41.  俺達の戦い ~不審者


SS's eyes 


 思ったよりも上手く進んでいない。

 占拠したキュメネ邑の邑人は俺に忠誠を誓わない。庇護下に入らなければ殺すとも宣言しているのにだ。

 俺ではないが占拠時に抵抗した邑人を何名か殺害している。俺達の行動はブラフでは無いと分かっているはずなのにだ。

 加えて忠誠を誓わなければ家からも出さないと宣言している。確実にその宣言を実行しているのだ。

 未だに邑長は抵抗している。それ程態度が変わらないのは他の邑からの救援があると考えているからかもしれない。

 ようやく忠誠を誓った邑人の意見では他邑からの救援で俺達が蹴散らされると確信しているフシがある。

 ならば次の手は簡単だ。

 他の邑も占拠すればいいんだ。幸い邑を攻めるための能力を持った者はいる。それを使えばいい。

 話を聞くと周辺には三つほどの邑があるようだ。

 イキシ邑、ネルヤ邑、クージ邑。

 クージ邑は他の邑と交流が殆ど無いそうだ。黒い噂の多い邑らしい。野盗との関係が深いという噂があるとか穏やかでは無い。寧ろ敵対しているようだ。争いはどこにでもあるものだな。

 イキシ邑はキュメネ邑よりは邑の規模は大きい邑で一番遠い所にあるそうだ。片道二日は必要のようだ。各邑の戦力である武家の実力はここと同程度らしい。

 問題はネルヤ邑のようだ。この周辺の邑で盟主のような位置にあるそうだ。急げば片道一日で行けるとか。他の遠い邑との交流も唯一あるようで武家の力も強いらしい。

 キュメネ邑はこのネルヤ邑に救援を出したに違いない。だがその救援は届いていないと考えている。理由は単純だ。ネルヤ邑を制圧したのは七日前だ。しかし未だに救援どころか様子見をする者が来る気配すら無い。

 それ以前に俺達は動いている。これが有効に聞いていて救援を出せない筈だ。

 我々のメンバーを派遣しているからだ。各邑には相応のダメージを与え、降伏勧告するように指示している。詳しい報告はまだ来ていないが対象の邑は救援どころではないだろう

 救援を出させない事が優先だが、あっさりと降伏してもらえればそれでいい。反抗されてもあの二人なら容赦なく反撃してくれるだろう。

 その間にキュメネ邑の住人に俺に対して忠誠を誓わせればいい。

 俺の支配下に入れば異能を手に入れる可能性があるのだ。しかも自身の能力向上もできる。良い事づくめだ。その事は既に説明している。

 それなのに未だに抵抗を続けている。


 上手く進まない。


 他にも上手くいかない件がある。

 キュメネ邑の制圧時に仲間の何人かが同時に逃げたのだ。そこには俺の恋人がいた。彼女が俺の元を去るのは想定外だ。邑を制圧する事には反対していたが生きていくには必要な事なのにだ。

 力を持たないアレでは自分の身も守れないのに。優先事項で捜索させているのだが未だに彼女を保護する事ができていない。追跡チームも優秀なメンツを揃えているんだが。一報すらない。


 他にも上手くいかない事ばかり。

 俺の”支配者”の能力を使って異能持ちを増やす計画が頓挫しつつある。意外にも俺達の仲間に異能を発現する者は僅かだった。むしろ邑人の方が確立が高いと思っている。

 だから支配を完了させ異能持ちを増やしていきたいのだ。それも上手くいかない。


 なんだってんだ!

 クソッ!

 

 そもそもアレが俺の元から逃げてから良くない事ばかりだ。

 なぜ俺の元から逃げた!

 連れ戻したら鎖でもつけて俺の側に置こう。二度と俺の元から離れないように。そのような異能持ちも手駒にしないといけない。

 

 不足ばかりだ!

