まさかの結末 1

フッと、目が覚める。


ボヤけた視界に入って来たのは、白い天井。


自分のアパートでも、雪ちゃんのマンションでもない、知らない天井。


(ここ、どこ……?)


ボーッと、少しの間思考が停止する。


(この匂いは、病院……?)


鼻につく薬品の独特な匂いで、かろうじて病院と分かった。


なんで?と疑問に思ったけどそれも本当に一瞬で、ズバンッ!と、次の瞬間には記憶が戻って来た。


(そうだ!笹木が暴れて、それでっ……!)


ガバッ!と起き上がり、フラ付きながらベッドを下りる。


思い通りに動かない足と気持ちばかりが焦り、モタ付く。


「どこに行くのよ?」


と不意に誰かに問われたので、


「どこって、雪ちゃんの容態を聞きに行くんじゃない!一緒に運ばれてるはず!」


と答えた。…………答えて、ハタと気が付いた。


今の声――。


私はゆっくりと振り返る。


そこには、ベッドに足を組んで腰掛けている雪ちゃんがいた。


「……ゆ、き…ちゃん……?」


恐る恐る尋ねる。


「うん」


「……本物……?」


「ええ」


「幽霊とかじゃなく……?」


「あのね。人の事、勝手に殺さないでくれる?」


雪ちゃんがため息交じりにフッと笑った。


「だ…だって……刺されて……血が…いっぱい……」


「ああ、コレ?」


着ていた病衣をペランと捲り、脇腹を見せる。


そこにはグルグルと、何重にも包帯が巻かれていた。


「大した事はないわ。こんなのすぐに治るわよ。ちょっと大袈裟なのよね、この包帯……」


包帯をつまみながら唇を尖らせて、ブツブツ文句を言っている。


私は手を伸ばし、よろよろと雪ちゃんに近寄った。


「江奈……?」


雪ちゃんの頬に、手を添える。


温かい……。


雪ちゃんは、生きてる。


そう思った瞬間、私の目からボトボトボトッ!と、大量の涙が零れた。


「ちょ、江奈!?」


「……良かった……雪ちゃん、生きてた……!」


私は無意識に雪ちゃんに抱き付く。


「もう…駄目かと思った!ち、血がっ…雪ちゃん、しんじゃう、んじゃ…ないかってっ!」


嗚咽交じりに必死に雪ちゃんにしがみついた。


もしこれが夢でも、消えてしまわない様に、絶対に離さない様に。


「バカね。そんな簡単に死なないわよ、アタシは」


フフフと笑いながら、私の背中を優しくさすってくれる。


その手が暖かくて、本当に生きているんだ!と実感する。


それを皮切りに私の中で気持ちがブワッ!と高まってしまい、


「好き……!雪ちゃんが好き!大好き!!」


と半ば絶叫の様な告白をしてしまった。


気持ちを伝えたら雪ちゃんが困るかも知れない、なんて考えるより先に、口をついて出てしまった言葉。


「……え?」


予想通り、雪ちゃんは目を見開いて驚いた顔をしている。


でも、あの時感じた後悔。


もう一生伝えられないかもしれない、と思った後悔はしたくなかった。


エゴでもなんでもいい。


もし迷惑がられたら、このまま離れて金輪際関わらないと言う覚悟もしている。


私は雪ちゃんの目をジッと見つめた。


「江奈……それって、親愛とかじゃなく、恋愛感情って事で良いの……?」


私は黙って頷く。


「本気で?」


また黙ったまま頷いた。


「そう……奇遇ね。……実はアタシもなの」


優しく微笑む雪ちゃん。


その笑顔を見て、「ああ、私は優しくフラれたのか」と雪ちゃんの言葉を頭の中で反芻はんすうする。

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