22話

「おし、じゃあミニゲームやってみるか。ここで戦力を判断してアイツらの対策を考えていこうと思ってるからな。チームは、今の鳥かごをやったチームでいこう」


 なんとなく鳥かごの練習が終わって、キャプテンがそう声を掛けた。皆黙ってうなずく。体育会系らしい威勢のいい返事などは特にないのがこのチームの特徴だ。


「……太一、ルールは大体分かるよな?基本的には普通のサッカーの小さい版だと思えば良いよ。オフサイドは無しだし、キーパーも無しだ」


「うん、大体大丈夫だと思うよ」


 今までの練習中はあまり冴えなかった太一の表情が、少し明るさを取り戻してきたような気がする。目にしたことがある実戦形式の方が、太一にとっては馴染みやすいのかもしれない。


「安東は前目で、吉川は真ん中な。俺は後ろやるから。で……とりあえず川田君は好きに動いて良いよ。ボール持ったらまずは味方にパスすることを考えてくれ。ミスっても気にしなくて良いからな!」


 キャプテンがそう声を掛けて我がチームの作戦は決まった。……いや、もちろん作戦と言えるほどのものではないが。

 弱小の極みと言える我が『向陽高校』サッカー部と言えど、流石に本番の試合ではきちんとした作戦を立てるし、そのフォーメーションに基づいた練習を行う。だが、今回は4対4のミニゲームだ。作戦はこれくらいで充分だし、実際には今ざっくり決めたフォーメーションですら試合中は大きく変わってゆくだろう。


「おーし、じゃあとりあえず10分ハーフで!」


 キャプテンの声でミニゲームが始まった。




(……やっぱり太一にいきなりゲームは難しかったか?)

 開始から2,3分経ったが太一の動きはイマイチだった。

 基礎のボールタッチや鳥かごをしていた時の動きを見ていたら、もう少し出来るんじゃないかと思っていたが、まだ実戦に近いゲームの感覚にはついていけていないようだ。

 やはりサッカーをしている人間は、ゲームになると一段階ギアが上がる。相手も戦力的には大したことのない1年生だけのチームなのだが、太一には寄せが早くプレッシャーがキツく感じられるのだろう。……まあ、初めてなんだからそれも当然だろう。

 ちなみに戦力的には本来こちらが有利なはずだった。

 相手チームには183センチという長身の高島、俊足の吉田という特徴のある二人がいたが、二人とも高校になってからサッカーを始めた選手で、まだまだ自分の強みを生かせる場面は少ない。残る二人の森田と竹下は経験者で堅実なプレーをするが、経験者な分だけプレーも読みやすく悪く言えばあまり特徴がない。どちらかと言えば怖いのは時に強引なプレーを仕掛けてくる高島と吉田の方だった。

 対するこちらのチームは2年の今井キャプテン、俺、安東という3人だ。

 今井キャプテンは本来はゴールキーパーだが、この中でならフィールドプレイヤーとしても充分に通用する。攻撃的なセンスはあまりないが、ディフェンス面ではやはり強い。安東もオールラウンドで特徴の強い選手ではないが、1年の中では一番テクニックがあり、逆に言うとこのレベルのゲームでなら何でも出来る。俺自身もオールラウンドな選手だ(ちなみに攻撃的なセンスは安東の方があり、守備面では俺の方が貢献度は高いと思う)。


 ここにサッカー部の誰が入っても俺たちのチームが有利になるだろう。……しかしここに4人目として入るのが全くの未経験者である太一だと話はそう簡単にはいかなくなる。これがサッカーの難しいところであり、面白いところだろう。


 弱い鎖の論理……というものを聞いたことがあるだろうか?

 他の箇所がどれだけ頑丈な鋼鉄で出来ていても、一箇所だけ弱い紐で出来ているような鎖があったとしたら、その鎖は紐の箇所からあっという間に切れてしまう。要は鎖の強度を決めるのはその鎖の最も弱い箇所なのである……という話である。

 サッカーにはモロにこれが当てはまる。強い人間が弱い人間をカバーするということには限界があるのだ。ましてや4対4という少人数のゲームではそれが顕著だ。攻撃面・守備面ともに「最低限これだけはやってくれ」というタスクが1人こなせないとなると戦術は崩壊する。チームとしてはかなり厳しい。

 もちろん今日サッカーを始めたばかりの太一に一人前の働きを望む方が無謀なのだが、そういったサッカーの構造的な部分も思い出した上で俺は(やはり厳しいな……)と感じていたのだった。



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