第14話 釣り出し
「行くぞ!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
ゴブリンとの遭遇報告が多発したことにより、西の森に巣ができていると判断した。
その巣の発見と討伐をおこなうために、高ランクの冒険者たちが集められた。
早朝ということもあり眠そうだが、皆やる気に満ちた表情をしている。
今回の指揮を執るため、ギルドマスターも参加している。
そのギルマスの合図を受け、冒険者たちは西の森へ向けて出発していった。
「へえ~、出発したんだ?」
「はい。念のため、残った方は外に出ないようにしてください」
「了解」
いつものようにギルドへ仕事を探しに来た凛久は、受付の女性からゴブリンの討伐隊が出発したことを告げられる。
ゴブリンの巣がどこにあるか分からないうえに、数も定かになていない。
もしも、討ち漏らしたゴブリンが町付近に出現する可能性もあるため、町にいる者は討伐隊が戻るまで例外なく町から出ることは禁止された。
「外に出られないんなら、やまびこ亭の手伝いでもするか……」
「アンッ!」
凛久がゾーダイの町で使用しているやまびこ亭という宿は、1階がレストランになっている。
それが結構人気で、仕込みのための調理助手が欲しいと店主は愚痴っていた。
凛久が料理ができるということを知り、他の空いている時は手伝ってくれと頼まれていたのだ。
いつもの薬草採取ができないのでは1日暇になってしまうため、凛久は頼まれていた調理助手の仕事をおこなうことにした。
◆◆◆◆◆
「ハッ!!」
「ゲギャ!!」
西の森に向かった冒険者たち。
彼らは順調に森の奥へと進んでいた。
「……何だか様子が変じゃないか?」
「そうか? ゴブリンは頻繁に出現しているし、巣は近いんじゃ……」
「う~ん、そうか?」
集まった冒険者たちは順調に進んでいるように感じていたが、ギルマスのクウィリーノだけは現状を異様に感じていた。
というのも、ゴブリンの出現は増えているが、どこか規則的な出現率に思えたためだ。
しかし、ここに集まった高ランク冒険者たちは変に思っていない様子なので、クウィリーノは自分の勘違いだと思うことにした。
◆◆◆◆◆
「おい、あれ……」
ゴブリンの討伐隊が出発してから数時間後。
いつものように仕事をこなしていたゾーダイの町の門番の1人が、遠くに違和感を感じて仲間に話しかける。
「んっ? 何か動いて……」
話しかけられた仲間の門番も、仲間が指差した方角に目を向ける。
すると、遥か遠くに何かが動いているように見えた。
「……お、おい!!」
「……た、大変だ!!」
町からは遠く離れているため、肉眼ではまだ黒いものが動いているようにしか見えない。
そのため、門番の2人は支給されている望遠の魔道具を使用して、動いているものが何かを確認することにした。
そして、望遠の魔道具を使用した2人は一気に顔を青くし、すぐに行動を開始した。
「助かったぜ。今日は予約が多くてな」
「いや~、こっちも助かってるんで」
町中の仕事をおこなっていた凛久は、現在やまびこ亭の店主に感謝されていた。
凛久がおこなっているのは野菜の下ごしらえだ。
皮を剥かれた多くの野菜が、凛久の目の前に積まれていた。
これを全部1人でやるとなると、手が足りないというのも納得できる。
「大変だ!!」
「んっ?」
「何だ?」
あと少しで野菜の皮剥きも終了という所で、凛久と同様にやまびこ亭を利用している冒険者の男が店の中に入ってきた。
その慌てた様子に、凛久と店主は手を止めて話しかけた。
「ゴブリンの大群がこちらに向かって来ているそうだ!!」
「はっ? 討伐隊はどうした?」
伝えられた情報に、2人は驚きの表情に変わる。
驚いた凛久は、ゴブリンの大群を倒すために出発したはずの討伐隊のことを問いかける。
討伐隊に組み込まれた高ランクの冒険者たちが誰一人帰って来ず、代わりにゴブリンがこの町に向かって来ているなんておかしな話だ。
「討伐隊が向かったのとは反対方向から来ているんだ!」
「何だって!?」
討伐隊が向かったのにゴブリンの大群が攻めてくるなんておかしな話だと思ったら、討伐隊が向かった西の森ではなく、真逆の東の森から向かって来ているそうだ。
「どういうことだ? 西だけじゃなく、東にも巣があったって事か?」
「知るか!」
大量のゴブリンということは、西の森で発見されただけでなく、東の森でもゴブリンの巣があったということなのだろうか。
報告に来た彼もそんな事を知る訳もなく、お座なりに凛久の問いに返答した。
「どういうことだ……?」
凛久も報告したことだが、冒険者たちによって西の森にゴブリンの巣があることはたしかなはずだ。
東の森にいった冒険者たちから報告されていないことから、今向かって来ているのは別の巣のゴブリンなのだろうか。
しかし、いくらゴブリンの繁殖力が強いと言っても、同時期に2つの巣ができるなんてあるのだろうか。
「もしかして、討伐隊を西の森に誘い出したなんてこと……」
色々考えているうちに、凛久にはある考えが浮かんだ。
現在東の森から向かって来ているゴブリンたち。
最初からそちらにしかゴブリンの巣はなく、ゴブリンたちがゾーダイの町に攻め込むために、町の戦力を西の森に誘導したのではないだろうかというものだ。
「ゴブリンがそんなこと……」
ゴブリンは知能が低いことで有名だ。
人間を誘い出すなんて、出来るはずがない。
凛久の考えを聞いて、冒険者の男は否定の言葉を返そうとしたが、その途中で止まった。
何故なら、凛久の考えが正しいかもしれない可能性に思いついたからだ。
「まさか……変異種か!?」
冒険者の男は、自分で確認するように呟く。
普通のゴブリンでは凛久のいうようなことは不可能。
しかし、変異種が中にいるというのなら話は変わってくる。
もしも知能の高い変異種が出現していれば、凛久の言うように町の戦力を削るよう行動をとってもおかしくない。
「理由はともかく、市民は避難、冒険者は門に集合するようにとのことだ」
「冒険者って、残っているのは低ランクの人間しかいないじゃないか」
「仕方がないだろ。何もしなければ、町は蹂躙されるだけなんだから」
「……分かった」
大量のゴブリンが迫っているのに、たしかに何もしないわけにはいかない。
特に女性はゴブリンに捕まれば悲惨なことになる。
阻止するためには、残っているものが動くしかない。
低ランクとは言え凛久も冒険者。
ゴブリン討伐に参加することを了承するしかなかった。
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