42.  俺達の戦い ~処断


「始末するぞ」


 俺は物見櫓にいる四人に向けて決意を示す。

 全員静かに頷いている。やはり従順な配下は使いやすい。


「剛は俺と来い。アイツを力でねじ伏せろ。殺して構わん。良太は俺と剛と一緒だ。アイツの背後五メートルあたりに転移。和夫はここから投擲だ。俺が合図したらアイツを攻撃しろ。隆はここで探知だ。武装集団が近づいてきたら和夫に合図をしろ」


「承知!ぶっ殺してやりますよ」

「この距離の転移なら問題ありません」

「了解です」

「探知を継続します」


「よし。合図したら転移だ。今度こそ決着つけるぞ」


 目標は二百メートル程先か。俺には顔は全く分からん。そもそも注意して見ないと人がいるのかすら分からない。

 隆の探知能力は役に立つ。異能の訓練も日々している。防衛には欠かせない存在になっている。

 隆が見つけ和夫が投擲で始末する。この二人の”探索”と”投擲”の異能は防衛向きのコンビだ。

 

「アイツが女と少し離れました。もしかしたら撤退するかもしれません。どうやら様子見で近づいたようです」

「よし!飛ぶぞ!」


 良太が”転移”の異能を使う。これは良太が視認できた場所に一瞬で移動できる異能だ。何度も使えないのがネックだが強襲するには持って来いの異能だ。

 同行する剛は”身体能力向上”の異能だ。中程度のようだが力で剛に敵う者はいない。


 視界がぼやける。すぐに回復するがその時は思った場所に立っている。剛にアイツの相手を任せ俺達は窪みに隠れる。


「お前達何者だ?」


 剛の声かけにアイツは素早く反応する。その時顔が見えた。

 間違いない。アイツだ。痩せたようで顔はかなりやつれているようにも見える。服装もこの界隈の邑人の服装だな。

 隆が言う同行者も邑の女という事だったな。保護されたのか。

 それにしても剛を見ても反応が鈍い。警戒はしているが既知の人間とは気づいていない様子だ。どうなっている?

 まぁ、いい。ここで殺すのだから。まずはアイツを殺してから同行者の女だ。

 回り込んで俺からも声を掛けてやる。絶望に溢れた顔を見てみたいからだ。二度も殺される心境を聞いてみたいじゃないか。


「ほう。これはこれは。どうやって生きていた?」


 目の前のアイツが慌てて反応する。

 おかしい?

 突然別方向から声を掛けられて驚いただけだ。俺を忘れたと言うのか?

 なんともしっくりこない問答が続く。

 面倒だ。さっさと片づけよう。俺は物見櫓に向けて合図を出す。アイツを狙撃しろという合図だ。

 

 程なく正確な攻撃が命中する。

 アイツは転倒したが意識はまだ保っているようだ。随分頑丈だな。前は杏介の異能で始末したからな。

 まぁいい。三人で袋叩きにすれば問題なく始末できるだろ。苦しませて殺してやるよ。



 

 どうなっている?

 目の前が真っ赤に染まっている。俺の血だ。

 頭が痛い。

 気づけば仰向けに転がっている。

 何がどうなった?

 

「ご主人大丈夫ですか?」


 良太が焦ったような声を掛けてくる。何が大丈夫なんだ。ああ、そうか俺は怪我をしているか。

 ようやく何か起こったか分かりかけてきた。

 

「良太。俺は気絶していたのか?」

「やはりそうでしたか。十秒程度だと思います。どこからか石が投げられてご主人の頭に当たったようです。攻撃に気づかず申し訳ございません」


 そうか。やはり少し気絶していたのか。

 良太は青ざめているがこればかりは仕方ない。”転移”の異能以外は良太は戦闘向きではない。

 それにしても攻撃していたのは隠れていた女か。

 くそう油断した。かなりのダメージを貰ったな。

 女を探そうと体を起こす。剛がその女に向けて攻撃をしようとしているのが目に入る。

 

 まずい!

 

 剛に止めるように指示しようとするが間に合わない。

 女が剛の攻撃を受けて吹っ飛んでいく。

 

 やめろ!

 

 激しい痛みに襲われて俺は再び意識を失ってしまった。

 なんで・・・。


 意識は激しい痛みで唐突に戻る。

 

 ぐああああああああ。

 痛い!

 なんだ・・・。

 あの女何者だ!

 

 とにかく不味い。

 かなり不味い。

 ここから逃げないと。

 剛は何が起こったのか分からないようだ。女への攻撃を止め俺の様子を見ている。

 ・・・それでいい。


「・・・良太。て、転移を使え。も、物見櫓・・・へ。はや・・く」


 良太が狼狽しながらも転移を始める。

 転移の感覚に包まれながら俺は意識が遠くなる。

 

 アイツは殺し損ねた。和夫の投擲で始末しないと。

 しかしあの女は一体・・・。

 

 

 


 ゆっくりと意識が戻る。

 俺は物見櫓で気を失っていたままのようだ。

 周りには剛、隆、和夫、良太がいる。それぞれ心配そうな顔をしているが本音かどうかまでは分からない。

 この様子ではヤツらに対して有効な手段は使って無いだろう。結末は予測できるが確認するのも俺の作業だ。


「・・・アイツはどうなった?」

「取り逃がしました。突然救援が入り二人を助け退却していきました。和夫には手当たり次第に投擲させたのですが命中はしませんでした。既に探知範囲外です」


 隆が顔を歪ませている。コイツの探索に気づかれず近づくとは。何者だ?

 

「おやおや、取り逃がしちゃったの?会長どうしたの?」


 な、・・。杏介か。いつここに来たんだ。

 

「聞いた通りだ。不審者は逃げていった。今後近づいてくる可能性は少ないと思うが警戒は必要だ」

「へー。逃がしちゃったんだ。会長が始末に失敗するなんて。何があったか興味があるねー」

「予想外の行動に取り逃がしただけだ。次来たら逃がさない。それよりお前は何をしに来た?」

「俺?俺は只の見学だよ。なんんか興味あったしさー。そうかー。逃げられたんだー」


 気に障る笑みを浮かべたまま杏介は物見櫓から降りて行った。

 ただの冷やかしでは無い。相変わらず何を考えているのか分からないヤツだ。


 それにしてもあの女が気になる。どうも異能持ちのような気がする。見た目戦闘能力はなさそうに見えたからだ。

 何やら特殊な異能のような気がする。興味が湧いてきた。上手く俺の僕にできないだろうか。

 アイツを殺して女を手に入れる。

 唐突に思ったのだが案外悪くないと思った。

 

 

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