 

 

 気づけば扉のノックの音か聞こえた。思考に沈んでいた俺は気づかなかったようだ。

 ノックと同時に声まで聞こえる。かなりの間放置していたようだ。そこまで思索に更けていたとは。

 これは示しがつかないな。

 急いで応答をする。入ってきたのは声で既に分かっていたが杏介だった。

 この時間に俺に報告してくる件はそれ程無い。良い報告でないだろうと言う事は想像がつく。全く、ここ数日本当に良くない事ばかりだ。

 

「報告事項か?いくつあるんだ?」


「先にそれかい?別に報告に来たわけじゃないんだけどな。みんなの士気が落ちているみたいから忠告にきたんだよ」

「士気?部下達のか?どういう事だ?」

「部下?同級生や後輩じゃないの?成程、会長はみんなを部下と思っているんだね?」

「全員俺をリーダーにすると一致しただろう?些細な違いはあるかもしれんが俺の指示を受けるという意味だ」


 ぐ。揚げ足を取りやがって。杏介は無非情で淡々と話してくる。やりづらいことこの上ない。

 杏介は既に異能を持っている。だから俺の影響を受けていない。俺に隷属はしていないのだ。だが、俺の指示を受けている以上部下にきまっているだろう。

 全員で投票して俺がリーダーとなる事決まったじゃないか。部下と一緒だ。言葉の表現など些細な違いだ。そういう思いを込めて睨みつける。

 しかし全く怯む所はない。

 そもそも表情が変わらないからな。杏介の表情が変わった所を俺は見た事がない。人に興味はあるのだろうかといつも思う。

 やはりコイツは扱いづらい。


「一応断っておくよ。俺は酷い扱いを良くしてもらうために一緒に行動しているだけだよ。会長の部下じゃないからね。そこ勘違いしないように」

「・・・・分かった。それで士気とはどういう事だ?」

「あー、そうだね。邑を制圧したんだけど一向に衣食住が改善されないからだよ。みんな狭い部屋に押し込められているし。食料はもう無くなっている。今日の夜でなくなるよ。どうするんだい?」

「邑の連中が抵抗を続けているから食料提供の目処が立っていない。交渉は続けるからもう少し切り詰められないか?」


 俺がこれだけ悩んでいるのに食料の心配かよ。少しは節約しろよ。


「これでも結構切り詰めているんだよ。思うままに食事を摂っているのは会長と自称幹部の人達だけだよ。知っている?勿論俺は自称幹部じゃないよ」

「・・・分かった。数日分はなんとかかき集めてくる。お前から伝えてもらえるか?」

「承知した。早く頼むよ。みんな結構ストレス溜めているからね」


 杏介は言う事だけいって部屋を出ていこうとする。それだけのために来たのか。

 確かに食料は仕方ないか。まずは邑長や四長老の家から接収するか。抵抗している見せしめだ。

 この邑は元々備蓄が少ないのは占拠してから分かった事だ。それだけじゃ足りないだろうな。

 抵抗する他の家からも接収するか。されたくなければ忠誠を誓えと強制すればいいだろう。

 うむ。それで行こう。

 この邑・・キュメネ邑の資産は制圧後数日たってからやっと確認できた。この邑は本当に貧しい。今後の事を考えると他の邑を制圧して調達するしかない。

 

「あー、そうだ。そういえば魁から連絡は来ているのかな?同行している真白では魁を抑える事はできないと思うんだよね」

「アレは作戦行動中だ。目的行動が終われば戻って来る手筈になっている。その時にはどこかの邑は制圧できている可能性がある」

「へえ。本当に大丈夫かな?魁は俺と違って野心溢れているよ。きちんとコントロールしないと厄介な事になるかもしれないと思うよ」

「妙な事を言うんだな。何かあったのか?」

「別に。ちょっと気になっただけだよ」

「分かった。連絡員を向かわせてみる。任務の状況確認ついでだ」

「そうしておいたほうが良いよ。会長の人望は限定的だからさー」


 コイツ。言いたい事をぬけぬけと。誰が苦労して今の状況までもってきたと思っているんだ。コイツは俺に対する感謝の念が足りない。

 言いたい事だけ言って部屋を出て行った。

 クソッ!

