本人には悟られない様に注意深く 3

自分の気持ちに気付いてからこの一週間、しんどい事ばっかり。


意識なんてしたくないのに、雪ちゃんは平気でくっ付いて来たりするし、スキンシップ多目だし。


その度にドキドキしてそのあと凄く落ち込んで。そんな事を繰り返してばかりいた。


「江奈っち、もしかして……」


そんな私を見て、勘の鋭いハナちゃんが何かを察したのか言葉に詰まる。


少し悲しそうな、哀れみの様な、そんな表情をしながら。


「……ハナちゃんには隠せませんね」


「え……まさか、本当に……?」


「はい……そのまさかです」


私は力無く笑った。


……多分。笑えていたと思う。


「……どうしてそうなったの?だって、江奈っちは最初から分かっていたじゃない。アイツが男を好きだって……」


「そう、なんですけどね……」


酔っていたとは言え、流石に『キスされて襲われかけました』とは言えなかった。


そんな事を話したら、それこそ大変な事になり兼ねない。


「……どうするの?」


おずおずと、ハナちゃんに聞かれる。


「あ、気持ちを伝えるつもりはないです。困らせたくないし」


私は湿っぽくなりたくなくて、出来るだけあっけらかんと答えた。


「江奈っちはそれで良いの?」


「良いも悪いも、仕方ないですよ。この一連の騒動が落ち着いたらアパートへ帰るつもりですし、そうしたら私と雪ちゃんの接点は何もなくなる。……元に戻るだけです」


時間がかかるかもしれないけど、それでこの気持ちも無くなればいい。


「江奈っち……」


私より、ハナちゃんの方が泣きそうな顔をしている。


「……ふふっ。ハナちゃん、鼻が真っ赤ですよ」


泣くのを我慢しているせいで、赤鼻のトナカイみたいに赤くなっている。


「だ、だって……!」


グスッと真っ赤な鼻をすする。


少しして、チンッ!と、オーブンがスコーンの焼き上がりを知らせてくれた。


「さっ、焼けましたよ!みんなで食べましょう!」


私は椅子からピョンッと飛び降り、オーブンを開け、スコーンを取り出す。


凄く良い色に焼けている。


それと同時位に、雪ちゃんが外から戻ってきた。


「良い香りね。焼けたの?」


「うん。今、丁度焼けたよ。ホラ、美味しそうでしょ?」


私はケーキクーラーの上に取り出したスコーンを雪ちゃんに見せる。


「ホント、美味しそうね」


「ハナちゃん先生直伝だからね。絶対美味しいよ♪ね、ハナちゃん」


私はハナちゃんに笑って見せた。



――『私は大丈夫』――



そう、伝えたかった。


その私の気持ちを察したのか、ハナちゃんも笑い返してくれた。


「そりゃあそうよ!このアタシが教えたんだから、不味い訳ないわ!」


私の為に、グッと涙を堪え、何でもないフリをしてくれる。


ありがとう、ハナちゃん。


変な事に巻き込んで、ごめんね。


ハナちゃんの優しさに、ちょっとだけ泣きそうになった。


私とハナちゃんは、笑ってこの涙を焼き立てのスコーンと一緒に胃の中に収めた。

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