♰ ❽ ♰

 黒いレザーコートに、黒のレザーパンツ。立てられた襟にはファーがあしらわれている。あちこちに銀色の装飾が施されていて、その悉くが十字架とドクロ。全身には、ジャラジャラと銀色の鎖が巻き付いている。

 アキラと違い、身体も変貌を遂げていた。背丈が若干小さくなっている。

 少年だ。

 ガラスに映ったその姿は、少年だった。凛として鋭く、それでいて希望に満ちた表情を浮かべている。

「ヴォアアアオオオオオォンンンンンッ!!!」

 振り返る。怪獣が、県知事が、自分を見下していた。

「若造、貴様ハ、ソコノ愚図ト同類カ?」

「・・・なんだと?」

「同類カト訊イテイルッ!ソコニ転ガッテル愚図トナアッ!」

「・・・」

 アキラを見る。いつの間にか目覚めていたようで、輝かしい目で自分を見つめていた。

「・・ハハ、やったじゃん、サトル」

 力なく笑うアキラの横で、ジリジリと燻っていたはずの大剣が、メラメラと黒いオーラを燃やしていた。

「・・覚えてる?その剣の名前」

「・・・ああ」

 来いよ、と右手を掲げた。瞬間、大剣は吸い寄せられるように手の中へ飛び込んできた。ガッチリと、力強く柄を握りこむ。

「・・・訂正しろ」

 目を剥き、怪獣を、県知事を睨む。

「アアァ?」

「アキラは愚図なんかじゃないっ!お前なんかより、ずっとずっとすごいヤツだっ!」

 啖呵を切って、左手を突き出した。

「ブラッケスト・ナイトッ!」

 黒い閃光を放つ。夜のような暗闇が稲光のように煌めき、怪獣の鼻先を穿った。

「グァアアッ!」

 怯んだ隙をついて、

「グリフォンッ!」

 と唱え、翼を広げた。はためかせて、空へと舞いあがる。

「ナンダ貴様アッ!私ヲ誰ダト思ッテルッ!私ハッ」

「知るかバーカッ!」

 バカの言葉を遮って、翼を大きく広げた。大剣を突き付けて、唱える。

「フェザー・レインッ!」

 翼から、無数の羽根ナイフをマシンガンのように射出した。

「ガアアアッ!」

 怪獣の顔面に浴びせ続ける。フェザー・レインは容赦しない。伝説の魔物、グリフォンから授かった翼の力だ。

「ナメルナアッ!」

 怪獣が下顎の腕を振り回した。止む無く飛び上がると、怪獣の背中から、無数のトゲが大蛇のように迫ってきた。

「ちっ!」

 飛び回りながら避けるが、キリがない。このままでは、アキラのように捕まってしまう。

 だがっ!

「ブラッケスト・ノヴァッ!」

 天に向かって指を鳴らすと、漆黒の流星群が空から降り注いだ。黒い輝きを放つ流星が、無数のトゲを次々と蹂躙していく。

「グガアアアアアアアアッ!!!」

 怪獣が悲鳴を上げた。ビルで構成された身体が、バキバキと崩れていく。

「クソガアアッ!」

 下顎の腕が伸び、左右から迫った。

 バアンッ!と、蚊でも叩くかのように、身体が掌の中へ捕らえられる。

「グゥハハハハハハッ!捕マエタアッ!死ネエッ!」


「・・・ブラッケスト・デトネイター」


 バヂンッ!

 と、怪獣の両腕が爆ぜた。

「グァアオオアアアアッ!!!」

 バカめ。汚い手で俺に触れる方が悪いのだ。

 満身創痍の怪獣が、頭をもたげた。鼻先に、息を荒げるバカが見える。

「・・・クソガアッ!コノ私ガッ!コノ私ガァッ!全テヲ支配スルハズノ、コノ私ガアッ!」

「・・・終わりだ」

 両手で大剣を握りこんだ。刀身に巻かれた包帯。この封印を解くには、名前を叫ばなければならない。この伝説の黒い大剣の名を。

「コノ私ガ負ケルコトナド無イノダァッ!!!」

 怪獣が大口を開ける。煙が漏れ出て、灰色の光が口中に満たされていく。

 無駄だ。

 この剣に、敗北は無い。

 なぜなら、この剣に、斬れないものは無いからだ。

 大剣を振り上げる。

 この剣の名は————。


「————————グングニルッ!!!」


 封印が解かれた瞬間、燃え盛っていた黒いオーラが刀身の包帯を吹き飛ばし、爆発を起こした。漆黒の刃が姿を現す。

「ヴァアアアオオオオオオオオッ!!!」

 怪獣が灰色の熱線を吐いた。

 真っ向から、大剣を振り下ろす。

「うおおおおおおああああああああああああっ!!!」

 大剣から発せられた黒い衝撃波が、熱線を弾き飛ばした。漆黒の稲光を纏った斬撃の波動が、跡形もなく怪獣を蹴散らし、街を削り、遠くの空へ————。

 

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