 余程頭に来ていたらしい。手に持っていたペンを折っていたのに気づく。

 クソッ!

 怒りのままに折れたペンを叩きつけようとしたが俺を見る視線に気づき動きを止める。

 ドアは占められていなかった。杏介は首だけ出して俺を見ている。無表情が気持ち悪い。

 

「まだ何かあるのか?」

「んー、物見櫓で監視している隆だったかな。探索能力を持っているじゃない?そこから伝令が来ていてさ東の方向から二名の不審者が近づいてきているんだって」

「な、何!?そういう事は早く言え!いつ探知に引っかかったんだ?」

「そこまでは知らないよ。俺が聞いたのは十分程前かな?会長の所には用事があったからついでに伝えておくと伝令には言っておいたよ」

「なら不審者の報告を先にしろ!食糧事情より優先するだろうが!

「ま、いいじゃない。伝えたんだからさ。あと宜しくね」


 本当に言いたい事だけいって今度こそドアが閉まる。

 なんなんだ!アイツは!

 不審者は邑の様子を探りに来たんだぞ。捕らえて尋問しないといけないだろうが!

 クソッ!

 今度こそ折れたペンを叩きつける。


 俺は物見櫓に向かって走しかない。

 クソッ!



 俺の執務室から物見櫓までは走って五分程度だ。杏介が無駄話をしなければもっと早く到着できた筈だ。何故報告を後回しにしてどうでもいい事を話すのか。度し難い。

 物見櫓には監視させていた隆がいる。コイツは俺の異能によって探知向けの異能を獲得したのだ。周囲の警戒には結構使える駒だ。

 今みたいに不審者を素早く探知するのだ。重宝するヤツだ。

 そこに呼び出した剛、和夫、良太と一緒に昇る。

 この四人は俺に忠誠を誓い忠実な僕となっている。杏介のような反抗は全くしない。こういう駒があと数名いる。だがまだまだ足りない。

 もっと配下を増やさないとな。

 物見櫓を昇りきると隆が報告してくる。


「ご主人、東方向二百メートル程にある窪みに二名隠れています。この邑の様子を確認しにきたのか、それ以上は近づいてきません」


 ふむ。二名か。十分以上は経過しているだろうからもう少し詳細な情報は異能で獲得できているだろう。確認してみるか。


「二名はどんな者達だ?」

「男女二名です。女は近隣の邑の女ではないかと。武装はしていません。男もナイフ程度の武器のみ所持しているようです。ですがこの男・・邑の人間ではなさそうです」

「邑人ではない?詳しく話せ。お前の推測を交えても構わん」

「はい。少し気配は変わっているようですが、この気配には覚えがあります。あの時殺したアイツです。十日以上前に殺したアイツです。念をいれて何度も確認しました。ですが間違いないと思います」


 ・・・何だと。

 隆が言うようにアイツは確かに殺した。死体は近くに置けないから飛ばした。その後で蘇生でもしたというのか?

 信じられない。

 だが隆の探知は否定できない。忠実な僕である者達は俺に対して一切の嘘や虚偽報告をする事ができない。故に真実であるのだろう。

 そこは分かっている。

 が、しかし。どうやって生きていたというのだ。

 生きていたとし仮定しよう。

 この邑にやってきたという事は俺達の行動を訴えるためなのか?

 かなり面白くない。ベラベラと喋られるわけにはいかない。会わせる事は駄目だ。

 

 どうする?

 

 再度、殺す、しかない。


 俺は心の中で再度決意する。

 そうだ。

 始末しないと。

 これ以上裏切者が出るのはまずい。


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