▲.武家隊員の独白


 くそ!

 一体どうなっているんだ!

 俺達が簡単にあしらわれる筈がないんだ。

 一体何者なんだ?

 本当に何もできなかった。

 何をされたのかも分からなかった。

 夢でも見ているようだった。

 

 否!

 違う!


 俺の体には取り返す事ができない傷が刻み込まれている。もう二度と元の体に戻らない酷い負傷をしてしまった。

 だから奴になんらか方法で攻撃をされたのは確実なんだ。

 それが分からない。


 くそ!苛つくぜ!

 

 そもそも体が自由に動かない!

 左足が膝下から思うように動かせない。

 右目周辺も骨が砕け目が開けられない。

 治療の心得がある副長の意識は混濁したままだ。話しかけても反応が全くない。変なうめき声が返ってくるだけだ。副長生きているよな?

 仮に副長の意識が戻ったとしても治療は隊長が最優先になる。一番の重傷は隊長だからだ。しかし隊長は大丈夫なのか?半分以上死んでいるんじゃないか?隊長大丈夫だよな?

 隊の中ではこれでも俺が一番まともに動けている。足が動かないにも関わらずだ。

 今の俺は隊長を背負いながら必死に歩いている。と、いうか奴から逃げている。

 副長は俺ともう一人の仲間でなんとか支えている。

 完全に敗北者達の逃避行だ。

 

 くそ!

 なんでこうなったんだ。

 ご当主様の指示は楽な任務だったはずだ。最初聞いた時に俺はそう思った。

 棄てられた巫女と弱い護衛の始末だ。巫女の技能を他家に漏らす事はできないのがその理由らしい。隊長は渋い顔をしていたが。

 一騎当千の俺達には簡単な仕事だったんだ。

 最初の襲撃は予定通り簡単なもんだった。

 それが油断だったのか女達には逃げられてしまった。

 だが護衛は全員殺した。残ったのは女だけだ。もう簡単だ。その女達は二手に分かれて逃げていった。一人は邑の方向に逃走。もう一人は北方向だ。

 北は邑が無い。なんでそっちに逃げたのか分からんがすぐに追いかけなくても問題無いと隊長は判断した。

 だから全員で邑方向に逃げた女を追いかけ殺した。この女は巫女じゃなかった。

 後から考えると一人だけでも北に逃げた女を追いかければよかったんだ。隊長の判断だから俺は文句は言えないが。後から罰を受けるのは全員だからたまらん。

 ムカつきながら北に逃げた女を追った。

 女の始末に時間をかけてしまったからか巫女を見つけられないまま夜になった。

 周辺での野宿は危険だ。一旦安全な邑の近くまで退き一夜を明かす。巫女は一人だ。俺達ですら野宿は危険なんだ。だから生きている筈が無いんだ。

 俺達は巫女は死んだ事にして任務完了にしようと隊長に進言した。

 だが隊長は確実に死体を確認しない限り任務続行と言う。

 巫女が魔物に襲われ食われちまったら死体すら確認できなだろうに。まぁ、そんときには適当に報告すれば良いと隊長は言う。

 ならほっといて邑に戻ればよかったんだ。どうせ生きていられるわけがない。


 実際には生きていたんだから隊長の判断は正しかったのかもしれんが。

 だが俺達にとっては帰った方が良かったんだ。

 

 翌日の昼くらいに偶然にも巫女と会った。場所は巫女の護衛を殺した場所だった。

 まさか生きているとは思って無かった。それにこの場に戻って来るとは思って無かった。隊長も意外だったようだし。

 想像外なのは他にもあった。

 巫女一人で無く二人で来ていたんだ。そんな事は全く想像できない事だった。どこに協力者が潜んでいたんだ?

