偽装彼女 3

「珍しいわね。誰かと一緒なんて」


その人は、ススス――っと私達の元へ近付き、津田部長の後ろに隠れていた私をチラッと見ながら言った。


「ええ。ちょっとね」


私は何も言わず、二人の会話を黙って聞く。


(あれ?そう言えば……)


そして気が付いた。津田部長がオネエ言葉になっている事に。


(しかも、この人のしゃべり方も……)


津田部長がネクタイを少しゆるめながらズカスカと店内に入って行った。


「いつもの席、空いてるわよ」


ウインクをするその男性?の前を、「ありがとう」と言いながら通り過ぎ、津田部長は慣れた素振りで入り口からは死角になる奥の一番端の席に座った。


「お連れさんもどーぞ♡」


二人のやり取りを呆けて見ていた私に、その人が声をかけてくれる。


「あ…は、はいっ。ありがとうございます!」


軽く会釈をし、津田部長の元へ向かう。


「あの、失礼します」


「どーぞ」


私は津田部長に向かい合う様に座った。それと同時位に、男性?店員さんがお水を持って来てくれる。


「改めていらっしゃいませ。この店のオーナーのハナです♡ハナちゃんって呼んでね♡」


うふっ♡としなを作り、身体をクネらせて笑った。


「あ、オーナーさん……」


その口調と立ち居振舞いを見て、


(そっか分かった。この人も……)


と一人納得した。


津田部長が素を隠さずにいるとなると、この人もそうなんだろう。


なるほどね、と頷いている私の顔を、オーナーさんがジッと見つめて来る。


「………?」


何か私の顔に付いているだろうか?


そう訪ねようと口を開きかけた時、


「つかぬ事を聞くけど、あなた本物の女性よね?」


とオーナーさんが言った。


「えっ!?」


私は、言っている意味がイマイチ分からなくて、言葉に詰まった。


すると、正面に座っている津田部長から溜め息が漏れた。


「ハナ。この子は正真正銘女性よ。変な詮索してないで、いつもの持って来て。アンタも同じで良いわよね?」


「あ、は、はいっ」


なんだかよく分からないけど、津田部長に言われるがままに頷いた。


すると、オーナーさんが腰をクネクネくねらせ、唇を尖らせながら津田部長に食って掛かり始めた。


「あぁん、なによぅ!ちょっと位教えてくれたって良いじゃない!いつも一人なのに急にこんな美人連れてくるんだもの、気になるでしょう!?」


「それが余計だって言ってるのよ。時間ないんだから、早くして」


他のお客さんがいないのを良い事に、津田部長は完璧に素に戻っている。


私は、ギャアギャアと騒いでいる二人をボーッと眺めた。なんの気も使わず、言いたい事を言い合っている二人は、なんだか楽しそうだった。私はそれを見て、クスっと笑う。


しかしそれが気に障ったのか、「なにがおかしいの!?」と鼻息荒く、物凄い形相で二人が振り向いた。


あの「クールで女子社員憧れの的」な津田部長からは想像出来ない位。


「……ぶはっ!ご、ごめんなさいっ、二人とも…ふふ……同時に凄い顔で…あははっ!」


それがおかしくて、私はたまらず声を出して大笑いしてしまった。


「……ごめん、なさい…ふふふっ……」


こんなに笑ったのは久々かもしれない。


突然の私の大笑いに、二人はキョトンとしている。それもまたおかしくて、私は笑いが止まらなくなっていた。

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