本人には悟られない様に注意深く 4
「今日は本当にありがとうございました!」
私はハナちゃんに深々とお辞儀をした。
「どういたしまして♡江奈っちが作ってくれたマフィンも美味しかったわよ♡」
「ありがとうございます」
あれから、他愛のない話をしながらスコーンの試食会となった。
味は申し分の無い出来上がりで、みんなで盛り上がった。
「今度、アタシにもマフィンの作り方教えてちょーだいな♡」
「はい、是非!」
雪ちゃんが、お店の入り口前まで車を持って来る。と言って駐車場に行ったので、私達は入り口の前でお話をしながら待っていた。
「江奈っち」
「はい?」
不意に、真剣な声で名前を呼ばれ、ハナちゃんの顔を見る。
顔も真剣だった。
「どうしたんですか?」
なんとなく言いたい事は想像出来たけど、私はあえて「分からない」と言う様な態度を取る。
「辛かったら、いつでも連絡してね」
「…………」
本当は茶化して返事を返そうと思っていたけど、ハナちゃんが余りにも真剣な顔をするから、出来なかった。
「……はい!しんどい時は、必ず!」
「ええ。絶対よ」
ハナちゃんが優しく抱き締めてくれる。
「ハナちゃん……ありがとう……」
私もハナちゃんの背中にそっと腕を回し、ギュッとしがみついた。
なんだか安心するんだよね、ハナちゃんの腕の中は。
――プップッ!
そんな事をしていると、後ろでクラクションの音が聞こえた。
「外でなにやってんのよ?」
窓から雪ちゃんが顔を出して私達を鋭い目で見ている。
……いや。私を見ていない?
目線が、若干私には合っていなかった。
(どこを見ているんだろう?)
なんて思っていたら、急にパッとハナちゃんの腕が離された。
「……江奈っち、またね」
「あ……はい」
ハナちゃんは笑っている。
けど、その笑顔に少し違和感を感じた。
変に思ったけど、「ホラ、行った行った!」とハナちゃんに急かされて私は車に乗り込んだ。
「今日は本当にありがとうございました。また、ご飯食べに来ます」
窓を開け、ハナちゃんに再度お礼を言う。
「ええ、待ってるわよん♡」
ハナちゃんがいつも通りの笑顔で答えてくれて、ちょっとホッとした。
「……行くわよ」
「あ、うん。じゃあ、ハナちゃん」
私はペコッとお辞儀をして、窓を閉めた。
車がゆるりと動き出す。
サイドミラーを見ると、ハナちゃんがまだ手を振ってくれていた。
それを見て、フッと笑みが零れる。
「楽しかったね」
「ええ……」
「スコーンも美味しく出来たし。また作るね」
「ええ……」
「あ、今度は雪ちゃんの好きなチーズ味も作ろうかな?」
「ええ……」
「……雪ちゃん?」
「ええ……」
「おーい」
「ええ……」
どうしたんだろう?
ボーッとして、それ以降家に着くまで何を聞いても「ええ」としか反応してくれなかった。
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