病院薬剤師の生態と性癖レポート

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第1話 独断と偏見という名の予防線


 先日まで薬剤師が主人公のドラマが放送されていましたね。

 中々上手く演出されていたので、視聴された方の中には薬剤師が普段どのような仕事をしているのかがなんとなく分かった、という方もおられるのではないでしょうか。


 このエッセイでは、そんな大したドラマもない病院薬剤師とその周囲で起こる日常を綴っていこうと思います。

 ですが医療業界の問題や現場の治療の難しさなど、真面目なテーマについては既にクオリティの高いエッセイが投稿されておりますので、私は笑えるネタなどを交えて適当な文章をつらつらと書いていこうと考えております。


 当然、可能な限り事実に基づいて書き記しますが、一部個人情報保護に抵触する部分は誤魔化したりも致しますので、その辺りはご容赦願います。



 さて、第一回の今回ですが。

 まずは自己紹介を兼ねて病院薬剤師とは、を簡単に。


 薬剤師とはその名の通り、薬を取り扱うぎょうを専門とした国家資格を有する職業です。

 この薬剤師というのは医師・看護師などと同じく、業務独占資格に分類されています。そのため、資格を有さない者がその名を使ってそれらの専門的な業務を行うことは法律で禁止されています。

 つまり、かの有名なブラックジ○ックは医師免許がありませんので、医師として治療行為をした時点で医師法違反で罰せられるということになります。

 そういったわけで、薬剤師は薬剤師法にズラッと書かれている通りの業務をしているというわけですね。

(実際は条文の全てを把握して業務をしている方は少ないと思いますが。)


 具体的に何をしているかって? 薬剤師の法律なんて知らん?

 超簡単に言ってしまえば、薬剤師とは薬と名の付くところに棲みつき、医師や看護師といった花形職業の陰でチョコチョコと薬をいじる職業です☆

 ……だからあんまり認知されていないんですよね。同じ国家資格を有する職業なのに。


 そしてこの国家資格を得るためには薬学部に6年間通い、且つ国家試験に合格しなければなりません。

 おそらく皆さんが"国家試験"と聞いて一般的にイメージするのは、弁護士や医師などの『難関』の二文字がつく試験ではないでしょうか。

 それを踏まえて想像してほしいのですが、薬剤師も医師と同じ専門学部がある大学に6年間通った上で試験を行いますので、それなりに難しい壁に立ち向かうことになります。

 ほら、ちょっと大変そうでしょう?


 私自身が実際にそれを体験してみて、いったい何が大変だったか。

 その説明のために、通常の試験日程を紹介してみましょう。


 試験日程、2日間。

 休憩時間を挟みますが、朝9時半から夜の6時まで。

 合計問題数、345問。

 科目は物理・化学・生物・環境衛生・薬理・薬剤・薬物治療・法規・実務を複合的に。

 範囲は大学受験の赤本10冊分以上のボリューム。


 もうね、普通に考えたら発狂するレベルですよ。

 実際に受験会場では試験中に泣き出したり、暴れ出す受験者も居たようです。

 たしかにそれなりに勉強すれば、それなりに合格することができます。

 私も過去10年分の答案を丸暗記したのでどうにか合格できました。

 ……今もう一度受けても、まず受かる気はしませんね。


 というわけでちょっとした苦労話を吐き出しましたが、ここまできてやっと薬剤師としてのスタートラインに立てるのです。

 そう、ここからが本番。

 限られた命と必死に向き合い、やっかいな病気とやっかいな職場のスタッフたちとの戦いが始まるのです。


 晴れて念願の薬剤師国家試験に合格したひよっこ薬剤師たちはそれぞれのステージに旅立ちます。

 ある者は病院へ。薬局、ドラッグストア。製薬企業や研究所、大学院や珍しい所だと麻薬取締官や自衛隊などなど。

 様々な期待を胸にスーツや白衣に身を包み、意気揚々と新しい世界に飛び出していくのです。


 私の場合は地元にある病院の薬剤部に新米薬剤師として勤めることになりました。

 その病院は急性期から慢性期まで外来・入院治療を行う、それなりに規模の大きな病院。

 看護師や検査技師などの多種多様な新入職員達に囲まれ、ドキドキハラハラしながら入職式に参加しました。


 比率にして看護師100名に対し薬剤師が5名程度。

 もうこの時点で数の暴力に薬剤師は負けているのがお分かりになるでしょう?

 病院というのは大抵が医師である院長、病院経営を纏める医事課長(もしくは事務長)、そして最も数が多い看護師の長、看護部長の派閥で構成されています。

 薬剤師といったコメディカルの木っ端など、大した発言力もございません。

 同じ新人研修を受けていても、他の職種からの扱いなど推して知るべしなのです。

 私たち薬剤師だけお昼のお弁当が用意されていなかった恨みは今でも忘れられません(おそらくただの偶然)。


 つまり何が言いたいかというと、入職をした時点で自分の立ち位置を教え込まれるということです。

 出しゃばったマネをすれば良くて周囲から無視。最悪のケースは職場からの追放です。

 この弱肉強食のサバンナでの立ち振る舞いを入職してすぐに理解し、極力目立たないことを覚えなければこの先やっていけないということを研修で学ぶわけですね。


 そういうわけでなぜ病院薬剤師が今まで目立たなかったかというと。

 別に目立ちたくなかったわけではなく、あえて目立って波風を立てないようにしていたのです。


 しかしながら、それに当て嵌まらない薬剤師のごく少数の方は異様にプライドが高いことがあったり。

 医師と同じ大学を6年間通い(以前は4年でしたが)、更に大学院に進んだり国家試験に合格したりという実績を積んだ誇りがあるので、他の職業に舐められるのがどうしても我慢ならない方々がいるのです。

 その気持ちはとても分かるのですが、同じく一部のプライドの高い看護師さんと衝突すると本当に大変。

 患者さんの情報をリアルタイムで一番把握しているのが看護師なので、険悪ムードのせいでその辺りの情報のやり取りがやりにくくなると薬剤師は仕事にならんのです。

 スタッフの一部が喧嘩しただけでも部署や病院内に波及し、1か月は冷戦状態といったことも。


 そういったこともあって薬剤師は更に小さく縮こまり、病院の地下や狭い調剤室でせせこましく調剤をしている……のかもしれない。



 とまぁ簡単に病院内での薬剤師の生態について書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。

 可哀想になった? 情けない? 同情する?

 いろんな意見があるかと思いますが、これはあくまで私が体験した事に基づいての意見ですので、全ての病院薬剤師がそうだというわけではありません。

 最近では薬剤師も職業価値を高めようと努力し、専門性やメディア等への露出が高くなっている傾向があります。

 冒頭で挙げましたドラマや漫画、小説などもその一つですね。


 そして最後に、最も大事な点をお伝えしておきます。

 看護師さんはみーんな白衣の天使ですし、勿論と〜っても優しい方ばかりです。

 その辺りは誤解のなきようお願い申し上げます。

 ……お願いしますよ?(切実)



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