キャンプに行ったら異世界着いた
ポリ外丸
第1話 異世界転移
「ハァ~……、この道で合ってるんだよな……」
地図を眺めながら歩く彼の名前は中原
キャンプが趣味であり、最低でも月に1度はどこかのキャンプ場に向かうようにしている。
最近は忙しくて間が空いてしまったが、久々にキャンプに行く時間ができた。
近場のキャンプ場にしようかと思ったのだが、久々ということもあって新規開拓しようと、凛久は行ったことのないキャンプ場を選ぶことにした。
数日前、酒を飲みつつネットを漁っていると、いつの間にか寝落ちしてしまった。
酔っていて覚えていなかったが、手元にはいつものように予約済みのマークのついたキャンプ場の地図や情報がメモに記されてあったため、今更断るのも気が引けた凛久はこのキャンプ場に向かうことにした。
キャンプ当日。
メモに書かれている通りキャンプ場に向かっていたのだが、いつまで経ってもたどり着かない。
駅から近いという話だったが、どうやら思ったより離れているようだ。
「あった! このトンネルだ」
ようやく目安となるトンネルを見つけることができたため、凛久は安堵した。
このトンネルを抜けた先にキャンプ場があるはずだ。
「トンネルってワクワクするよな……」
トンネルに入り先へ進むなか、この先にどんなキャンプ場があるのか期待が膨らみ、凛久はテンションが上がっていた。
宮沢賢治の小説のように、トンネルの先に別世界があるのではないかと思えるからだ。
「それにしても真っ暗だな……」
トンネル内部には照明などないため、凛久は真っ暗で周囲が良く見えず、出口の光を目安に進むしかない。
段々と光が近付くなか、凛久は目を閉じ、出口はどんな景色なのかワクワクした。
「眩し!」
瞼に光を感じ、凛久は目を開ける。
暗闇から出て光を見たせいか、一段とまぶしく感じる。
「…………何だ? ここ……」
少しの間固まると、凛久は思わず感情がこぼれる。
それもそのはず、凛久の目の前には、鬱蒼とした樹々が立ち並んでいたからだ。
しかも、キャンプ場へ続くはずの道が存在していない。
「道間違えて……えっ!?」
地図と照らし合わせて周囲を見渡していると、凛久は違和感を感じて後方も見る。
すると、ついさっき通ってきたトンネルが、跡形もなくなくなっており、巨大な岩が存在しているだけだった。
「……どういうことだ? 何でトンネルが無くなっているんだ?」
凛久はトンネルだったはずの岩を触って確かめる。
そんな事はないと分かっていても、何かスイッチでもあるのではないかと期待からによる行動だ。
「くそっ! どうなってんだ!?」
色々触ってもただの岩。
期待が外れ、凛久は頭を抱える。
“ガサッ!!”
「っ!! ……フゥ~、風か……」
草が擦れる音に、凛久は思わず反応する。
どうやらただの風によるものらしく、そこには何もいなかった。
「熊でも出そうだな……」
さっきのは風だが、周囲の風景から嫌な予感がしてくる。
もしも熊だったら、キャンプ道具を背負ったこの状態では逃げることなんて絶対できない。
「……ひとまず、人を探そう……」
地図はもう当てにならない。
このままここにいたら、本当に熊や猪に遭遇することになるかもしれない。
そのため、凛久はここから移動することを決めた。
「……こっちか?」
本来、遭難した場合は無闇矢鱈に移動するのは良くない。
しかし、凛久にはあの場に留まり続けることの方が嫌な予感がしたため、移動を開始する。
「進みにくいな……、んっ?」
スマホのマップを使おうと思ったのだが、電波が届いていないらしく使用できないため、凛久は微かに聞こえた水の音を頼りに進む。
そして、膝丈の草をかき分けて森の中を進んでいると、遠くに何かが動いたのを感じ、凛久は草陰に身を隠した。
「……何の動物だ?」
身を隠しながら遠くを眺めると、確かに生物が存在していた。
「……何だ? あれ……」
そこにいたのは兎だ。
しかし、その兎には奇妙な点がある。
頭の部分に1本の角が生えているのだ。
「えっ? あれって……ゴブリン?」
角の生えた兎のすぐ近くの樹に、何かが潜んでいるのが見える。
兎の大きさと比べると、かなり小さい人間だ。
しかし、凛久はすぐにそれが人間ではないと分かった。
緑色の皮膚をして角もある生物。
その容姿から、ファンタジー物の代名詞ゴブリンのように見えた。
「何だ? ドッキリか?」
ゴブリンはあくまでもゲームなどの世界の生物。
そんな考えから、凛久はゴブリンの姿をした誰かのコスプレなのではないかと考え、ここまでのもろもろのことは、自分を騙すためのドッキリなのではないかと思った。
「……えっ?」
角の生えた兎の意識が自分とは反対に移ったと感じたゴブリンのようなものは、樹の影から飛び出し、手に持った木の棒で兎に襲い掛かる。
しかし、その木の棒が当たる前に、ゴブリンのようなものに別方向から何かがぶつかってきた。
ぶつかってきたのは角の生えた兎。
角の生えた兎は1羽ではなかったのだ。
強烈な勢いでぶつかってきた兎の角により、ゴブリンのようなものの胸に風穴が開き、大量の血液が噴き出した。
あまりのことに、凛久は声が出ない。
ドッキリやコスプレだったとしたら、冗談では済まされない。
「おいおい……」
兎の次の行動に、凛久は更に驚く。
先程殺したゴブリンのようなものを、兎たちが食べ始めたのだ。
肉食の兎がいるなんて聞いたことが無い。
自分もゴブリンのように襲われてはたまらないと、凛久はこの場から退避することにした。
「何だよあれ! どう考えてもドッキリじゃないだろ!」
できる限り音を立てないようにしてあの場から離れた凛久は、思わず声を上げる。
ゴブリンを殺した角の生えた兎が、その遺体を食べる。
ドッキリだったらどれだけ嬉しいことだろう。
しかし、どう考えても現実。
キャンプに来ただけだというのに、どうしてこんなことになるのだ。
「ハァ、ハァ、あっ! やった! 川だ!」
耳を頼りに動いたのは正解だったようだ。
角の生えた兎の脅威から無我夢中で逃げてきたら、凛久は川岸にたどり着いた。
息を切らしつつ川へ近付くと、凛久は汗を掻いた顔を洗った。
「……もしかして」
顔を洗ったことにより頭が冷やせたのか、凛久にはある考えが浮かんできた。
「ここって異世界か?」
ゴブリンに一角兎。
異世界物の王道となる魔物の存在だ。
この考えが頭に浮かんでも仕方がない。
「いやいやいや、それは……」
ゲーム、漫画、ラノベ、アニメ。
どれもある程度手を出してきた。
このような状況に、ここが異世界だと思っても仕方がない。
しかし、そんな荒唐無稽なことが自分に起こるわけがない。
そのため、凛久は必死にその考えを否定しようとした。
「……マジか?」
いくら否定しようにも、立て続けに起こったことを思い返すと、どうしても否定しきれない。
すると、今度は逆に、ここは異世界なのだという意識になっていき、凛久は少しの間その場に立ち尽くすしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます