22.遊園地②
それにしても……これは何のアトラクションに並んでるんだ?
俺はふと気になったので
「なあ、これってなんのアトラクションに並んでんの?」
浅間は直ぐに答えてくれた。
「わからん」
だよねー。二人とも同じ感じで意識飛ばしながら歩いてたんだからわかるわけないよね。
なんかでも周りを見てみると、なんとなく雰囲気がジェットコースターっぽい気がする。
七海が俺たちに言う。
「ジェットコースターだよ!」
流石です!
俺こと
そういえばこいつ……こんなに優しくて、可愛いうえに気を遣えるし、運動もできるのに彼氏の噂を聞いたことがないな。
なんでだ?
俺が知らないだけだろうか。
とそんなことを思っていると、俺たちがジェットコースターに乗る番まであと少しになっていた。
ジェットコースターの機械がすぐそばに見える。
そこで七海が急に後ろにいる俺たちのほうを向いた。
「せっかくだし……このまま乗ってもなんかつまんないからペアをグーパーで決めようよ!」
グーパーというのはグーかパーをある合図の後にそれぞれが出し、同じ物を出したもの同士でペアを組むというものだ。
誰も異を唱えることはなかったので俺たちはグーパーをすることにした。
結果は俺と茅野ペア、浅間と七海ペアになってしまった。
なぜこんな表現をしているかというと、現彼氏である浅間がいるときに、その彼女である茅野と一緒にジェットコースターを二人きりでってキツくない?
そんなことあるよね……?
そして俺たちは無事ジェットコースターに乗り込む。
俺と茅野が三列目で、浅間と七海が俺たちの後ろの六列目だ。
なぜ前後ではないかというと、俺たちは乗る直前のゲートに行く時に係員? になぜか離されてしまっていた。
これでは七海からの援助が得られないじゃない……。きっつー。
俺なりになるべく平静を装ってがんばるぞい!
俺は安全バーをおろすように係員に指示されたので、指示通りにおろす。
隣に目を向けてみると、安全バーをおろしている黒いベレー帽と黒縁メガネを外している茅野は少し怯えているように見えた。
こいつ案外ジェットコースターが苦手なタイプなのかな……。
俺は茅野のほうに顔を向けた。
俺は意を決して訊いてみることにした。
「大丈夫か?」
「……だいじょうぶ。あなたは大丈夫なの?」
茅野はこちらを見ずに、真正面よりかはやや下を向いていた。そして、そんな茅野の声は随分と震えていた。
「昔は苦手だったけど、乗ってるうちに慣れた」
「そっか……」
茅野の声は未だに震えている。
それにしてもこの状況下で茅野には申し訳ないが……、こいつほんとに顔整ってるな。
何をしたらこんな美人な顔で生まれられるの?
すると、ジェットコースターが動き出した。
茅野を見ていなくても分かるくらいには茅野は俺の隣で身体が小刻みに震えていた。
俺は流石に心配になり真正面を見据えながら茅野に問う。
「茅野、ほんとに大丈夫? まあ……ダメでももう降りられないけど」
言ったあとに少し後悔した。
やってしまった……、最後の言葉絶対余計な一言だったよね。
茅野をより追い詰めるような言葉を言ってしまった。ホント俺最低だな!
もうそろそろ俺に天罰が下りそうで恐い。
恐る恐る茅野の方を見る。
そんな中、茅野の気持ちに反してジェットコースターは徐々に高度を上げていく。
「て……」
それはそれは今にも消え入りそうな声だった。
ん? なんて言ったんだ?
「手……握って」
う? 聞き間違えだよな、多分。
「……、私の安全バーに置いてある手を早く握って! 落ちちゃう!」
次の瞬間、ジェットコースターは高度が最大のところでガチャっと音を立てて、一時停止した。
こうなると、あと数秒もすればジェットコースターは猛スピードで落ちることだろう。
「早くして!」
茅野は今にも泣き出しそうだった。
さすがの俺でも茅野がやばいことは伝わったので、仕方なく彼女の手を取り、握る。
仕方なくなんだからね!
