冷たい足

黒巻雷鳴

冷たい足

 寒い。

 とにかく、寒い。

 今の時期は、朝も昼も夜も……いや、昼間はまだマシだが……とにかく、朝晩は寒過ぎる。

 季節というヤツは、どうもおれにはわからない。春はポカポカ、夏はムシムシ、秋はピューピュー、冬はカチンコチン。まとまりがない。統一性がない。一貫性がないのだ。

 そんな季節の中で、おれは春が一番好きだ。

 ポカポカ日射しの下で一日中、昼寝をするのが好きだ。

 昼寝なのに一日中とは、これいかに。難しいことは考えない主義なので、これ以上深く考えるのをやめたおれは、暖をとるべく炬燵こたつへと向かった。


 暖かい炬燵は、まさにブンメイノリキだ。難しいことは考えない主義なので、この言葉の意味を〝人間って凄いね〟と同じニュアンスで使ってみた。

 窓の外を見上げる。空は曇天。どんよりドロロンとしていて、これから雨か雪でも降るのかもしれない。つまり、もっと寒くなるということだ。

 おれは小さく身震いすると、炬燵布団に潜り込み、ブンメイノリキのポカポカに包まれてまぶたを閉じた。


 浅い眠りに就いていると、炬燵の外から金切声と激しい物音が聞こえてきた。

 また始まったのか……片耳だけピクンと動かす。

 近頃、御主人様が騒いでは泣いている姿をよく目にする。あの男が出入りするようになってからなのだが、人間のことは詳しく知らないので、おそらく御主人様は、そういう時期なのだろう。おれも去年の今頃は悶々として騒いでいたが、今年はなぜか、なんともムラムラしてこない。

 また物音が聞こえた。

 嫌な雰囲気がこれ以上入ってこないように、おれは瞼と耳を閉じて、ふたたび眠りに就いた。


 眠りから覚め、お腹が空いてきたので炬燵布団から顔を出す。

 すぐ近くでは、御主人様がビニール袋をすっぽりと被って横になっていた。

 いつもはおれがそうやって遊んでいるのだが、きょうはどうやら御主人様が遊びたかったらしい。満足したのか、疲れ果てて眠っているようだった。

 早く御飯の用意をして貰おうと思い、御主人様の足にそっと触れてみると、キンキンに冷えきって固くなっていた。

 どうせ眠るなら、炬燵に入ればいいのに。こんな近くにあるブンメイノリキを使わないなんて、実にもったいない。


 もう一度足に触れてみたが起きそうにないので、あきらめてまた炬燵の中へと戻ったおれは、ポカポカの下で瞼を閉じて丸くなった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

冷たい足 黒巻雷鳴 @Raimei_lalala

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