34

 私はベンチに腰かけると、渡されたティッシュで、ちーんっ! と勢いよく鼻をかんだ。そうして、うっ、うっ、としゃくりあげながら、未だに、ぼたぼたと涙が出る目を擦った。

「ちょっとコケたくらいで、何もそこまで泣く必要もないだろうが」

「だって、だって、なんでよりにもよって、か、河村さんが助けてくれるんですか……」

 ほんと、私の恋心(きもち)をどうしてくれるんですか、とは言わなかった。

「悪かったな。助けたのが俺で。白馬の王子様でも期待してたなら、少女マンガの読み過ぎだ」

 残念。その“白馬の王子様”があなたなのですよ。いつも憎まれ口のくせに、助けてほしいと思ったときには必ず現れて、それこそ少女マンガの世界だ。反則過ぎる。こんな状況で、この黒王子を好きにならない主人公かいるだろうか。けれど、彼には既に将来を共にすると決めたお姫さまがいるわけで。ああ、神様、本当に酷過ぎます。

「……、これで、私の人生が終わりました」

「もう敢えて言い返さないが、そこまで言えるお前って、やっぱ凄いな」

「うう、か、河村さんのばかぁ……ああ……」

 はいはい、と河村さんは半ば呆れたように言う。

「分かったから、そんなに泣いてたら脱水症状になるぞ。ほれ」

 ぴとん、と頬っぺたに冷たいポカリが当てられる。

 ああ、ほら、また、そんなことするし……。

 腰を丸めて泣きじゃくる私の傍に、彼は今日もずっとついていてくれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る