10話
これからどうなるんだろうな……と不安な気持ちを抱えたまま部活に行ったところ、実にあっさりと事態は好転する。
翔先輩と中野先輩をはじめとした6人の2年生が全員部活に来ていたのだ!
「おはざいますっ!」
「おう」
翔先輩も普通に挨拶を返してくれた。
中野先輩も、岸本先輩も、川藤先輩、高野先輩、今野先輩……6人全員が揃っていた。皆笑顔でアップを始めていた。
1年生たちも全員が揃って明らかに気合いが入っているのが表情から伝わって来る。
「おーし、じゃあ練習始めるぞ~」
今井キャプテンが号令をかけ、タラタラと皆がそのもとに集まってゆく。
(よっしゃ、ここから新チームの出発だ!)
小っ恥ずかしくて他人はおろか、同じ部員の誰にも言えないが、俺はちょっと感動しながらキャプテンのもとにダッシュした。
(……くっそ、先輩たち全然やる気ないな)
練習が始まってもう30分近く経っていたが、流石に俺は少しイライラしてきていた。
皆キャプテンのもと指示されたメニューはこなしている。そこに異議を申し立てる者は誰もいない。
だが2年の先輩たちは明らかに真剣さを欠いていた。
夏の大会中までの先輩たちの動きとはまるで違う。1~2週間練習を休んだところで身体のキレはそんなに落ちたりはしない。
……いや、もちろんトップレベルでやっている連中にとっては大きな違いなのかもしれない。
だがなんと言っても我が向陽高校サッカー部は万年予選一回戦負け常連校なのだ!そんな連中と一緒にされては困る!
……まあ、あれだ、つまり、先輩たちの動きがタラタラしているのは明らかに本人たちの意図的なものだってことだ。
サッカーにミスは付き物だし、ましてや俺たちのレベルではミスのないプレイが連続で起きることの方が珍しいのだが、それでも自分がミスしてボールを失った時は真剣に取り返しにいくくらいの気持ちはあった。
今はそれすらなく、ミスをしてもお互いにへらへらしているような状況だった。
当然それは1年生部員の方にも影響を与える。
誰も言葉には出さなかったが、先輩たちがそういう感じでやっていると「こっちは本気でいって良いのか?」という疑問が生じてくる。その影響を受けて1年生側がプレッシャーに行けず、2年生側もますます緩慢なプレーに……と悪循環してゆくのだった。
「おーし、一回休憩にしよう!」
今井キャプテンが声を張り上げた。
当然キャプテンもそうした空気を感じており、良くない状況であることは充分に分かっているはずだ。
だが今それを、翔先輩たち2年生6人に大っぴらに口にして注意をするのが難しいのも痛いほどわかった。
機嫌を損ねられてまた明日から部活に来ないなんてことになれば、サッカー部の存続そのものが危うくなる可能性が高いのだ。
「いや、久しぶりだけど翔のドリブルのキレはさすがだな!」
休憩中みんなで水を飲みながらダベっていると、今井キャプテンがわざとらしい声で俺に話しかけてきた。
ちなみに我がサッカー部にクラブハウスのような立派なものはない。校舎の陰にいつ誰が設置したのか分からない、ビニールシートのスペースがあり、そこにカバンを置き着替えるのだった。
「いやホントですよ!それに中野先輩のキープ力も相変わらずヤバいですね」
俺もすぐに意図を察して普段よりも大きな声を出す。
「だよな~」
意図が伝わったのだろう。キャプテンの返事もワントーンさらに上がる。
だが当の翔先輩たちはまるでその声に気付いていないように、6人だけで何か話して爆笑していた。
キャプテンと俺は顔を見合わせ、小さく首を振った。
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