41.空閑と茅野の過去。
『ありがとな。じゃあ、特別に話してやろう』
いやいやいやいや。なんでこいつは俺よりも偉そうなわけ?
まあ、十中八九「これは今後の
でも、嬉しいのは事実だから。それはそれで否定できないけども。
「こちらこそ、ありがとう」
『え、うん……それで、総は茅野と俺がどこで知り合ったかってのは知ってる?』
……知ってはいる。というか、先ほど知ったばかりだ。なぜかって? それは、帰り道の途中で茅野に少し教えてもらったから。
でも、教えてもらったのはいつ出会ったのかぐらいの些細な情報だし、ほとんど無知に近いだろう。
「いや、知らない」
『そっか〜。なら、そこから話したほうがよさそうだな』
「うん。頼む」
と言ったはいいけども、これで空閑と茅野の過去の惚気話でも聞かされたら、流石に嫉妬しちゃうかもな。
『俺が茅野と出会ったのは、高学年のときのたしか……小学五年生のときだったかなー』
「うん」
俺は空閑の話を聞きながらも、こういう長話のときの相槌ってどの程度打てばいいのかしら? と人知れず悩んでいた。
『それで、その出会ったきっかけっていうのが公園で遊んでたときだった。要は、俺が茅野の存在を初めて知ったのが学校ではなく、公園だったってこと』
「ほう……え、どゆこと?」
俺は空閑に質問を返した。
『まあ、そう焦らないでくれ。今からそれも話すからさ』
「……わかった」
なんか気に食わねー。別に焦ってないからね? 普通に疑問に思ったから質問しただけだからね? そこんとこよろしく!
『それで、なぜ公園なんかで出会えたかというと……俺には仲の良いその、男子の学年のリーダー的な奴がいてさ。そいつが、毎回いろんな人を公園に集めてたんだ』
うん。一クラスに……否、一学年に一人は「こいつって、リーダーシップあるよな」って人いるよね。俺も小学生のときにそんな奴がいたわ。
『でも、そいつが集めてたのは男子だけ。女子は女子で俺たちとは別のグループがあってさ。そう……』
ん? 呼んだ? ……たぶん、呼んでないね。
『で、これは俺も女子じゃないからわかんないんだけど、見てた感じだと女子にも女子のリーダー的な奴がいたんだ』
小学生だからと侮ることなかれ。小学生にだって、男女別でリーダーというのは存在する。
『それで、そのリーダー的な女子も、たまたま? なのかはわかんないけど、俺たち男子たちが遊んでいるのと同じ公園に、自分の女子友達を引き連れて遊んでたんだ。すると、どうだろう。いつの間にか公園で遊ぶときには、男女混合で遊ぶことが徐々に増えていった』
なるほどな〜。この後の展開は大体予想がつくけど、人が話してるのに、その話の腰を折るのはよくないからやめておこう。
『で。ある日の放課後、俺たち男子が公園でいつものようにサッカーをしていると、そのリーダー女子の友達がペットカートに犬を乗せて遊びに来たんだ』
「それが、茅野か」
『いや、違う』
マジか、違うのかよ。それに、いつの間にか人の話の腰折っちゃってるじゃねぇかよ。
『それで、話を戻すと……って、リーダー女子の友達がペットカートに犬を乗せて俺たちがいる公園に遊びにきていた、ってところでいいんだよな?』
「そうそう。……ごめん、途中で話に割り込んじゃって」
『まあ、いいけどよ。それで、そのときに俺がボールを一回変なところに蹴っちゃって、そのペットカートに俺が蹴ったボールが見事にヒット。ちなみに、総的にはこの後どうなったと思う?』
どうなったと思うって言われてもな……。
「犬がボールの衝撃で死亡した」
『違う。公園にいる女子全員から総スカンを食らった。もちろん、うちの学校の女子だけな』
そうすかん……ソース感? たぶん、違うな。この話の文脈で捉えると、攻撃方法の技名とかだろうか。
「そうすかんって何?」
『……え、総スカンも知らないのに
「いや、関係ないだろ。そんなプロレスの技名なんて普通、知らないでしょ」
『またテキトーなことを。全然プロレスの技名じゃないし。総スカンっていうのはここでは、皆から非難されて俺だけが孤立した状態になること、かな』
「……ってことは、その空閑が犬のペットカート? にサッカーボールを当てたことで、その行為について空閑が女子全員から非難を食らって、女子からは誰も空閑の味方をしてくれなかったってことか」
『そう。っていっても、被害を受けた当事者だった犬女子は俺のことを許してくれてたみたいなんだ。でも、なぜかそのリーダー格の女子が俺のことを許してくれなくてさ。だから、犬女子以外は全女子が俺のことを責めてた。それで、俺と一緒にサッカーをやってたリーダー格の男子も『空閑も悪気があって当てたんじゃないし』みたいなことを最初は言ってくれてたんだけど、それでもリーダー格の女子が頑なに許してくれなくてさ……』
「うん」
