急展開ー諸悪の根源と対峙ー 2

「ちょ、ちょっとごめん!」


不意に後ろから声が聞こえ、振り向いた。


「江奈っ!」


「雪ちゃん!」


野次馬を掻き分け、雪ちゃんが私の側に駆け寄って来る。


「あれ、もしかして笹木……?」


雪ちゃんが眉間にシワを寄せ、今の笹木の風貌を見てをなんとも言えない顔をした。


「うん。あの写真を送り付けて来たのも、笹木の仕業だったの」


「やっぱりそうだったのね」


雪ちゃんもどうやら確信していた様だ。


「それより、雪ちゃん大丈夫?」


「ええ、まあなんとか……」


フッと笑ってはいるけど、絶対大丈夫じゃない気がする。


かなり揉みくちゃにされた様で、いつもピシッとなっているスーツがヨレヨレだ。


「アンタ、こんな卑劣なやり方で満足なワケ!?江奈を取られたのがそんなに悔しかったんなら、正々堂々と勝負してみなさいよ!」


雪ちゃんが笹木に向かって叫んだ。


雪ちゃんの声も、ロビーにこだまする。


すると、


「なんか、津田部長の喋り方オネエみたいじゃなかった?」


と野次馬の中の誰かが言い出し、辺りがどよめく。


「確かに」


「じゃあ、あのメールってマジなん?」


「イタズラとかじゃなかったんだ?」


「マジで?」


ロビーがザワ付き始めた。


『ヒソヒソヒソヒソ……』


視線が突き刺さる。


よく聞こえはしないけど、心無い言葉を言われていたらどうしよう…雪ちゃんが傷付いたらどうしよう…と胸が苦しくなる。


雪ちゃんをこんな事に巻き込んでしまったのは私。


あの時、笹木の事を言わずに別れていれば、雪ちゃんはまだまだ平穏な日々を過ごせていたハズなのに……。


後悔の念で泣きそうになるのをこらえ笹木を見ると、この状況が心底楽しい、と言う様な顔で笑っていた。


(なんで……なんでコイツは笑っていられるのっ!?)


コイツの、笹木のせいでこんな事になっているのにっ!


私はいよいよ我慢が出来なくなり、握り拳に更に力を入れ、笹木に詰め寄ろうとした。


その瞬間、


「あー、うるさいうるさい!アタシがオネエでなんか悪い!?」


と言う雪ちゃんの怒鳴り声がロビーに響いた。



シーン……。



と今までヒソヒソ話をしていた人達が皆、静まり返る。


すると、暫く顔を見合わせていた野次馬達が、こう言った。


「べ、別に悪くない、よね……?」


と。


その言葉を皮切りに、


「うん……ちょっとビックリしたけど、イマドキ珍しくもないし、ねぇ……?」


「まあ、個人の自由だし、問題なくね?」


「そーだな」


「個性は大事だよ」


「うんうん」


と、私達が全く予想していなかった言葉が飛び交って、今度は私達が顔を見合わせる。


誰一人として、雪ちゃんを『気持ち悪い』などと言う人はいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る