 黒髪の枯れ枝のように細い男だ。こんな細い男は近隣では見た事が無い。よくこんな体で生きているもんだ。もしかしたら巫女に助けられたんじゃないのかとまで思った。

 最初はそんな印象だった。

 それは隊長も同じだったようだ。取り囲むように指示をして巫女の元へ、いや巫女を庇うように立ちふさがった黒髪の男へ向かって行った。

 

 そこからが何が起こったか分からない。

 黒髪の男が見えなくなったと同時に隊長と副長が突然倒れた。

 倒れ方も奇妙だった。突然意識が無くなったように倒れたんだ。体が奇妙な方向に曲がっているように感じだ。

 

 どういうことだ?


 何が起きたか本当に分からない。

 残った仲間と俺は何が起こったか分からなかった。

 スージの群れですら俺達の隊は簡単に討伐できるんだ。こんな細い男なんか枝を折るより簡単だと思っていたんだ。


 だから目の前の光景が信じられなかった。

 隊長や副長は俺達なんか敵わない腕前なんだ。その二人がなんの抵抗もなく倒されるなんて。

 その時はそれ以上考える事ができなかった。

 考える前に黒髪の男の攻撃が俺達に向かったからだ。

 否、黒髪の男の攻撃だったのすら俺達には分からなかった。

 そもそもの攻撃が見えなかったからだ。

 分からないまま攻撃を受け、あっさりと意識を奪われてしまった。

 その後に何が起こったかは知る由も無い。

 

 痛みに意識が戻れば黒髪の男と巫女は居なかった。

 隊長は勿論全員起き上がる事ができていない。俺が先に意識が戻ったようだった。

 俺にも相当なダメージがあるのは分かったが明らかに隊長がヤバい。全員がヤバい負傷を負わされていた。

 俺の体もそうだ。骨を砕かれ、腱を裂かれている。感覚で分かる。戦士として再起不能な負傷だという事に。

 瞬きに近い一瞬でこれ程の事ができる人間はいるのか?

 痛みに呻きながら、どんな攻撃を受けたのか考える。

 ダメだ。想像ができない。

 同時に複数部位の攻撃を受けた衝撃の感覚しかない。こりゃぁ、どう考えても人間業じゃない。


 何モンだ?

 化け物。

 人外の化け物だ。


 巫女にはあんな人外の化け物を呼び出す能力があるのか?俺達が知らない蔡家の秘伝なのか?

 どっちにしてもあんな化け物にはもう会いたくもない。

 もう任務は失敗でいい。

 なんとしても隊長達を邑に戻して治療をさせないと。俺はともかく隊長と副長は死なせちゃいけない人だ。

 俺よりは重傷だが隊長達に比べりゃ軽傷の仲間を強引に起こして邑へ向かう。

 

 くそ!

 全員足になんらかの重傷を負わされている。まともに歩けるヤツは誰一人いない。

 そもそも隊長達の意識は未だに戻らない。あれほどタフな隊長達の意識が戻らない事が信じられない。

 

 くそ!

 

 あれに勝つのは無理だ。

 一体どういう訓練をすればあんな化け物のような動きができるんだ。

 俺だって毎日血反吐吐く思いで訓練を積んでいたんだ。

 そんな努力を無駄と思わせる相手がいるなんて。

 

 ふと思う。

 今回の戦いで黒髪の化け物を怒らせてしまったとしたら。

 邑には防壁があるとはいえ、あの化け物を防ぐことはできないような気がする。

 あの見えない攻撃を防げるものは誰一人いない。邑の中では隊長が最強だからだ。

 その隊長が敵わなかった相手に誰が勝てるんだ。集団で襲い掛かっても俺達と同じように一瞬で決着がつく。

 勝てるはずがない。

 

 あの化け物はどこに行ったんだ?

 巫女が怒りのままに邑への報復を指示したら?

 

 マズい!

 

 早く報告に戻らないと邑が無くなってしまう。

 

 あんな化け物に誰が勝てるっていうんだ。

 

 くそ!

 

 急がないと。

 化け物め!

 

 

 

 

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