15.ボーリング
俺は彼の近くに行って話し掛けることを試みる。
俺が彼の容姿を見れたくらいだから、向こうも俺の顔を一回目で認識してるはずなんだけどな……。
なんで話しかけて来ないんだろう?
あいつにしては珍しく今は誰かに絡まれてほしくないのだろうか。
そんな彼の気持ちはいざ知らず、俺は彼の背後に回ることに成功したので彼の頬に俺の人差し指をくっつけることにした。
「うお……、びっくりした」
それはそれは随分と嘘くさいリアクションだった。こいつ絶対俺に気づいてて無視してただろ。
いつものこいつなら即座に俺にタックルを仕掛けてくるところなんだけどな……うん、しないね。
俺に話しかけづらい
「随分と嘘くさいリアクションだな……」
俺は俺の中に生息する思ったことをすぐに相手に伝えてしまう悪魔が起きてしまったせいで、彼に思っていたことを伝えてしまっていた。
「いや、そんなことないと思うけど……」
そんな会話をしていると、モニターを確認し終えたのであろう
「とうちゃーく!」
七海はそんな言葉を発しながら勢いをつけすぎたせいか俺たちの間を若干通りすぎたところで脚に急ブレーキをかける。
今にも車がブレーキを掛けた時に地面と擦れて鳴る、キューッッ! という音が聞こえてきそうだった。
七海は目の前の彼を眺めながら「
そう、謎の男の正体は
「やっぱりかよ」って声がどこからか聞こえて来そうなほどには謎でもなんでもないね。
浅間は今日もいつもと違い《たがい》のないイケてるフェイスに真っ黒な黒髪、ワックスをつけて髪型をアップバングにしていた。
服装はというと……、うーん、この服ってなんて呼ぶんだろう。
俺あんま服の名前とか分からないんだよね……。
えーと、下は普通の黒い長ズボンでしょ。それで上には無地の白いTシャツ? みたいなのの上に薄茶色っぽい色のカラーオープンシャツ半袖版? みたいなのを着ている。
これで正真正銘の爽やかイケメンの完成だ。
そして解説よくできました、俺。
その報酬に、誰か金を分けてください。俺の家のポストに札束を突っ込むだけでも構いません。
そんなことを考えている間にも浅間と七海は二人で何やらこそこそと会話をしていた。
俺に知られたくない内容なのは何となく察することができる。
俺はあえて彼らに「なに話してんのー?」とは問わずにこれからどうするかを聞いてみることにした。
「なあ、これからどうする?」
そのとき、浅間に一瞬の翳りが差したように見えたが、そんなことは俺の見間違いなんじゃないかと思わせるほどに浅間は至って普通に言う。
「お前らボーリングに行くんでしょ? 俺も一緒に行ってもいい? 一、二回投げるだけでもいいからさ」
それにしても、浅間の顔が一瞬暗くなったように見えたのは気のせいだったのだろうか。
「わかった」
浅間にはわかったとだけ返し、俺は浅間の隣にいる七海のほうを見た。
「それで俺たち呼ばれてた?」
「うん、呼ばれてたよ。もうそろそろ行かないとキャンセル扱いになっちゃうかも!」と七海が言ったので俺たちは急いで受付カウンターに向かった。
結論からいうと全く問題は無かった。
俺らはそれぞれボーリング場の有料貸出シューズを手に持ち、俺らのステージがある四階に向かった。
『俺らのステージ』というかっこいいようでダサい胡乱な呼び方をしたのには無論、特に理由はない。
俺らは準備を済ませ一人ずつ順番に投げる。といっても正確には俺と浅間は二人で1つの枠を交代で投げなければならない。
浅間はもちろんマイシューズである。さすがとしか言いようがない。
今だから言えることだが、浅間がマイシューズを持っていなければ彼は俺たちと会ってすぐに解散しなければならなかった。
正直この理由を説明するのは面倒だからヒントだけを与えよう。
ヒントは「ここのボーリング場は最初の受付のときにプランを決める」である。これはもう答え言ってるようなもんですね。
まあそんな話はこの辺にしておいて、俺の名前が一番最初に表示されているので、貸出シューズを履いた俺は11ポンドのハウスボールを持って自分たちのレーンの前にスタンバイ。
具体的には3本の指を三つあるボールの穴に入れて右胸の前にボールを構える。
ちなみに、ハウスボールというのはボーリング場にある貸出用のボールである。投げます!
