13.予測だにせぬ出会い

 今日は待ちに待った土曜日。ゆえに、週末である。

 ここまで週末を嬉しく思ったことが今までであっただろうか……というほどに今週の週末は嬉しい。


 なぜなら、最近は衝撃的なことが多すぎて授業を聞いても全くと言っていいほとんど全ての授業の内容が理解できなかったからである。


 そして、その中でも昨日は色んな意味で波乱な一日であった。


 茅野椿 ちがや つばきの彼氏は俺と同じクラスの浅間京介あさま きょうすけであると茅野ちが や 本人の口から言われてしまったのである。そして最も衝撃的なのはここからである。


 茅野は浅間あさ ま の「彼女」であるにも関わらず『私はあなたのことが好き……だと思う』と俺本人に告げたのである。


 これはもう一種の「告白」と捉えても良かろう。そしてこの強烈な記憶のせいで昨日俺は「また寝れないのか……」と独り言をこぼしながらベッドに入った。結果はものの数分で寝れてしまった。


 突然だが、「自分にとって都合の良いこと」と「自分にとって都合の悪いこと」を比べてみよう。


 恐らく人間にとっては都合の良いことよりも都合の悪いことのほうが印象に残るうえに長く抱えやすいものなのかもしれない。


 短い期間に都合の良いこと都合の悪いことを立て続けに経験した俺がいうのだから間違いない。まずは昨日の俺を例に上げてみよう。


 具体的にいうと、昨日の俺はベッドに入って五分間くらいはニヤニヤしながら「茅野が俺のことを好き」ということによって起こるメリットとデメリットを考えていた。


 そしていくつものメリットのことについて反復して考えていたらいつの間にか朝になっていたのである。


 これは決して徹夜をして考えに耽っていたということではない。


 なぜなら、俺が朝を迎えた方法は目を瞑りながら朝を迎えるという方法だったからだ。


 つまるところ俺は「ものの数分で寝落ちをしてしまっていた」ということである。これが自分にとって都合の良いことの結果である。


 それに比べ、都合の悪いことを抱えていたときは寝ることはできたものの二、三時間は寝れなかった。


 ゆえに「二、三時間で寝落ちをしてしまっていた」ということになる。これが自分にとって都合の悪いことの結果である。


「寝落ちしてしまうまでの時間」を比べてもらえばわかると思うが、これらから自分にとって都合の良いことよりも自分にとって都合の悪いことの方が心身に抱える時間が長いということがわかった。Q.E.D. 証明終了。


 よし。どうでもいいことを証明し終えたところで、俺は自分の部屋の窓から外を眺める。


 俺が思わず「いい天気だ!」 と声に出してしまいそうなほどには天気はよかった。


「今日は外にでも出かけるか……」


 俺は独りごちりつつも、顔を洗いながらまたもや昨日のことについて考えていた。


「よくよく考えてみるとやっぱあいつやばいよな……」


 この「あいつ」というのは無論、茅野のことである。


 そのあと朝ごはんを済ませ、歯を磨くことも済ませ、御手洗も済ませ、着替えも済ませ、俺は外に出た。


 季節はすでに初秋である。


 今日は天気がいいことも相まって俺は半袖のシャツ一枚で外に出ているが、肌寒くはない。もちろんズボンも履いてるよ!


