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「あの、菜月子さん?」

 呼ばれて、へっ、としゃくり上がった声が出る。

「……あ、あー、ご、ごめん。なんかビックリしちゃって……」

 なによ、これ……。めっちゃ恥ずかし! だって、普通、この流れからしたら“私に告白する”でしょ! “話したいことがある”って、わざわざ休日に呼び出されて、1日デートして、河辺にふたりで座って、って大体そういうことだよね! あーもう、私の今日の1日のドキドキ返してよ。というか、「年下の可愛い男子にデートに誘われたの(るんるん♪)」って、千果にも話して来たのに。後でめっちゃ笑われるわ……。

「すみません。いきなりこんなこと。驚きますよね」

 驚きます。

「……あの、なんで、私に?」

「女性目線からアドバイスをもらいたくて。菜月子さんは年上だし、こういう気持ちを歳下から持たれたら、どう思うかなって」

 はあ……、と頷く。

「そうだね、えっと……、気持ちを持ってくれたことは凄く嬉しい、と思うよ。それは自分に恋人とか婚約者がいること関係なしにね。それでもし、快くんが真奈美さんに告白することで自分にケジメをつけられるなら、そうしても良いと思うし」

「でも、そんなことしたら真奈美さんが困っちゃうんじゃ」

「そりゃあ、ビックリはするだろうけど、真奈美さんは、それで快くんを遠ざけたりするような人じゃない。それは、快くんが一番分かってるんじゃない?」

 菜月子さん……。と言う快くんの瞳が子犬のように潤んでいる。

「そうですよね。分かりました。ありがとうございます。やっぱり菜月子さんに相談して良かったです」

 抱えていた不安が吹っ切れたように、スッキリとした顔で言う快くんに、私も出来るだけの作り笑顔で応えた。

 そうして、その数日後、快くんは真奈美さんに告白して、ちゃんとフラれたらしい。


「結果は分かっていたことでしたけど、気持ちを伝えられて良かったです。本当、菜月子さんのおかげです。ありがとうございました」

「いや、私は何も」

「菜月子さんが背中押してくれなかったら、嫌な気持ちを抱えたまま真奈美さんの結婚を見送ることになってました。だから、本当にありがとうございます」

 快くんが清々しい表情で言う。なんだか、彼が以前より随分カッコよく見えた。誰かを好きになる。恋は人を変えるというのは本当らしい。私は元カレと別れて、そういうのにしばらく疎遠だったから、人を純粋に好きになった快くんをとても羨ましく思った。

 けれど、と、私は考える。快くんの恋はいったん解決? したけれど、河村さんのほうは大丈夫だろうか。快くんは違うと言っていたけど、河村さんの真奈美さんに対するあの態度や気遣いはやっぱり他とは違うと思う。

 にしても、真奈美さん。快くんや、河村さん、なかなかなレベルの男性たちを虜にするとは何とも恐ろしい女性(ひと)だ。やっぱり男子はああいう、ふわっと系のお姉さんタイプが好きなのかな。そんなことを考えながら、今日も私は駅中で取った求人誌にパラパラと目を向けているのだった。


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