俺はボールをしっかりと胸の前から後ろに引いてボールをレーンの前に突き出すように投げた。
ボールは勢いよくカーブをしながら前に進み、見事真ん中のピンのわずか右端に当たる。
決まったぜ! 結果、倒れたピンの本数は6本。
俺はストライクを確信していたのでボールを投げた直後、直ぐにドヤ顔で浅間と七海のほうに振り向き、そのまま平然と浅間の隣の席に着いていた。
ダサい、ダサすぎる。彼らは「そのドヤ顔、何に対しの顔だったの?」と心底疑問に思ったことだろう。
そして今は持ち合わせていないが、俺も浅間と同様マイシューズ、マイボールを持っているのはここだけの内緒だぞっ。
ストライクを取れなかった俺はもう一度ボールを抱え、レーンの前に立つ。
ちなみに俺の投げ方は「ローダウン」である。
ローダウンというのはボールの三つの穴に一本ずつ指を入れ…わかりやすく言うと普通にボーリングのボールを投げるときにする指の入れ方をする。
しかし普通の投げ方とは違い、手首や肘を柔軟に使うことによって高回転を生み出す投げ方である。
そしてプロのボーリング選手の多くがこの投げ方をしていると聞く。ホントかどうかは知らん。
最近は「サムレス」という投げ方をしている選手も増えているそうだが。
このサムレスという投げ方はその名の通り親指をボールの穴に入れずに投げる投球方法だ。これもローダウンと同じく高回転がかかる。
俺の主観だが、格好をつけるためにボールに回転をかけたがる学生たちはサムレスで投げている傾向が強いと思う。なぜならローダウンは一朝一夕で習得出来るような技ではないから(俺調べ)。
ここだけの話、俺がローダウンを習得するまでにどれだけ一人でボーリング場に通ったことか…。言うなれば、俺もローダウンを習得するまではサムレスで投げていた。
いや、だってカッコつけてでもモテたいじゃない?
言わずもがな俺は男子としかボーリングに行ったことはないのだが……。
おっと……、ボールを投げるのを忘れていたではないか。
周りから見れば「なんでこいつレーンの真ん中でボールを持ちながら突っ立ってんの? 今すぐにでも人間オブジェにして差し上げようか?」とか思われていると思う。
俺は先程と同じ投球法で素早く投げる。残っているピンの4本中2本だけ倒れた。解せぬ。
さてさて次は【皆のアイドル七海夏美ちゃん】が投げる番である。一応言っておくが、決してそんな名前は表示されていない。
七海はかわいく遅いストレートボールを投げ、コロコロコロとかわいい音を立てながらかわいく3本だけピンを倒すことだろう(俺調べ)。
では、皆で見てみよう。
すると七海は意外にも俺のボールよりも重い12ポンドのピンを抱え、レーンの前に立つ。この時点で俺は驚きを隠せない。
そして七海は胸の前にボールを掲げて次の瞬間、勢いよくボールを体の後ろに持っていき、プロ顔負けのフォームでボールをレーンに投げた。
ボールのスピードはというと俺に勝らずも劣らずと言ったところだ。
しかし七海のフォームの正確さも相まってか、見事にピンが全て倒れて七海はガッツポーズを決めた。
「やったっ! 」
俺は見事に、開いた口が塞がらない状態になっていた。
可愛くねぇ……。
れっきとした女の子だったのはピンを倒したあとの「やったっ!」という掛け声とそのときのガッツポーズだけであった。
ホント可愛くねぇなこいつ……。
ちなみに七海もローダウン勢であった。
七海はストライクを取ったのでここでターンエンドである。
今更だがボーリングがいまいちわからない人はネットで調べてからまた戻って来てくれ。
そして次はいよいよイケイケのイケである浅間の番である。
いつの間にか浅間はどこぞから出てきた自分のバッグからマイボールを取り出していた。
正直こいつのことはどうでもいいので、結果だけを伝えよう。
無論、華麗なストライクを決めていた。
まじこいつらプロになれるんじゃねえの?
※あくまでも主観なので俺をディスったり、訴えたりするのはやめてあげてください。
そのあとも彼らは全てがストライクとまではいかないものの、ほとんどをスペアとストライクで終え、俺一人だけ何とも言えぬボーリング初心者であった。
何度もいうが、俺も浅間と同じくマイボーラーである。
俺は「やっぱり友達とのボーリングは緊張するよね……、だからしょうがないよ
自分で自分を慰める始末である。何ともみっともない。
俺らは二ゲー厶分の投球を終えた。
結果発表! といきたいところだが何せ俺と浅間は交代で投球していたので、個人のスコアではない。
まあ、一応伝えておこう。
【日方と浅間ペア】
1ゲーム目 125点
2ゲーム目 130点
【七海夏海】
1ゲーム目 165点
2ゲーム目 181点
俺らは時に笑い、時に泣き、時に助け合い、時に喧嘩をし、時に手を取り合い、時に悲しむというザ・青春ボーリングを構築できるはずもなく、至って普通にボーリングを終えた。
このあと、「どうしよっか」という話になったが、満場一致でとりあえずボーリング場を出ることになった。
そして無料シャトルバスに乗って、俺達は川崎駅付近に戻ってきた。
俺は皆に尋ねる。
「どうする?」
すると浅間が突然携帯をポケットから取り出した。
「やべ、親がもう帰って来いだってさ……」
そして、すぐに「じゃあ、また学校で」と言いながら颯爽といなくなってしまった。何だったんだ?
七海のほうを見てみると、七海は俺のほうに振り向いて今日何度目になるかもわからない「お話しよっか!」を俺に喰らわせた。
効果はバツグンだ! でもまあ外も割と暗いんだよな。
そう思い携帯で時間を確認してみると、時刻は18時近かった。だから一応聞いてみることにした。
「もう18時近いけど帰らなくて大丈夫なの?」
七海は一瞬携帯を見たあとに、「親には連絡してあるから大丈夫!」と笑顔を浮かべた。
「……そうか」
今日はまだまだ終わってくれそうにないな、と柄にもなく思った。
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二作目連載作品
『いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330654542983839
↑こちらも是非ともよろしくお願いいたします。
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