お誕生日会 5

「はー。でも良かったわ~。二人の想いが通じ合って!」


エンドロールが流れていたけど、雪ちゃんは停止ボタンを押し、テレビを消した。そのまま横に座っている私の膝に、ゴロンと寝転がる。


(わっ!)


不意の膝枕に心臓が飛び出そうになった。


き、緊張するぅぅぅっ!


「……それにしても、なんだか懐かしく感じるわね、江奈の膝枕♡」


「そ、そお?」


「あの時はホント、いくら酔ってたからってなんであんな事したのか。でも、あのキスがあったお陰でアタシは自分の気持ちに気が付けたんだけどね~」


雪ちゃんがフフッと、照れ笑をする。


そっか。雪ちゃんも私と同じで、あの時に気付いたんだ。


あのキスがあったから……。


「………ん?」


私はなんだか雪ちゃんの台詞に引っ掛かりを覚え、聞き返した。


「雪ちゃん」


「んー?」


「あの時って、どの時……?」


「え?それは……あっ!」


雪ちゃんは、しまった!と言う顔で口をてのひらで隠した。


「……雪ちゃん?『酔って記憶がない』って言ったの、ウソだったのね!?」


私は顔を真っ赤にして、拳をブルブルと震わせる。


「わーっ!ごめん!」


ガバッ!と起き上がり、雪ちゃんが頭を抱えた。


「だって!あの時はそうした方が良いと思って!悪気は全くなかったのよ!」


顔の前で両手を合わせ、「許して!」と雪ちゃんが叫んだ。


「……もう良いよ」


私はプルプルと震えた拳を下ろし、溜め息混じりに言った。


「許してくれる?」


「……まあ、私も本当の事を言わなかったし、同罪と言う事で」


「ありがとー♡江奈ちゃん、大好き♡♡」


と言いながら雪ちゃんが勢いよく飛び付いて来た。


「わっ!あぶなっ!!」


勢いが良過ぎるのと、重たい雪ちゃんの体重でバランスを崩して倒れそうになる。


「江奈のぽっぺはスベスベねぇ」


『ん~♡』と、頬擦りをされた。


「そりゃどうも」


あ……やっぱり男の人だ。髭がチリチリと痛い。


なんて考えていたら、雪ちゃんが急に立ち上がり、ガバッ!と私を軽々と抱え上げた。


所謂、お姫様抱っこってやつ。


「わっ!なにっ!?」


「江奈っ!」


「はいっ!?」


「結婚しましょう!!」


「…………は?」


「だって、ずっと側にいるって約束したし!」


「いや、したけど……」


「え、嫌なの?」


「い、嫌じゃない!嫌じゃない!」


「よし!じゃあそしたら今日は初夜だし、アタシ、ムラムラしちゃったし、良いわよね!?」


「何がっ!?てか、まだ結婚してないんだから初夜じゃないし!」


「んもう♡堅い事い・わ・な・い・の♡」


パチンッ☆と、ウィンクをして、雪ちゃんが私を抱えたままスタスタと歩き出す。


「ど、どこ行くのっ!?」


「え、アタシの部屋でいいわよね」


「いいわよね、って……」


もう、色々無茶苦茶過ぎて、キャパオーバー。


雪ちゃんって、こんなキャラだったっけ?


「もう、好きにして……」


私はなんかどうでもよくなって、半分やけくそ気味に言った。


「フフフ……言ったわね?今夜は寝かせてあげないから♡」


私のセリフを聞いた雪ちゃんがニヤッと笑う。


その表情に一抹の不安は覚えたけど、女は度胸!もう、なんでも来い!よ。


「大丈夫、うんと優しくするから」


そう言って、ちょっと胡散臭い笑みを浮かべた雪ちゃんの部屋の扉が閉められた。

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