とりいらの

 休日、彼はバイトに行く。いつもより数時間早く布団から出なければならない。私も、どれだけ眠くても、一度布団から出ることにしている。毎度、玄関で見送ることを欠かさない。その時間は30分にも及ばない。

 目覚めるとは、一日の始まりを感じる動作である。しかしながら、私の休日において、布団から出ることは一日を始めることではない。30分後にはもう一度眠りにつく。


 十分な睡眠を終えて、私は起きる。


 普段を一緒に過ごしているから、ここから始まるひとりの時間は大切にしている。一人分のご飯を作って、食べる。コーヒーを淹れて、積んでいた本を片手に、飲む、読む。そして満喫しているうちに、彼は帰ってくる。

 インターホンが鳴る。ひとりの時間が終わる合図は、じっとしていた部屋の空気を割いて、大きく鳴り響く。毎度、玄関で出迎えることを欠かさない。視界で人が、声を出そうと口が、動く。


 そういう変な感覚が、私に起こる。


 ひとりだったはずの生活に、突然に、動きが加わる感覚。それは、私が一度布団から出て、もう一度眠ったから。私の一日は、ひとりで始まった。一日の始まりを、ひとりで感じた。そこに彼が帰ってきただけのことである。

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