最後は笑顔で 4

「え?どうしたの?急に」


何かお礼を言われる様な事をした覚えはないんだけど。


「ハナがね……」


「ハナちゃん?」


「うん。……江奈に出会ってから楽しそうなのよね」


「え?」


私と出会ってから?


クルッと振り返って、窓からお店の中を見る。


……確かに楽しそうに笑っているハナちゃん。


でもそれって、真司さんが戻って来てくれたからじゃ?


そう雪ちゃんに言ったら、「そうじゃないわ」と首を振った。


「ハナね、江奈に出会う直前に真司さんと一度別れたって話したでしょう?」


「うん……」


「危なっかしいな、とは思ってたんだけど、案の定、塞ぎ込んじゃってね。……ホラ、前に話した一件があるから、アタシも気が気じゃなかったのよ」


『前の一件』とは、ハナちゃんの自殺未遂の事だろう。


「かろうじて店をやる気力だけはあったみたいだから毎日の様に顔を見に来てたんだけど、江奈を初めてここに連れて来たあの日から妙に元気になり始めたのよね」


「そう、なの?」


「ええ。何がそうさせたのかは分からないけど、それは確かだわ」


不思議そうに雪ちゃんが頷いた。


私はハナちゃんと初対面はつたいめんした時の事を思い出す。


(う~ん。特に違和感なんてなかったけどなぁ)


初めて会った時からハナちゃんは凄く元気だった気がするし、落ち込んでる素振りなんて一切見られなかった。


(まあ、客商売をやっているんだから、落ち込んだまま接客はしないだろうけど)


思い返してみても、なんのヒントも得られない。


「別に私、何もしてないよ?」


「そうなのよね。だから余計に不思議でね……」


うーん…なんでだろう?


二人で首を傾げる。


サワサワサワ――……。


風に揺れるバラの隙間から、ワンちゃんを散歩している女の子が通り過ぎるのが見えた。


かわいいな、なんてボーッと見ていると、急にガバッ!と雪ちゃんが立ち上がって私はビックリした。


「ど、どうしたの?」


「エナ……」


「うん?なに?」


「そうよ、『エナ』よ……」


「うん、だからなに?私がどうしたの?」


要領を得ない会話にちょっとイラっとしながら聞き返す。


「違う、そうじゃない!……そうよ!エナよ、エナ!犬っ!!」


「い、犬……?」


尚更分からなくて頭がこんがらがる。


「そう!以前、ハナがボソッと言っていたのを思い出したわ!『一緒に育って来たワンちゃんが病気で亡くなった』って。その犬が確か女の子で名前が『エナ』よ!」


興奮気味に話す雪ちゃんの鼻息が荒い。


「えっと…つまり、可愛がっていたワンちゃんが亡くなった後、私が現れて、しかも名前が同じ『エナ』だったから親近感が沸いた、と言う解釈で良いのかな?」


「そうね、きっとそうだわ。多分、ハナの事だから運命とか感じちゃったんだと思う。絶対にそうよ!」


私の要約した解説に、雪ちゃんがうんうんと頷く。


なるほどね。


確かに、それはちょっと運命感じちゃうかもしれないな。


「あ~、スッキリした~。ずっと気になっていたのよね」


「良かったね」


「ええ、江奈のおかげよ、ありがとう」


「だから、私は何にもしてないってば」


「ううん。江奈のおかげでハナが元気になったのは事実だもの。感謝よ」


「……雪ちゃん」


雪ちゃんは自分で気付いていないかもしれないけど、すごく良い笑顔をしている。


私は、なんだかんだでハナちゃんの事が大好きなんだぁ、と実感した。


(たまに、扱いが雑になるけどね)


こないだの誕生日パーティーの時とか。


「さ!スッキリした所で、そろそろ戻りましょうか」


「うん」


酔いも少し冷めて来たし、私達はお店の中に戻る事にした。

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