偽装彼女 9

「お疲れさまです」


そう言いながら秘書課の扉を開けた瞬間、


「ちょっと!どうなってんの!?」


と、同期入社で一番仲の良い、伊永咲希子いながさきこ(24歳)が、いきなりどアップで詰め寄って来た。


「わあっ!ビックリした!」


余りの勢いと顔に、後ずさる。


「どう言う事なのって聞いてんの!」


「いきなり何?何の話??」


主語がなくて、どうやって分かれと言うのか。


私の頭の上には、いくつもの「?マーク」がふよふよ浮遊する。


「津田部長の事!」


……あ、なるほど。その事か。


「どう、って……?」


「付き合ってんの!?」


「う、うん、まあ……」


偽装だけどね。


でも津田部長に「誰かに聞かれたら付き合ってるって言う事!」と言われているので素直にそう答えた。


一番仲の良い咲希子にウソをつくのは心苦しいけど……。


すると、秘書課に居た咲希子含め全員が、「えぇーっ!!」と叫んだ。


「な、なによっ」


私はその叫び声に耳を塞ぐ。


「やっぱり本当だったの!?」

「美園先輩、ずるーい!」

「いいなー!」

「津田部長はみんなのものなのにー!」


と、みんなが一斉に発狂し出す。中には本気で泣き出す子もいた。


……はは。予想はしていたけど、ここまでとは。


それにしても……。


「津田部長って、そんなに人気あったんだね」


そうボソッと呟くと、咲希子が、


「あったり前でしょー!?あのルックスで仕事も出来てフリーなんて、狙ってる子なんざごまんといるわよ!それを、何にも興味無さそうにしていたあんたが……!」


くっ、と咲希子がハンカチを取り出し、噛み締める。


「うん。なんかゴメン」


なんか分からないけど、とりあえず謝った。


でも咲希子。


アンタ長年付き合ってる彼氏いるよね。


「それとこれとは別よ!」


「何も言ってないよね!?」


「アンタの言いたい事くらい分かるわ」


なんと!こやつ、心を読めるとは……。


(咲希子、恐るべし)


そんな咲希子に若干の恐怖を感じた頃、プルルルッと電話が鳴り響いた。


私はこれ幸い、と思い、


「さ、仕事仕事!」


「あっ……まだ終わってないのに!」


聞き足りない!と言う顔の咲希子&嘆き悲しむ秘書課の皆さんを掻き分け、受話器を取った。


「はい、W商事、秘書課です」


この後の秘書課は、「お葬式場だっけ?」と思う程、悲しみに包まれていた。

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