 ふと時計を確認してみると午前十一時を過ぎたところだった。


 俺の今日の予定はあてもなく川崎駅近くにあるショッピングモールの中をぶらぶらと散歩するというものだ。


 そして土曜日にも関わらず俺は約一時間半ほども電車に揺られて目的地のショッピングモールに着いた。


「なぜ家の近くのショッピングモールにしなかったの?」と思われるかもしれないがその理由はなんとなくである。


 そんなどうでもいいことを考えながら服屋さんを見てまわる。


 ちなみに、俺は服を買うときには自分が一目惚れをした奴を買うタイプである。試着は一応する。


 ほら……、買ったあとにサイズ合わなかったら面倒でしょ。


 そして俺はあっという間に服屋を巡回してしまったのである。


 自分のポケットに入っている携帯を取り出し時間を確認してみると14時を少し過ぎたところだった。


 俺は店と店の間の通路の丸い椅子がいくつも並んでいるところの前で突っ立った。


「これからどうしよっかな……」


 そんなことを思っていると、見たことある顔が近くの服屋にいるのを見つけた。


 少し幼さを感じさせる整った顔立ち。


 髪はサラサラな茶色がかった黒髪のロング。

 髪は結いている。


 雰囲気はスポーティーな女子って感じだ。


 眼鏡は掛けていない。


 服装は制服である。


 体格は少し小柄である。


 この特徴は完全に七海夏美ななみ なつみである。


 まあぶっちゃけ服装とか見なくても顔を見れば一発で誰かわかるけどね。


 七海なな み はどうやら友達と三人で服を選んでいるようだ。


 向こうはまだ俺に気づいていない様子である。


 週末に下手に異性の友達と会うと何をするのが正解かわからないよね。


 ここから俺が取れる行動パターンは三つある。


 一つ目は七海に近づきながら「お、七海じゃん。何でこんなところにいるの?」と言う。手を振りながらでもいいかもしれない。


 二つ目は俺が今の立っている状態をキープし、七海を見つめ続けて七海が俺に気づくのを待つ。


 恐らく七海は「誰かが私を視ている」という視線を感じて俺に気がつくと思う。


 そして七海が視線に敏感であればあるほどこの方法は有効である。


 三つ目は七海に気づかなかったフリをして華麗にスルー。そして七海から距離を取るために少しずつこの場所から離れる。


 ちなみに今俺は七海に釘付けになっている状態なので、必然的に二つ目の方法を実践している形になっている。


 なにやら友達と楽しそうにお話をしている様子だ。

 というかこの状況完全に俺ストーカー状態じゃない? 我ながらキモすぎる。


 自分の顔は自分からでは見ることはできないが、この俺の状態を第三者が見たら「大層気持ち悪い顔をして好奇な視線を女子高生に向けている男」という絵が出来上がっていることだろう。


 すると七海は友達と話しながらも俺と視線を合わせた……気がする。

 俺の勘違いかな?


 次の瞬間、俺の携帯が音を鳴らす。これはメールの音だろう。


 確認してみると、今俺の目の前にいる七海からのメールだった。


「えーと、なになに……」


 俺は小さな声でそれを音読する。


「……ちょっと待ってて」


「だとよ!」 と誰かに言いそうになったが俺は一人なのでその気持ちを押しとどめた。


 それにしてもこのメールどういう意味だ? そのままの意味で捉えてもいいのだろうか。


 とりあえず俺はすぐ真後ろにあった丸い椅子に座って彼女をぼっーと眺める。


 すると七海は友達二人に何かを話したあとにその友達に手を振っていた。


 そして七海はこちらに駆け足で向かってくる。


 俺はそれすらもぼっーと眺めていた。


 俺がぼっーとしている間に、七海はいつの間にか俺の真ん前に来ていた。


 俺は無言で目の前にいる七海を見つめ続ける。


「……」


 次の瞬間、七海は俺の真ん前で手を少し上に挙げ、自分の顔の横にその手をちょこんと可愛く添えてみせる。


「よっ!」


「……よっ?」


 俺は七海のいきなりの『よっ!』に少し驚きながらも、何とか俺も『……よっ?』を返すことに成功した。


 よし、帰ろう。

 今日の目的である伝説の挨拶を成し遂げることに成功したし。


 俺はその場で片足を後ろに下げ、小学校の体育のときに散々聞いた体育教員の『回れー……右!』を頭の中で再生しながら身体を回転させる。


 そしてその場から七海がいる方向とは反対方向に後ずさろうとすると、突如肩に手がぽんと置かれる。


 うーん、よくドラマとかで突然警察に後ろから肩を置かれる犯人の気持ちがわかった気がする。


 こりゃービビるわけだ。


 そして俺の耳元で声が囁かれる。


「なんで私から遠ざかろうとしてるの?」


 耳がこそばゆい。それとこのセリフだけ聴くと凄く怖い……。


 どこぞのメンヘラ妻に「貴方……、私から逃れられると思っているの?」と言われたときにその夫が身震いする気持ちがわかった気がする。まじこっわ……。


 そしてこの後に続く俺の行動はお決まりである。


「おそるおそる後ろを振り向きながら彼女の顔を見る」だ。

 ゆっくりと俺は振り向いてみると、七海は満面の笑みを浮かべていた。刺されそう……。


「少しここの椅子に座って話しよ!」


 このセリフだけ聴くと……もういいか。


 しつこい男は嫌われる! ってよく言うもんね。


「うん。そうするか」


 俺と七海は近くにある丸い椅子に座る。

 この椅子は小さな椅子なので二人で隣り合わせに違う椅子に座った。


 もう、なんか最近友達ともお話ばっかでつまんないよ……、遊びたいです。


 まあしょうがないか。


 状況が状況だし……。


「あのさ、椿ちゃんから聞いたんだけど……」


 果たして何を聞いたんでしょうか? このあとに続く言葉が物凄く怖いのです。


「たすけてー!」と叫びながら、防犯ブザーを鳴らしたい気分だ。


 防犯ブザー今持ってないけどね。


「二人とも色々あったんだってね」


 おいおい、何一つ伝わってこないんですけど。指示語と同じ役割を持つ言葉オンリーはメ!


 だから俺も返してやった。


「まあね……」


 なんか誇らしげじゃない? オレ……。


 七海は次の言葉を言うか言うまいか迷っている様子だったが、やがて覚悟を決めたかのように俺に告げる。


「……ねえ、日方ひ かた は『好き』ってなんだと思う?」


 いや、重……。


 どのくらい重いかというとヘビーメタルくらい重い。うん、ヘビーもメタルもめっちゃ重そう。

 ヘビーに関しては重いって言っちゃってるようなもんだし。


 そこで俺は提案することにした。


「あの……申し訳ないんですけど、その話──少し遊んでからじゃダメですかね?」

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二作目連載作品

『いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。』

https://kakuyomu.jp/works/16817330654542983839


↑こちらも是非ともよろしくお願いいたします。

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