第32話 話題
「こんにちは~! もうそろそろ、こんばんはかな? 配信するよ」
『こんにちは』
『なんかまた始まった……?』
『この時間って挨拶困りますよね』
『さっきコラボしたばっかりじゃない?』
『休んで』
『配信するの?』
『大丈夫ですか?』
「んー、ほら。辛子風味さんと話してたらテンション上がっちゃって? あとは、そろそろお絵描き配信もしようかなって!」
『普通に心配』
『まあ、そういう日もある』
『起きてる間ほとんど配信してない?』
『子供じゃないんだから、自分で体調管理してるだろ。杞憂民か』
『デビューからずっとじゃない?』
『今日は何描くんですか?』
『たのしみ!』
『私はギブです』
『これが終わったら……(フラグ)』
『真面目に休んだ方がいいですよ』
「みんな優しいね~。じゃあ、この配信が終わったらちょっと休もっか?」
『本人が大丈夫って言ってるなら大丈夫だろ』
『配信が長い分には嬉しいけど』
『こんにちは! 今日も楽しみです!』
『題材決まってる?』
『体調が心配』
『挨拶は?』
「挨拶忘れてたね! こんにちは、世界一大人気のイラストレーター、黄金みかんちゃんだよ♪ もっちろん、みんなは私のこと知ってるよねぇ? おとこのこもおんなのこもー、皆ぁ、みかんちゃんをすこってねぇ♪」
『ほんとうにそれで固定なの? 完全に黒歴史になるよ?』
『相変わらずひどすぎるw』
『元凶は誰?』
『もうちょっと短くないと忘れそう』
「今日はね、たまにはおとこのこ描こっかなって思って、あ、男のむすめの方じゃないよ? ついてるほうね? ん? 両方ついてるね? えっと、普通に子供ね、子供」
『何がついてるんですかねぇ……え、ほんとにそっちじゃん』
『虹のオスはメスだから』
『ついてる分お得!』
『男の子ってことは、子供か』
『男の娘のほうも見たい!』
『本に小さいときはそこまで男女の差が出ないって書いてあったんですけど、実際どこを意識してるんです?』
『BANされる……』
『もろだしですか?』
φφφ
篠目柚子Side
「黄金みかんって知ってる?」
「ぶっ!? ごほっごほ……」
3人でビデオ通話中、みっちゃんの言葉に思わず飲んでいたお茶を吹き出す。
「ちょっ、ゆず、大丈夫?」
えりちゃんが心配してくれる。
台拭き……って、それどころじゃない。
「どしたん、ユズ?」
「う、ううん。なんでもない……ちょっと変なところ入っちゃって」
みっちゃんから姉の名前を聞くなんて予想外過ぎて慌ててしまった。
でも、能天気に、「あ、それ私の姉」なんて言うわけにもいかない。
「で、みかん? それ美味しいの~?」
「エリ、果物じゃないから。人の名前っつーか、芸名?」
「聞いたことな~い。ゆずは?」
「き、きいたことないかな……」
ないったらない。
というより、どうして?
今までそんな話題……
「バーチャルユーチューバーなんだって」
「あ~、見たことあるかも~。あれだよね、アニメ?」
「たぶんそう。なんか、たまたま見つけたんだよね」
「へ、へぇ……みっちゃんってそういうの興味あったんだ?」
「興味あるっつーか、アレじゃん? 最近話題になることあるし、多少は知っとこっかなって。トレンドのったりしてるし」
だからか……
みっちゃんは、とにかく流行を追いかけてる。
だから、トレンドとかを普段からちょくちょくチェックして……
「黄金みかんがトレンドのったの!?」
「んっ!? どしたの、いきなり?」
「あ、いや、話の流れ的にそうなのかなって」
「いや、黄金みかんって人自体はのってない。たまたま検索してたら出てきただけ」
「そ、そうなんだ」
だよね。
流石に、こんな短期間で……
「でも、なんかタイムラインでも反応してる人多かったんよね。元々イラストレーターだったらしいよ」
「漫画描いてるひと?」
「絵専門のひとらしいよ? なんか、そっちで有名だったんだって」
……え、そうなの?
イラストレーターってことは知ってた。
でも、有名?
え、知らない。
「み、みっちゃんはなんで興味持ったの?」
「なんかー、謎多きイラストレーターって書かれてたんよ」
「何それ~、ゴシップ読んでるの~?」
「性別とか、年齢が分かんなくて、何人かもわからなかったらしいよ」
え?
一人でしょ?
誰かと一緒にやってるとか聞いたことないし。
「何人ってどういうこと?」
「友達に聞いたんだけど、めっちゃ仕事が速いらしいよ?」
「仕事が速い?」
……全然イメージわかないんだけど。
絵を描いてるのは知ってるけど、のんびりしてる姉の姿しか浮かばない。
「いや、私もよくわかんないんだけど、めっちゃ早口で説明されたんよね。同時に3個掛け持ち?とか言ってたけど」
「なにそれ~?」
「さあね? で、黄金みかんっていうのはグループ名なんじゃないか、って噂があったりしたらしいよ? ま、とりあえず有名そうだった」
「へぇ~、私も見よっかな~」
「や、やめた方がいいんじゃない?」
「え、なんで~」
「……そろそろ期末だし?」
「え、そだっけ? いつ?」
「2週間後だよ~」
「やっば、レジュメ頼まなきゃじゃん」
……あの、お姉ちゃん何してるの……?
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