偽装彼女 9
「お疲れさまです」
そう言いながら秘書課の扉を開けた瞬間、
「ちょっと!どうなってんの!?」
と、同期入社で一番仲の良い、
「わあっ!ビックリした!」
余りの勢いと顔に、後ずさる。
「どう言う事なのって聞いてんの!」
「いきなり何?何の話??」
主語がなくて、どうやって分かれと言うのか。
私の頭の上には、いくつもの「?マーク」がふよふよ浮遊する。
「津田部長の事!」
……あ、なるほど。その事か。
「どう、って……?」
「付き合ってんの!?」
「う、うん、まあ……」
偽装だけどね。
でも津田部長に「誰かに聞かれたら付き合ってるって言う事!」と言われているので素直にそう答えた。
一番仲の良い咲希子にウソをつくのは心苦しいけど……。
すると、秘書課に居た咲希子含め全員が、「えぇーっ!!」と叫んだ。
「な、なによっ」
私はその叫び声に耳を塞ぐ。
「やっぱり本当だったの!?」
「美園先輩、ずるーい!」
「いいなー!」
「津田部長はみんなのものなのにー!」
と、みんなが一斉に発狂し出す。中には本気で泣き出す子もいた。
……はは。予想はしていたけど、ここまでとは。
それにしても……。
「津田部長って、そんなに人気あったんだね」
そうボソッと呟くと、咲希子が、
「あったり前でしょー!?あのルックスで仕事も出来てフリーなんて、狙ってる子なんざごまんといるわよ!それを、何にも興味無さそうにしていたあんたが……!」
くっ、と咲希子がハンカチを取り出し、噛み締める。
「うん。なんかゴメン」
なんか分からないけど、とりあえず謝った。
でも咲希子。
アンタ長年付き合ってる彼氏いるよね。
「それとこれとは別よ!」
「何も言ってないよね!?」
「アンタの言いたい事くらい分かるわ」
なんと!こやつ、心を読めるとは……。
(咲希子、恐るべし)
そんな咲希子に若干の恐怖を感じた頃、プルルルッと電話が鳴り響いた。
私はこれ幸い、と思い、
「さ、仕事仕事!」
「あっ……まだ終わってないのに!」
聞き足りない!と言う顔の咲希子&嘆き悲しむ秘書課の皆さんを掻き分け、受話器を取った。
「はい、W商事、秘書課です」
この後の秘書課は、「お葬式場だっけ?」と思う程、悲しみに包まれていた。
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