20.そして彼は家を離れる
月日は流れに流れ、時は来たり。
いや、そんなに流れてないや。
そう、今日は
「楽しみで昨日寝れなかったでしょ?」と聞かれたら、答えは否だ。
余裕で寝れた。なんなら起きたくなかった。
もうね、行く前から嫌な予感しかしないよね。
絶対嫌がらせしてくるよね。
イジメ反対! イジメ反対! っていう運動を起こしたいぐらいには嫌な予感がする。
俺は今、仰向けで天井を見ながらそんなことを考えていた。
そう、つまりベッドの上で昨日睡眠に入り、日を跨いで今起きたところである。
人間が当たり前のように行う行為を今一度見直してみてはいかがですか?
んー、なんかの勧誘みたいだな。
ふと、今何時だろうと疑問に思い、デジタル置き時計を確認する。
時計は全ての数字を青いライトで映し出し、二つの0の字と6と7の字を光らせていた。
さーて何時でしょうか?
正解はCMのあとで。
嘘です、すみません、殴らないでください。
答えは午前06時07分でしたー。ちなみに午前か午後かのヒントもどこかに隠されていたと思うよ、知らんけど。
一つここで俺についての豆知識を紹介します。
俺は学校に行くときには6時前には起きているので週末で学校がなくても大抵6時すぎには身体が起きてしまうのです。起きたくなくても……。
まあ「早起きは三文の徳」とも言うし、遅く起きたときよりも早く起きたときのほうが一日がより充実しているように思えるのでよしとしよう。
そういえば待ち合わせの時間って何時だったけ?
まさかすでに手遅れなのでは……と思い、今どき使っていない人はほとんどいないであろうメッセージアプリを開く。
「えーっと……あった」
俺はいつの間にか参加させられていたグループを開いて、昨日のトーク内容を確認する。
そこには『最寄り駅に8時半集合!』という七海の言葉が最後に書かれていた。
どうでもいいが、この最後の言葉のあとに誰も返信しないところに俺たちの仲の良さや七海の立場が隠れていると思う。
普通だったら、このメッセージのあとにメッセージ返しを送らないと嫌われるかなと思い、『了解!』や『わかった』などの返信を入れると思う。
しかし、そんな返信が返されなくても俺たちがこの時間に来ることを七海は知っている。
そして俺達も七海から指定された時間を決して破ることはない。
これらの互いの信頼により、俺たちが『了解!』や『わかった』などのあってもなくてもいい返信の手間を省くことができる。
腹が痛くなったり、電車が遅れたり、寝坊したりなどの場合は指定された時間に集まれないかもしれないが……。
要は、普通にいけば俺たちは8時半までに三人共が遊園地に着くことになるということだ。
まあ、自分の属するグループについて自分で自慢語りのようなことをするのは相当気持ち悪いけど…。
そんなことを思っていると、俺の枕近くに置いてあるデジタル時計は、06時30分という数字を青いライトで光らせていた。
もうそろそろ準備するか。
俺はベッドから下りて立ち上がり、朝のルーティンをなんなくこなした。
そして問題はここからである。
家を出なければならない時間まではまだあと一時間ほどある。恐らく時間は充分であろう。
よし、始めるか。
今から何を始めるのかというと……服選びである。
浅間や他の男子たちだけと遊ぶだけなら正直服選びという時間をわざわざ取ったりはしない。
いや、我ながら大袈裟すぎる。
こんな時間をとっても普段と何ら変わらない服装になるのは目に見えている。
でも時間に余裕を持たないで後悔するよりかは時間に余裕を持って、自分の全力を尽くし、後悔したほうがいいと思う。
後悔する前提なのかよ……。
まずは自分のタンスに入っている服を一通り一瞥する。
うーん、パッとしないな。
俺が普段服を買うモットーとしては時に無難、時にちょっぴり奇抜である。
具体的に言うと無難に黒や白い服を買ったり、ちょっぴり奇抜な水色の服や薄茶色の服を買ったりする。
要するにあまりこだわりはなく、その場で「これが良いな」と思ったのを試着してパパっと買う感じだ。
必ずするこだわりと言えば、「試着をする」ということくらいだ。
まあ、皆買う前は試着してるか。
見て「これ、めっちゃいいじゃん」と思った服でもいざ着てみると、サイズが合わなかったり、形がしっくりこなかったりすることがよくある。
俺の経験則で言えば「形が思ってたのと違う」というのはよくあることである。
それらが相まって、ネットで服を買うというのはあまりしない。
言わずもがな、試着ができないからである。
さて、もうそろそろ具体的な今日着ていく服を決めよう!
