49話

「あと1分で後半開始します!」


 審判の武井さんの声が掛かり、俺たちは後半の作戦を確認した。

 俺たちの作戦としては前半終了間際と同様に、高い位置からプレスをかけてボールを奪いそのまま攻撃を仕掛ける、というものだ。


「おし、あと15分……泣いても笑っても15分で全てが決まる。全力を尽くそうぜ!」

「おう」「うん」「がんばるべ」


 後半開始前にも俺たちは自然と円陣を組んでいた。しかもいつもは伝統的に何の反応もしない俺たちから、自然と返事が発生してきたのだ。


「やっと面白くなってきたじゃん」


 不意に後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこには翔先輩がニヤリと笑っていた。

 ピピー、と武井さんの笛が大きく鳴り、俺が反応を返す前に後半がスタートしてしまった。




 ハーフタイムを挟んでのキックオフだったが、ペースは依然として俺たち1年チームが握っているように見えた。

 ハーフタイムは5分以上あったはずだが(適当な試合なのでハーフタイムも適当だった。当然正式な試合ならば時間はきっちり決まっている)、前半終了間際のペースがどちらのチームにも色濃く残っているようだ。

 こちらは何度でも交代出来るというルール上のアドバンテージを生かし、再びメンバーを入れ替えていた。前線からボールを追い回す吉田はそのままに、ゴールを決めた竹下に替えて森田を入れていた。普通に考えれば技術も体力もない太一を下げるのだろうが、誰もそうしようとは言い出さなかった。やはり太一の守備面での存在感をみんなが強く感じていたのだ。


(しかし……さっきの翔先輩の言葉は何だったんだろうか?)


 俺はどこかその言葉が頭に引っ掛かっていた。

『やっと面白くなってきたじゃん』という言葉は、受け取り方によっては単なる強がりの言葉にも聞こえる。「1点を返してくれて一方的なゲーム展開にならずに、いい勝負になりそうだ」という意味が普通かもしれない。……だが、そういう意味で受け取れるほど一方的な試合展開だったわけではない。序盤こそ2年チームの展開で2点のリードを許したものの、その後の展開は互角と言って良いだろう。この状況で「お前らが少しは骨のある相手で試合が退屈せずにすんだわ」という意味での言葉だとしたら、ちょっとイタい人だろう。翔先輩はそんな人ではない。


 あるいは……深読みしてみるともしかして翔先輩は、妹である奈緒が俺か太一に好意を抱いている……と勘違いしているのではないだろうか?そういった微妙な心情が思わぬエネルギーを産むことはたしかにあるだろうし、もしかして翔先輩は奈緒が好意を抱いている(という想定で)俺か太一に対して嫉妬心を燃やし「そんな相手ならば遠慮する必要は一切ない、叩き潰してやる」という覚悟を決めた……という意味での『やっと面白くなってきたじゃん』という言葉だったのだろうか?

 そういう意味かもしれないと意識し出すと……後半に入りグラウンド脇で堂々と観戦を始めた奈緒と桐山さんの女子2人の視線がやたらと気になり始めた。2年チームも1年チームもどこか前半より熱が入っているような気もしてきた。


 まあ真意は俺に分かるはずもないし、それを尋ねる機会もないだろう。試合後でも翔先輩に対して「アレどういう意味だったんスカ?」などと気軽に聞けるような距離感に俺はないのだ。

 気にせず目前の試合に集中する他はない。



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