「あった……」
茅野が何かを言った次の瞬間、ジェットコースターは物凄いスピードで落下し始めた。
いやー、意外とクセになりますなー、このスリル。特にこの尻ら辺が空中に浮いてフワってなる感じ……なんか良い。
ある者は、両手を空目掛けて真っ直ぐに挙げて、悲鳴にも似た声で叫びに叫ぶ。
ある者は、体を縮こませ、怯えに怯える。
ある者は、安全バーを必死に握り、心配そうな顔つきになる。
ある者は、手と手を握り合い、ほんの少し安堵する。
そして何回落ちたかもわからないほどジェットコースターは落ちた。
そのあと、ジェットコースターは平坦な道をゆっくりと進み、スタート地点に戻る。
その最中、茅野のほうを見てみる。
茅野の顔は見るからに青ざめていた。まるで魂が抜けたもぬけの殻のよう。
これ完全に一昔前の俺状態ですねー。
それにしても女子でジェットコースター苦手な奴っているんだな。
あんまりいるイメージが俺の中で湧かなかったわ。
茅野に話しかけてみる。
「茅野、終わったよ。大丈夫?」
茅野はゆっくりとこちらを向く。
なんか顔から生気吸い取られてて恐いんだけど。
「……終わったの?」
「うん、終わった」
その言葉を聞いてかすぐに茅野はあからさまにほっとした。
そして俺は確信した。
俺はこの笑顔を見るためだけに生まれてきたのだと。
それにしてもなんで浅間の奴、茅野がジェットコースター苦手って七海に言わなかったんだ?
……あーそうか、あいつもあいつで直前まで上の空だったもんな。
そこまで気を使う余裕がなかったのか。
それとも茅野と一緒に遊園地に行ったことがないのかなー? だから知らなかったとか。
まあ変に詮索するのもあいつに悪いな。やめておこう。
俺と茅野はつないでいた手を放した。
「ありがと……」
そんな茅野の言葉は、少し照れているように聞こえた。
「どういたしまして」
俺もそれに伝染したかのように照れながら言った。ナニソレキモチワル。
俺たちはジェットコースターから降りる。
「やっぱキツかったか?」
「うん、ちょっとね……」
だよな。その気持ちは凄い分かる。
いや、わかっていたのほうが正しいか。
そして、俺と茅野はロッカーに入れていた荷物やら何やらを取って、なにも喋らずに出口に向かう。
ジェットコースターが今はもう恐くないというわけじゃないんだ。
「ただその恐さを楽しいと感じるか感じないかの違いなんだろうな」と俺は一人思った。
俺は再び黒いベレー帽……略して「黒ベレー」と黒縁メガネを装着した茅野に向かって話しかける。
「まあそのうち慣れると思うよ……俺も前はジェットコースターに乗ったときには今の茅野みたいな感じになってたし……」
茅野は度肝を抜かれた様な顔になる。
「え、そうなの? ……全然そんな風には見えなかった」
茅野はこちらを向き、何故か関心したような目を俺に向けている。
何ですかその目は……。
「うん、そうだった」
俺も一昔前までは茅野と同じ気持ちだった。
具体的に言うと、ジェットコースターを楽しんでる奴の気持ちがまったく理解できなかった。
なんか俺「一昔前」ばっか言ってて居酒屋で酔っぱらったときのうざったいおっさんみたいだな。
以後気を付けよう。
俺と茅野は出口を通り越しジェットコースターの世界から解放される。
そして再びアトラクション選びのステージに俺たちは足を踏み入れる。
「二人のこと…待っといたほうがいいよな?」
「そうね。ここで待っていたほうがいいと思う」
ということで、ジェットコースターの出口を出てすぐのところで俺たちは浅間と七海を待つことにした。
「ねえ……私やっぱり……」
……ん?
俺は茅野が何かを言いかけていることに気づき、彼女のほうに振り向き茅野をしばらく見つめるが、茅野はこちらを無言で見つめるばかりで言葉の続きが紡がれることはなかった。
至極疑問に思った俺は、真正面に振り向くと浅間と七海が俺らのすぐ真ん前にやって来ていたことに気がついた。
「楽しかったね!」
「それ、俺的にはもう一回乗ってもいいかも」
などと彼らが楽しそうに会話をしていた。
これを聞く限り、浅間は茅野がジェットコースターを苦手だったってことは知らなかったぽいな。
俺はこいつらに「茅野はジェットコースター苦手らしいぞ!」と言おうと思ったが、「時間があったらもう一回乗ろっか!」と話がまとまってしまっていたっぽいので言いそびれてしまった。
まあ、そのもう一回がありそうなときはその時に俺が言えばいっか。
そのついでに次はどこに行くんだろうと思い、俺は彼らに尋ねてみることにした。
「次はどこ行く?」
「じゃあ、お昼前にいっちょかますか」
浅間は何やら悪巧みをしているような笑みを浮かべている。
いっちょかますって何をだ?
……げっ、こいつまさか。
俺はこいつのせいでここまで忘れかけていた存在を思い出してしまっていた。
「そうしよう!」
浅間と七海は以前に見せた悪気のある笑顔をまたもや顔に浮かべてい。
さ・い・あ・く・だ。
俺は今すぐにでも帰りたい衝動に駆られていた。
それになんか腹痛くなってきた。
それもかなりヤバいやつ。
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二作目連載作品
『いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330654542983839
↑こちらも是非ともよろしくお願いいたします。
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