第15話 ゴブリン討伐
「なんて数だ……」
遠くから迫り来るゴブリンの大群に、討伐に集まった者の1人が呟く。
凛久も同じ言葉を言いたくなる状況だ。
迫り来るゴブリンは、数えきれないほど。
逃げられるものなら逃げたいところだ。
「やるしかないか……」
しかし、逃げようにも市民の避難が済んでいない状況で逃げ出せば、逃げきれたとしても後味が悪い。
それに、もしもそのことがバレたら、どこの町でも冷遇されて仕事をすることができなくなるかもしれない。
旅には資金が必要だが、それが得られないのでは日本に帰るための情報集めなんていっていられる状況じゃなくなる。
何とか倒して生き残ろうと、凛久は密かに気合いを入れていた。
「皆よく集まってくれた! 領主として感謝する!」
今回の危機に、この町の領主が大将として指揮することになった。
その領主は、ゴブリンの討伐に参加することを決めた冒険者や市民に感謝の言葉を述べる。
「前衛は領兵、その後ろに冒険者、そして市民たちは後方からの攻撃を頼む」
「「「「「ハッ!!」」」」」
普段は門番や町の警備をおこなっている領兵は、普段対人戦闘の訓練をおこなっているが、こういった有事の時の訓練もおこなっている。
本来なら対魔物が本職である高ランク冒険者に最前線を任せたいところだが、彼らは西の森に向かってしまっている。
そのため、領兵を前にし、町に残った中・低ランクの冒険者たちをその後ろ。
そして、自分たちの住む町を守ろうと参加した若者男性たちに後方からの攻撃を任せることになった。
「いるであろう上位種は、テオフィロ! 頼むぞ!」
「畏まりました!」
これだけの大群が、統率がとれたように進んできている時点で上位種がいることは予想できる。
それがどれだけの数なのか分からないが、町に残っていた者の中で戦力が高い元Aランクの冒険者だった副ギルドマスターのテオフィロだけだ。
それが分かっている領主は、上位種の相手をテオフィロに託した。
「行くぞ!!」
「「「「「おーーっ!!」」」」」
領主がフォーメーションを決めているうち、ゴブリンたちが肉眼でも見えるほど迫って来ていた。
それを見て、テオフィロが声を上げ、戦闘に参加した者たちはゴブリンに向かって走り出した。
「くっ!」「数が多い……」
戦闘が始まって少し経つと、ゾーダイの領兵や冒険者たちは1人で3体のゴブリンを相手にしているのに近い状況になり、ゴブリンの群れに圧され始めた。
「ぐっ!」
数に差があれば、当然怪我をする者もいる。
多くは低ランクの冒険者だ。
「はい。薬草」
「おぉ、ありがとう」
多くの冒険者がゴブリンと戦うなか、凛久は怪我をした冒険者に対して薬草を届けまわっていた。
回復力や味を考えると回復薬の方が良いかもしれないが、今はそんな事を言っている場合ではない。
薬草採取でこの町でも有名になりつつあった凛久は、ゴブリンの相手よりも主に援護役で活躍していた。
「あっ! 危ない!」
「ゲギャ!!」
「っ!?」
怪我をした人間を見つけては、薬草を届けに戦場を駆けまわる凛久。
そこに、他の冒険者をすり抜けてきたゴブリンが襲い掛かってきた。
そのことに気付いた冒険者が凛久に声をかけるが、完全に背後からの奇襲。
凛久は反撃できる状況ではなかった。
「ワウッ!!」
「ギャウッ!!」
凛久に襲い掛かるゴブリンの横から、何かが勢いよく飛び掛かる。
絶体絶命といった状況を救ったのは、凛久の従魔のクウだ。
クウによって喉元を食いちぎられたゴブリンは、血をまき散らして絶命した。
「助かったよ。クウ」
「クゥ~ン♪」
危ないところを救われた凛久は、感謝の言葉と共にクウのことを撫でまわす。
主人の凛久に撫でられたクウは、嬉しそうな声を上げた。
「じゃあ、次へ行こう!」
「アンッ!」
凛久も危なくなったように、前線だけでは抑えられなくなっている。
そのため、怪我を負う人間も増えている。
そんな彼らに薬草を届けるため、凛久はまたクウと共に線上を駆け回ることを始めた。
「……あれグラスドッグだよな?」
グラスドッグと呼ばれる種類の魔物が、あれほど強いというのが信じられない。
去っていく凛久とクウを名が得ながら、薬草を受け取った男性は驚きの表情をしていた。
「いたぞ! ゴブリンキングだ!」
戦いが進み、戦場で大きな声が上がる。
ようやく上位種を発見したらしい。
「ゴブリンキングか……」
「ゴブリンロードじゃなくて良かったな」
発見した上位種がゴブリンキングだと聞いて、冒険者たちは安堵したように話し合う。
ゴブリンには色々な種類の変異種が存在している。
その中でも、最上級種がゴブリンロードと呼ばれる種類だ。
ゴブリンロードが存在していた場合、Aランク冒険者が必要になる。
今、ゾーダイの町にはそのランクの冒険者たちはいない。
しかし、発見したのはBランクの冒険者で倒せると言われている、ゴブリンロードより1つ格下のゴブリンキング。
Aランク冒険者だった副ギルドマスターのテオフィロなら、何とかなるはずだ。
ゴブリンと戦う者たちに、少しだけ勝利の光が見えたような気がした。
「テオフィロ!」
「了解!」
領主の指示を受け、テオフィロが発見されたゴブリンキングへ向かって走り出す。
群れの頭であるキングを倒せば、集まっているゴブリンたちは統率がとれなくなり逃げ出すだろう。
ここまでの戦いで怪我人も少なくないため、テオフィロは少しでも早く倒そうと足をゴブリンキングへ向けて一直線に突き進んで行った。
「っっっ!!」
自分へ迫り来るゴブリンたちを手に持つ大剣で薙ぎ払いながら、突き進んでいたテオフィロだったが、あることに気付き急ブレーキをかけて足を止めた。
「そんな……」
足を止めたテオフィロは、驚きの表情でその場に固まった。
「……何だ?」「……どうした?」
テオフィロの様子を見て、前線にいる領兵や冒険者たちが首を傾げる。
一刻も早くゴブリンキングを倒してほしいのに、何をしているのだろうか。
「……ロードがいる」
「「「「「っっっ!!」」」」」
青い顔をしていたテオフィロの呟きに、領兵や冒険者たちは一瞬で血の気が引く思いがした。
「そんな……」「終わった……」
何の冗談かと思ってテオフィロの視線の先を見てみると、ゴブリンキングの巨体で隠れているが、そこにはゴブリンロードの姿があった。
その姿を見た者たちは、全身の力が抜けたように戦意が落ちた。
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