天気予報によると、今日の昼はいつもよりも暑くなるらしい。
昼は長袖一枚でも大丈夫だとか何とか。だから脱ぎ着が簡単にできる服がいいだろう。
俺は暑がりなこともあり、半袖の上に上着を着る形にしようと思う。
そして次の動作として、俺は迷わず黒い長ズボンをタンスから取る。正確に言えば、黒い……チノパン? だと思う。
靴に関しては黒と白のスニーカーしか持っていないので、この時点で白のスニーカーを履くことは大体決まる。
理由は至極単純で、黒いズボンと黒いスニーカーだと色が被るからである。
靴下の色を黒以外の物にすれば多少アクセントは出ると思うが、個人的にそれでは少し物足りない気がする。ゆえに白スニーカーを選ぶ。
これでズボンと靴は決定!
続いてはメインである上半身の服だ。
先ほどのも言ったように俺は半袖の上に上着を着るので、俺が持っている半袖を見回してみる。
俺は安定の左側にポケットが付いたややオーバーサイズの白い半袖Tシャツを手に取って着る。
「困った時の白Tシャツ」という言葉が今年の流行語になってもいい程には白Tシャツは使い勝手がいい。
「そのファッションセンスって少し古くね?」というお声は金輪際受け付けておりません。
ファッションというのは結局のところ、自分の自己満足なのである。
「あれー? さっきと言ってること違くない?」と思ったそこのあなた、その通り。
自分でも「何言ってんだこいつ?」と思っていたところだ。
そうだよね、自己満足であるならば女子がいるときでもいつもと同じ服装で行くよね……。
いや、七海がいるからこそいつもよりオシャレをし、そんな自分に自分自身で満足する。
彼女に何も言われなくても、俺は満足することができる。
他人が関わったうえでの自己満足というのも存在するのではないか……。
……時間やばくない? え、今何時?
俺はベッドの上に放り投げていたスマホで時間を確認する。
07時22分とスマホには表示されていた。
『には』と言ったが、無論、他の時計にも同じ時間が表示されている。
「7時半には出たほうがいいから……あと一〇分弱か」
思っていたよりも時間が進んでいた。
ちょっとやばいですねー……もう何でもいいや。
俺は言わば投げやりになり、クローゼットにハンガーによって掛かっている濃い茶色の長袖オープンカラーシャツを白いポケット付き半袖Tシャツの上から着る。
ボタンは後で閉めよう。
そして肩掛けポーチに読みかけの本を入れ、携帯と財布をズボンのポケット左右片方ずつに装備。
俺は最後に机の上のある物に目を向ける。
少しの間見つめたあと、俺は一人ごちる。
「こいつは好みが別れそうだから今回はお預けにしよう」
そして俺は自室のドアを開け玄関に向かったが、玄関に辿り着いた時点で俺は気づく。
「あ、靴下……」
急いで自室に戻り、水色の靴下を開いたまんまのタンスから取る。
再び玄関に直行。
靴を履いて、一度俺の全身を玄関の長鏡の前で確認する。
うん、無難で悪くないと思う。
そして俺はやっと家を出ることに成功する。
そう、俺はついに飛び立ったのだ。
親許を離れる雛のように。
そしてこの時の俺はまだ知らなかった……。
何を知らなかったのかは……今を生きる俺にはまだわからない。
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二作目連載作品
『いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330654542983839
↑こちらも是非ともよろしくお願いいたします。
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