埋もれ人

 白くフワフワとした地面を踏めば、踏む度にキシキシと鳴り、気を抜けばつるりと足を掬われるような、寒く痛い雪の日。この町で雪が降り、且つこんなにも積もるのはいったい何年いつぶりだろうか。

 この町は、この地方は、比較的温暖な気候にある。よって冬でも雪が降ることは少ない。多少降ったとしても、所詮は粉雪。肌や地表に触れればすぐに溶け、積もること無く消えゆく。故に、この町に住む人達は皆、突然の積雪への耐性が無い。少し外を歩けば滑り、転び、冷たい雪に触れて痛みさえ感じる。しかし、嫌だとは誰も言っていない。

 犬は喜び庭駆け回り、猫は炬燵で丸くなる。子供は風の子、大人は火の子。昔から伝わる文面では、大概、雪を喜ぶ者と火の方へ逃げる者に分かれる。実際、現代でも大体その通りであると言える。しかし、この町は違う。普段積もることのない雪に高揚し、昂り、子供も大人も積もった雪に触れる。中には早朝にも関わらず既に複数体の雪達磨ゆきだるまを作り上げている家もある。

 私は雪国生まれではないが、雪を巻き込みながら吹く風は寒くなく、素肌に触れる冷たい雪も痛くない。陽の逆光で灰のように見える降雪をただ見つめながら、人を待つ。

 誰を待っているのか?

 誰でもいいのです。

 誰か、人が来てくれれば、それで。

 雪に高揚するのは無理のないことで、高揚しすぎて視野が狭くなるのも仕方の無いことではあると思います。

 しかし、早く私を見つけてください。

 雪に埋もれ、冷たく、硬くなった私を。


 誰か、早く、私を見つけてください。

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