『でも、あとから公園に来た茅野が俺のことを味方してくれたんだ。茅野が他の女子や犬女子本人から事情を聞いたあとに、リーダー女子に向かって、彼だって犬にボールを当てたくて当てたわけじゃないと思う。それに、何より本人はもう許してるみたいよ。なら、あなたがそれ以上彼を責める必要もないと思うけど、みたいなことを言ってくれて、そしたらリーダー女子もあっさりと許してくれたんだ』
俺はこの話を聞いて、素直に感心していた。
「へぇ〜、茅野はすごいな。何がすごいって、茅野以外の女子全員が空閑のことを非難してたのに、それでも茅野はお前の味方をしてくれたってのがすごいと思う。でも、茅野以外の女子もなんで誰も味方してくれなかったんだろうな?」
『あー。こっからは俺の予想なんだけど、そもそも犬女子が俺のことを許してくれてたことをリーダー女子が理解してなかったんだと思う。たしかに犬女子は、私は大丈夫、的なことは言ってたんだけど、その言葉も弱々しかったし、言わされてる感が見てる側からしたらあった。それで、リーダー女子が犬女子は、本当は空閑のことを許してないんじゃないか、って勘違いして犬女子の意見を代弁したかのように俺に強くあたったんだと思う。そうすると、必然的に他の女子たちもリーダー女子の意見に加担しなきゃいけないだろ? だから、誰も俺の味方をしてくれなかったんだと思う』
「……なるほどなー」
やっぱり、誰も女王様の意見には逆らえないよな。
でも今の話って聞いた感じによると、優しさが生んだ悲劇だったのかもな、とも思う。
だって、リーダー女子は犬女子が自分の意見をはっきり言えないことを気遣ったつもりでその犬女子の代わりに空閑に意見を言ったんだろ? なら、その行い自体は犬女子のことを想っていたからこその行いだったわけで、リーダー女子自体は普通に優しい女の子だったのだと思う。
「……ありがとな、面白い話だった。」
『いや、まだ終わってない』
「え、どゆこと?」
『犬女子の名前をまだ言ってないだろ? たぶん、総の知ってる人だと思うよ』
俺が知ってる人……? 誰だろう。俺、気になります!
『ヒントは、総と同じ中学だった子。心当たりは?』
「ない!」
即答だった。考えるのがめんどくさい、だなんて言えない。
『え、はや。考えてないじゃん』
「な、バレてた……」
空閑は俺がそれでも考えることはしないと思ったのか、ため息まじりに再び口を開き始めた。
『えーっとー、
「はっ!?
『はやっ! 反応が早い。まだ言い終わってなかったんだけど』
まあ、七海が俺と同じ中学なのは知っていた。だって、あいつが最初に高校で話しかけてきたセリフが『ねえ、日方くんだよね? ほら、同じ中学校の! もしかして、私のこと知らない?』みたいな感じだったからな。
『でも、やっぱり知ってたんだな。中学のときに七海と同じクラスになったことある?』
「いや、ない……そう考えると、なんで七海は俺が同じ中学だったって知ってたんだろう? 俺、学校内で七海に会ったことなかったと思うけど……」
そんな俺の疑問に空閑がすぐに答える。
『会ったことはなくても、総は学校内で有名人だったわけだし、七海が知っててもおかしくないでしょ』
「そうなの? 自分じゃ全然わかんなかったけど」
『だって、転校生だろ? しかも、中三年の夏の中途半端な時期に。普通に考えて頭おかしいし、どんな奴かは誰でも気になるでしょ。だから、その時に七海も総のことを知ったんじゃない? それか元々知ってたか』
「そうかな〜……」
『まあいいや。とりあえず、俺の話は今日はここまで。まだ話したいことはいっぱいあるから、それはまた今度話すわ』
「あ、うん。じゃあねー」
と言ったあとに、俺は通話終了ボタンを押した。
それにしても、まさか茅野と七海が同じ小学校に通ってたなんてな。それに、空閑も同じだったとは。意外と世間って狭い。
……そうか。だから前に会ったときに、茅野が俺に告白をした件について七海が知ってたのか。ずっと、茅野と七海っていつ友達になったんだろう、と思ってたけどこの二人はそもそもが小学校からの知り合いだったわけか。
ってことは、茅野に俺がしたことはほとんど七海に漏洩してるって思ったほうがいいかもな。
だとすると、今日の俺と茅野の約束もいづれ七海に漏れるんだろうな。いや、もう漏れてるかもしれない。
女子の情報網の凄さに圧倒されるとともに、自分が抱いていた茅野像は一瞬にして砕け散った。
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二作目連載作品
『いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330654542983839
↑こちらも是非ともよろしくお願いいたします。
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