第66話 互角の戦闘
「フンッ!!」
「ハッ!!」
忍刀を使用し、風巻と道豪は攻防を繰り返す。
お互い斬り傷が付いているが、どれも小さいものばかりで、深い傷は1つもない。
そのことからも分かるように、実力は互角といったところだ。
「フゥ~、まさか互角とはな……」
「それはこっちの台詞だ。貴様がいない間に、俺がどれほどの研鑽を積んだことか」
今の状況では、勝敗はどちらに転ぶか分からない。
それを察しているためか、一旦距離を取った風巻は、自分と伍する道豪の実力を感心する。
道豪の方としても、風巻以上の実力をつけたと自信が持てるほどに訓練を重ねてきたつもりだ。
それなのに互角だというのだから、気に入らないらしく表情は険しい。
「……何故笑っている?」
道豪が不快に思っているのは、何も実力が互角なだけではない。
自分同様、風巻も口元を布で覆っていて分からないが、目を僅かに細めたのは見逃していない。
この状況で微笑んだ風巻の表情が、余裕ぶっていて気に入らないのだ。
「……フッ! こんな時に不謹慎だが、生死をかけたギリギリの戦いは、意思とは関係なく血湧き肉躍ってしまう」
問いかけられた風巻は、素直に今の自分の気持ちを告げる。
口調は冷静だが、言っている内容は完全にバトルジャンキーのものだ。
「チッ! 納得いかないが、俺も同じ考えだ」
舌打をして同意を示す。
どうやら、道豪もバトルジャンキーのようだ。
「フッ!」「へッ!」
同族嫌悪。
比較されて気に入らない理由は、この一言で示せる。
2人共そのことが今になって分かったらしく、少し無言で睨み合うと同時に笑い声を上げた。
「ハァッ!!」
「セイッ!!」
その笑い声が合図となったらしく戦闘が再開され、互角の戦いがまたも繰り広げられた。
◆◆◆◆◆
「フンッ!」
「っと!」
蒼の横薙ぎの攻撃を躱し、房羅はそのまま距離を取る。
バク転を挟んでいる所を見ると、余裕をもって躱しているようにも見える。
「……すごいですね。俺の全力についてこれるなんて」
蒼に対し、房羅は称賛の言葉をかける。
拍手まで付けそうな態度だ。
互角の戦いはこちらも同じだった。
しかし、風巻たちとは違い、こちらは少々違っている。
というのも、攻撃をする割合が多い房羅に対し、蒼は防御をせざるを得なくなっている。
6対4、いや、7対3の割合で防御していると言って良いだろう。
「さすが初代様に匹敵する才を受け継いだと言われるだけありますね」
「……どうも」
蒼は感情のこもっていない感謝の言葉を返す。
日向の人間なら、初代国王と並び称されるのは喜ばしいことだ。
しかし、それを房羅が上から目線で言って来るのが気に入らないため、そのような態度になったのだろう。
「シッ!!」
「っ!!」
蒼としては接近に合わせて斬りつけたいところだが、房羅は自分の動きを読んでわざと間をずらしているらしく、なかなか上手くいかず接近を許してしまう。
接近されてしまうと、武器の長さから小回りの利く房羅の方が回転が速いため、蒼は防御重視の戦いになってしまっている。
「本気って言ったくせに、段々速くなっているのはどういうこと?」
距離を取った蒼は、愚痴るように問いかける。
蒼も房羅も、どちらも味方の被害を減らすのなら、早く勝利するに越したことはない。
そのために本気を出すと房羅は言っていたが、戦いが続くにつれて段々速度が増している。
斬りつける間がズレるのも、それが原因だ。
「すいません。本気を出すのは久しぶりなのでね……」
房羅が本気を出せるのは、頭領の道豪を相手にした訓練の時のみだ。
しかし、その道豪以上の実力を得てからは、訓練でも本気を出せなくなった。
そのせいで、久々に本気を出すため時間が掛かっているのだ。
「安心してください。そろそろ本当の本気ですか……らっ!!」
「っっっ!!」
最後の言葉に合わせるように、房羅の姿が消える。
しかし、忍びの者のため微かとは言え、蒼の耳にはその足音は聞こえている。
つまり、蒼が姿を視認できないほどの超高速で移動をしているということだ。
「どこを見ているのですか?」
「っっっ!?」
足音に反応して右方向に視線を移した蒼に対し、背後から房羅の声が聞こえる。
蒼の視線をわざと右方向へ映すために、足音を立てたのかもしれない。
それがまんまとハマり、房羅は蒼の背後へと回ったようだ。
「うぐっ!!」
背後を取られたと理解した蒼は、必死の形相で前方へと跳ぶ。
その判断が正解し、背中を僅かに斬られるだけで済んだ。
「フフッ! 素晴らしい反応です」
完全に背後を取ったというのに、背中を僅かにしか斬れなかった。
だというのに、房羅は全く気にした様子もなく笑みを浮かべ、蒼のことを称賛する。
「……なるほど、さっきのが全力って事?」
「えぇ、あなたが初代様に匹敵する際の持ち主とするならば、私は初代様を越える……、いえ、越えた実力者です!」
戦闘に置いて力よりも速度。
元々あった才を徹底的に鍛えることで、野木衆最強の実力を手に入れた。
そのため、蒼と戦っても全く脅威を感じない。
日向建国より、歴代最強と言われる初代国王に匹敵すると言われる蒼を相手にしてもだ。
つまりは、自分こそが最強。
それを今理解した房羅は、歓喜するように声を上げた。
「……それは違うわね」
「…………?」
体勢を整えた蒼は、房羅の発言を否定する。
先程の攻防を考えれば、蒼が自分との実力差を理解できていないはずがない。
それなのに、そんな発言をして何の意味があるというのだろうか。
ハッタリにすらない蒼の発言に、房羅は思わず首を傾げた。
“フッ!!”
「っっっ!?」
房羅が瞬きをした瞬間、今度は蒼の姿が消える。
足音すら聞こえないため、房羅は目を見開き周囲を見渡す。
「ぐあっ!!」
房羅とは違う。
無音の移動により房羅の背後を取った蒼は、声も出さずに房羅の心臓を狙った。
しかし、野木衆最強の称号は伊達ではない。
蒼の攻撃に気付いたのか、勘なのか、房羅は体を捻ることによって脇腹を斬られることで死から逃れた。
「バ、バカな……、どうしてそんな速度が……」
自分以上の移動速度による攻撃。
それが信じられない房羅は、呻くように声を漏らす。
「簡単なことよ。さっきまで本気だったけど、
「そ、そんな……」
確実に勝利するため、蒼は房羅の全力を先に出させたかった。
本気と言いつつ自分は全力を出さないことで、上手く房羅を罠に嵌めることができた。
しかも、房羅の脇腹に浅くはない傷をつけることまで出来た。
そのことに比べれば、背中を浅く斬られたことなんてたいしたことではない。
「ぐう……、勝った気になるのは速いですよ。質の花紡衆に対し、野木衆が何と言われているかお忘れですか?」
とんだ赤っ恥をかかされた。
実力が上の蒼を相手にこの状況では、やられるのも時間の問題だ。
しかし、房羅に悲壮感はない。
その理由を分からせるために、房羅は蒼に問いかける。
「…………っ!! まさか……」
少しの間思考した蒼は、房羅が何が言いたいのかを理解し、花紡衆たちがいる方へ視線を向けた。
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