40話

「前半あと10分だよ!」


 ベンチにいた森田から声が掛かった。

 前半5分が過ぎたということだが、俺たちには依然として苦しい状況が続いていた。

 

 サッカーは総合的なスポーツだ。複数のプレーヤーが絡むものだし、状況も一刻ずつ変わってゆく。だから俺たちが苦しい状況の要因を一つに絞ることなど本来は出来ない。逆に他の要素がボロボロでも何か一つの圧倒的な強みがあれば、それだけで勝てるのがサッカーだ。(例えばの話、俺たちのこのチームでも、もしメッシが入ったならば諸々の弱点がどれだけあっても勝てるだろう。)

 それでも俺たちの苦しみの要因をあえて幾つかに分解して挙げてみることにする。


 まず一つは守備だ。立ち上がりに2失点して以降は失点していないが、依然としてバタバタしており安定しているとはとても言えない。そしてこれは最後尾でディフェンスをしている太一と竹下だけの責任ではなくチーム全体としての問題なのだが、前線から守備をしてボールを奪うやり方をほとんど練習してこなかったという点だ。最前線に位置する高島は頑張って走り、前線からプレスを掛けていたが……チーム全体の連動したものではないから簡単にかわされる場面ばかりが目立った。

 もし前線、もしくは中盤でボールを奪うことが出来ていたら……攻撃も守備も展開はもっと楽なものになっただろう。


 もう一つは単純な技術不足だ。俺たちの緩いパス回しでは2年チームの恐怖にはならないということだ。俺たちにもう少し技術があれば2年チームのプレスを簡単に外して、もっと攻撃的な展開に持ってゆくことも容易だっただろう。何もチーム全員が上手くなる必要はない。……いやもちろん上手いに越したことはないのだが、この中に1人か2人だけでも上手い人間が入ればそれだけで時間的余裕を作れる。そうなると他の人間に掛かるプレスも遅れ、もっと余裕を持った選択をすることが出来たはずだ。

 もちろんパスを回す技術というのはサッカーの基本にして究極の技術だ。パス回しが上手い=サッカーが上手いと言っても過言ではない。だからパス回しが上手くなるというのは一朝一夕に出来ることではないのだが……もし一つ意識するとすればパス回しは受け手の方も重要になってくるという点だ。ボールを保持している人間に対して的確な角度・タイミング・距離でサポートに入れるかが、パス回しにおいてはとても重要な部分だ。

「技術」という言葉を聞くと、多くの人はドリブル・キック・トラップなど実際にボールに関わる技術ばかりをイメージするが、適切な場所とタイミングでボールを受けられるように走ることも同等に重要な技術なのである。

 そしてもちろん、ボールを受けてからのプレーを事前にイメージしておくことも大事だ。俺たちのレベルではボールを受けてから「さて、どうしようか?」と考えてしまうことが多い。これではレベルは上がっていかないだろう。


 さらにもう一つ俺たちのチームの具体的問題を挙げるとすれば、最前線に位置する高島の動きだろう。前線でボールを受けようと安東は動き回っていたのだが、高島はそれに連動して動いてはいなかった。高島は1年同士の練習では恵まれた体格を生かして中央でボールを受けることが多かった。相手DFを背負っていても競り負けることはほとんどなかったからだ。

 だが今は状況が違う。2年チームは高島のそうした特徴も十分に把握しているしその上でボールを奪える自信も持っているだろう。今の状況で中央の高島にボールを入れても打開が難しい以上、高島には前線で動き回る安東と連動したタイミングでパスを受けるために動き出して欲しかった。その動きが多少雑なものになったとしても、連動したタイミングならばある程度2年DF陣は混乱しただろう。

 そうした連動が欲しかったところだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る