13
学校に戻ると、部活ではガガボールという壁を使うドッヂボールをやっていた。
四方壁は無理なので体育館の隅と二辺を体育館にあったボードで閉じる。
バウンドする間「ガ・ガ・ボール」と掛け声をかける。
こういうバカバカしいっぽいことも真面目にやるのがこの部活の良いところだ。
そのあと腕でボールを打って鬼が他の人を狙う。
「四方が壁なの、なんとか作ってみたけどこの季節だと暑いな…」
確かに。
「あと腕で打つって定義曖昧じゃないですか?」
3年生があきらめたようにひとつのボードを運びはじめた。
するとボードの裏にいたのは、以前握手を求めて来た中川琴姿であった。
「探したわよ」
もちろん探されてるのは俺のようだ。
先輩たちが「ヒューヒュー」と小さな声を鳴らしているが、俺は無視した。
真っ黒ストレートの髪をおかっぱに切りそろえ、赤い眼鏡の似合う琴姿は背も高くスラッとしていて確かに美人の部類だ。
「ちょっとこっちに……」
俺は琴姿にしたがって体育館の裏に行く。
「どこから話したらいいのかしら」
琴姿は困ったような仕草を見せた。急に彼女の手が異常に冷たかったことを思い出した。
「あなた、なにか力を持ってるわね、これは私もだから言うことよ」
「なんだと」
急速に話がすすんで行くのを感じてめまいを感じた。
「私の力は、ある意味死んでいること。キョンシーと呼ばれているけど、他の力と同じく調べてもはっきりした定義はないわ」
「死んでいる?」
「そう、私小さい頃交通事故にあったの。父母は即死だった。私も死んだと思われていたわ」
そんな悲しい事実が……俺の家も変わっているが、変な力を持っている上に不幸にみまわれるのは何なんだ。世の中不公平すぎる。
「3日後、私は生き返った。突然心臓が動き出したの。ひとり家で留守番していて無事だった兄が、私が火葬場へ送られるときに”ちょっと待ってください!”って、火葬されるのを止めたわ。そして私は心臓は動いているけど、とても冷たい体を持つ体質になった。暑さや寒さは感じないわ。あと心臓をある程度止めることができる。体が硬化しているらしく、ナイフなどは刺さらないわ」
琴姿の話を聞くとうちの吸血鬼の家系というのとさほど変わらない。そんなものだろう。
しまった、悲しい話を聞いてしょんぼりしてる場合ではない。
「俺は吸血鬼の家系っていわれてるけど同じようなもんだ。狭いところに入れたり、ちょっと睨むと相手が動けなくなるっていうくらい、あと身体能力が強いこと」
「キョンシーも吸血鬼も「空を飛べる」だの「鏡に映らない」だの書いてあるけど、ふたりともそういうことはないのかしら?とりあえず私にはないわ」
「俺もそんな力はない、血を吸って人を吸血鬼にしたりもできない、害がないといえばないな」
ふたりとも少し笑顔になった。
「あなたのお祖父様、一時期私の祖父と同じ大学にいたらしいのよ」
「!」
「犬飼って名字、そんなに珍しいわけじゃないけど。祖父が話してくれたとき目が赤いって言ってたから気になって」
だから握手を求めれられたのか。
しばらくの沈黙の後、「私、両親がいなくても兄のことが大好きなの」
琴姿は急にはにかんだ顔になった。そういえば琴姿も「妹」なのか。
「だから不幸じゃない。あなたは?」
「俺も家族が大好きだ」
さすがに妹を名指しすることはできずにごまかしたが、これから力を持つもの同士なにかあったら協力しましょう、ということになった。
こちらから”Six"の話をしようとしたが、まだ何も知らないらしい。
あえて言わない方がいいだろう。
部活に戻ってきた成果はあった。家に戻って飯を食うか。
まだ18時だというのにずいぶん長い一日だった気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます