5人の転生者と特異点

霜月霜

第1話

「私は全てを手に入れるだろう」

 

 徐々にかすれる視界の中で、夜の闇に溶けつぶやいた黒づくめの男は微かに笑った。



 僕は温い血だまりの中でその瞬間の出来事を何度も繰り返した。僕は胸を貫く長物を見た。背後からの鋭い一撃は呆気なく僕の心臓を貫いていた。人はこうも簡単に死ねるんだと僕は思った。


 後悔した。今日も僕は何事もなく平和な日常を当たり前のように過ごすと思っていた。もっとちゃんと生きれば良かった。死ぬことなんて考えたこともなかった。死がこんなにも身近に潜んでいたなんて知らなかった。生きていることは当たり前なんかではなくて、薄い氷のような条件の上で成り立っているものだったのだ。

 


 そうして、確かに僕は死んだはずだった。なのに、どうして僕の意識は未だにこうも明確にはっきりと残っているのだろう。僕は白い空間に一人ぽつねんと立っていた。どこまで行っても白い。目の方がおかしくなったのかと思うほどに白い。ここがどういった場所かは分からないが、死後の世界だろうことはここまでの経緯をたどれば行き着く予測だった。胸を確認してもそこに刃はないし、シャツに血だってついていない。


 しばらく自分の置かれたこの状況について考察を繰り返していると、やがていかにもな女が僕の前に現れた。


「運の悪い男だ」


 神々しい女は言う。厳粛で静謐な声だった。


「あなたは?」


 女はそれについては無視する。


「貴様の死は我々でも予想していない出来事だ。天寿を全うできなかった貴様にはまだ多くの寿命が残されている」


 女は続ける。


「貴様を殺した男の顔を覚えているか?」


「覚えていない」


 女は僕を睨む。


「ゼロという男だ。殺せ、復讐しろ。あの男への復讐心が貴様の存在する意味だ。新たなる日常を貴様に与えよう」




 眩い光が僕を包んだ。






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