急展開ー諸悪の根源と対峙ー 1

「……はぁっ!」


ロビーに辿り着いた私は、流れる汗を拭いながら作業服の男を探した。


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


近くにいる人が私をジロジロと見ているけど、今の私にはそんな事はどうでも良かった。


ロビーから上を見上げると、やっぱり海外事業部が見える。


気にした事が無かったから気が付かなかった。


雪ちゃんがまだみんなに詰め寄られている光景が目に入る。


しかし、今はそれどころじゃない。


額の汗を拭いながら、辺りを見回す。



「……いた……」



私の予想は、ビンゴだった。


あの時すれ違った作業服の男が、今まさに玄関から外へ出ようとしている。


逃してなるものか!と、私はその場で力一杯叫んだ。



「待ちなさいよ、笹木っ!!!」



ロビーに私の声がこだました。


その声に反応して、作業服の男の足がピタッと止まる。


私の叫び声に周りの足も止まり、ロビーがシーンと静まり返った。


「アンタ、笹木でしょう!?なんでこんな事するのよ!?」


騒動を聞き付け、『どうした?なんだ?』と、野次馬達がわらわらと周りに集まって来る。


黙ったまま何も答えないでいる男に私のイライラが頂点に達し、


「黙ってないで何とか言いなさいよ!このサイテー野郎!!」


ともう一度叫んだ。


何度目かの私の叫びに、男は被っていたキャップをゆっくり外し、頭をバサバサと振って、ユラァ…っとこちらを振り向いた。


「………サイテーだなんて酷いなぁ、江奈さんは。なんで?そんなの決まっているじゃないか。江奈さんの目を覚ます為だよ」


振り向いたこの男は、やっぱり笹木だった。


髪はボサボサに肩まで伸びて無精髭ぶしょうひげも生えているが、間違いなく笹木だった。


ニタァ……と不気味に笑う笹木を見て、どこからともなく「ひっ!」と言う声が聞こえる。


「……私のアパートに写真を送り付けて来たのも、あなたね……?」


私は、握り拳にギュッと力を入れる。


「ああ、そうだよ。よく撮れてたでしょ?」


満足そうに頷く笹木を見て、私は頭に血が登り、発狂の様に叫んだ。


「私の目を覚ます為…?よく撮れてたでしょ…?はっ!ふざけんじゃないわよっ!こっちは目なんて覚めてるっつーの!覚めてないのはアンタの方でしょ!?アンタの身勝手な行動で、こっちがどれだけ迷惑してると思ってるの!?」


はぁ…はぁ…と、興奮と叫んだせいで息が切れる。


今まで溜まっていた鬱憤うっぷんを、全部笹木にぶつけた。


すると笹木は、怒りで頭がおかしくなりそうな私とは対照的に、落ち着いた表情で小首を傾げてこう言った。


「迷惑?どうして……?」


私がなぜこんなに怒っているのか訳が分からない、と言う様な顔で私を見ている。


……駄目だ。


多分、今の笹木には何を言っても通用しない。


ギリッ……と、唇を噛み締める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る