば、無駄な食いぶちを、二人も抱えてしまった。

 悪いこと、ばかりではない、とは言え。

 状況は、どんどん悪い方向に、転がっているのは、誰の目から見ても明らかだ。


 沙羅は、食料と言う観点では、優秀だと思われる人物に、確認する。


「岩沢、お前、何、食べるんだ?」


 コレですと。

 足元に転がる石ころを、飴玉のように放り投げ。

 スナック菓子を、食べるかのように飲み込んだ。


 沙羅の、無駄な食いぶちのリストから。

 岩沢が抹消された瞬間である。


 現時点で、有能すぎると言っても良い。


 この子は、貧困に喘ぐ家でも。

 食い扶持減らしとして、養子に出されるとか。

 奴隷商人に、売り渡されるとか言う心配を、一生することは、ないだろう。


「エコだなぁ…。ダメ子は?」

「……」 


「えと、加点方式だけど、減点もするからな」


「沙羅様と、同じになります!」

「岩沢1P、だめ子2P減点」


「せ、殺生な! 内訳が知りたいです!」


「コレ以上、岩沢との差を比べられたくないという、醜い心に対して1P。

 ソコに含まれる、俺に対する悪意に対して、1Pです」


 言葉も出ないと、だめ子は、低い天井を見上げた。


 このまま、ココにいても、何も起こらない。

 そう思った心に、体が、次の問題を提示する。


「はらへった…」


 食べ物など、ありはしない。


 サバイバルゲームなどで、空腹度を、気にしてゲームをしていた頃には。

 煩わしさしか感じなかったが。


 飢餓による、死亡。

 我が身に降り注ぐと、思っても、みなかったコトだ。


 あと少しで、なんとかなるのに、死んでしまった。

 もう少し、もってくれても、良いじゃないか。

 水があるんだから。


 飢餓の苦しみを、知らないからこそ、思えることだ。

 元来、生かさず殺さず、極限の空腹状態で、あることは。

 世界にある、どんな拷問より、苦しいと、史実が証明している。


 それでは、時間がかかり、ステータスが数字で見られるわけでもない。

 現実的には、餓死させてしまうから、あまり、使われないのだろう。



 ゲームキャラという、命のない仮想の人物に、だからこそ、わき上がる感情でしかない。


 相手を、人だと思わなければ。

 こんなにも、非常になれるモノなのだと。

 沙羅は、自分の体で理解する。


 空腹を紛らわせるために、水を、たらふく飲んだところで、充実感がなく。


 空腹感が、なくなったというのに、体が重い。

 ただでさえ、気分が沈む環境で、ダメ子が、次々に、口を開くのだ。


「沙羅様、どうやって寝ましょうか?」

「……」


 洞窟内は、かなり広く。

 みんなで、川の字で寝ても、あまりある。


 奥行きも、それなりのモノだが。

 奥に行けば行くほど、冷えるので、今は、あまり奥には行きたくは、ない。


 フラットに、なっているとは言え。

 地面は、岩をキレイに切り出したようなものだ。


 地面は固く、寝心地は最悪だろう。


 でも、である。


「そのまま好きなところに、寝転がるしかないだろうが」


「すごく堅いから、何か敷きましょうよ」


「何を?」


 ダメ子の、ポカンとした顔。

 今日一日で、何回、見せられたか分からない。

 何も考えていないと言っている、ダメ子の顔。


 それでも、頭だけは、回るのが、ダメ子なのである。


「葉っぱでも、しきますか?」

 思いつきだから、細かいところまで、考えていないのも。

 また、ダメ子である。


「今から、森に入れってか!」

 指さした、洞窟の外は、ほとんど闇が支配しており。


 横穴の中も、かろうじて見える程度の暗闇が、広がっている。

「じゃあ、どうするんですか?」

「こうなったら、寝る以外、何も、できないだろうが!」


 24時間、明かりがあり。

 電線が、這いずり回る、町に慣れていたからこそ。

 考えもしなかった、現実である。


 火というモノを、扱えないキャンプは。

 日が沈んだ時点で、終了である。


 なにも、見えなくなって、しまうのだから。


 今日は、天気が良いこともあり。

 月か、どうかも、分からないモノが、夜を照らしているのが、今の光のすべてだ。


 手元すら見えるか、怪しい夜に。

 何かしようとすることが、間違っている。


 知識なんか必要なく、体験すれば、イヤでも、そう思えるモノだ。


「このまま寝るのは__」

 と、言いかけた、ダメ子の視界の端で。


 おとなしく、体を倒し。

 腕を、枕代わりに、スヤスヤと寝る、岩沢の姿が見え。


 沙羅の視線も、岩沢へ向かえば。


 良い夢でも見ているのか、なんとも、カワイイ笑顔を見せた。


 岩沢は、この環境に完全に適応している。

 沙羅や、ダメ子の思いは、ただの、わがままだと。

 岩沢が、教えているようだった。


 ダメ子は、すっかり、毒気を抜かれ。

 渋々、体を横に倒していく。


「最初から、なんでオマエは、そう、素直に行動できないんだ?」


「そういうつもりは、ないんですよ、本当に」


 沙羅は、ホコリで汚れた顔を洗い。

 二人を見れば、仲の良い姉妹のように、寝息を立てる、二人が目に入り。


(ああ、そうか)


 岩沢は、分かりやすく。

 ダメ子という存在が、全てを、忘れさせるが。


 二人とも、まだ、生まれて一日たっておらず。

 この世界に来て、沙羅自身も、一日も、経っていない。


 そんな、当たり前のことを、納得し。


 何かしたようで。

 何も、デキていないように見える、一日を振り返れば。


 今まで感じたことのない、感情が、わき上がり。

 顔に、笑みすら浮かぶ。


 両肩に、思った以上に、力を入れたいたことを、自覚し。



 襲ってくる、疲労感に逆らわず。

 別々に寝ている二人の間に、腰を下ろせば。


 今日一日の教訓と。

 明確に。

 沙羅がやらなければ、いけないことが、浮き彫りになる。


(俺が、つなげてやらなきゃ、ダメなんだな…)


 そのまま、体を倒し。

 堅すぎる地面では、寝ることすら、ままならないと、思っていたのだが。


 想像以上に疲れを、一日でため込んだ体は。

 静かな夜の空気と。

 心地よい虫の鳴き声が、沙羅の意識を、眠りに連れて行き。


 横穴の中に、初めて、川の字が、できあがった。

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