元マフィアのボスは隠居したい。
青緑
隠居先で
ここはイグリュー王国の裏社会。ある新月の夜、スラムに捨てられた茶色く薄汚れた衣を着た男が、
この男は貴族の子息として成人する十五歳まで、マキナという名で暮らしていた。成人した日に王都にある教会へと連れて来られた。その日に行ったのが悪かったのか?それとも成人したのが悪かったのか?または貴族として産まれてきたのが間違っていたのか?考えれば考えるだけ疑問しか頭には湧いてこなかった。教会で選定されると、スキルを一般の人間よりも多く授けられた。それは良かったのだが、貴族の生まれの者は一つは必ずと言って良いほど、属性のあるスキルを持っている。しかしながら、このマキナという男に授けられたスキルは無属性。つまりは属性が無いということだった。それを目の当たりにしたマキナの目には、冷たく冷酷な瞳が刺さってくる父の目であった。
そしてマキナの父は神官に何かの包みを渡すと、マキナを連れて、行きと同じ馬車に投げ入れられた。それからの父の対応は早かった。貴族家からの追放、国王に向けた令状、王女へ向けた手紙。…と対応が早く、マキナが否応言う前に服をメイドに破られ、所持品を奪われ、汚れた袋を渡されると、父より勘当したという告発をされる。
マキナが異議を言う前に、兵士によってスラムへ捨てられたのであった。告発状にはマキナの血と、マキナの父の血判が付いており、今後はマキナという名を名乗ることも、貴族の恥であるために息子でないという内容。これによりマキナ、否、この男は貴族社会における多くの拒否を条件で契約されているため、なにもできなくなっていた。
それからはスラムに住み着き、商店の食料を奪って売った金で生活を成り立たせていった。二十代を過ぎると、既に荒くれ者として知られ、この男に付いて行く仲間ができて行く。この男の名は無名から自分で名付けたリャイという名に変わっていた。
それが数十年を続けると、あっという間に王国も他国も無視できないような大組織に成り上がり、その組織は複数のマフィアから成り立ち、全てリャイの策によって維持していた。しかし、あるとき六十を過ぎたリャイは故郷へ一旦帰ることを告げて王国を数ヶ月の間だけ空けた。だが空けたのが悪かったのか、リャイが戻ってきた時には二つの組織以外が暴動を起こし、分裂してしまい、手の付けられない状態になっていた。
その中で衝撃を受けたのは、かつて共にスラムで生活をして同じ釜の飯を食べた仲間が半数以上が亡くなったことであった!その悲しみを怒りに変えて、争いだしていた組織の参謀らを一人で壊滅まで追い込んだ。しかしリャイは家族と思っていた仲間たちを無くすことを怖がり、裏社会から
そんなリャイは現在、イグリュー王国の隣国であるヴァルサス大国で英雄として祭り上げられ、王国騎士の師として励み、闇に
しかし、ある一団が王都に入国した日に、内乱を率いていた者を捕らえて兵士に引き渡された。始めはその一団を疑ったのだが、率いていた者と一緒に証拠となる書類が提出されたため、大臣らに確認をしてもらうと"事実であった"事が判明した。その報告を受けた大臣も国王も、なぜ今になって捕まえられたのかと疑問を持ったが、答えが見つからずに時だけが過ぎていった。その間にも、その一団は荒くれ者だった者の多くを従えて、スラム街の入り口に"
この様々な報告を受けた国王は、その一団を率いていた男を謁見の間に呼び出した。その男こそ、リャイである。国王は国を救われた立場からと言うこともあり、リャイに褒賞を何にすれば良いかをリャイを困らせないように聞いた。すると『教会の解体』やら、『斡旋所を中心にスラムを狭める』といった政策を叩き出した。これに大臣や貴族が猛反発。
「だからといって断れば、リャイ殿は王都…王国から居なくなってしまうだろう。そうなった場合、斡旋所や民衆がどう思うか?」
「「「うーむ…」」」
話し込むこと数日間後、少々やつれ気味の国王から提案された政策を呑むという結論が出された。またリャイが率いる者らの王国での生活を保障し、財政の立て直しを建前に、王都での暮らしを守ることを取り決めた。その後は王国内で多くの変化が日を空けずに起きだした。まず教会の解体で神官や司祭が民衆と反対運動を起こしたのだが、ものの数時間後には、民衆を除く者達がお縄についていた。教会が所持する武力である聖騎士はといえば、こちらも一団によって怪我を負って捕縛されていた。この日中に教会であった建築物は倒されて平地へと様変わりしたのであった。その建築物に使われていた物は全てをスラム街に集められており、国王一派は詮索ができなかった。
そして翌日には一団が教会があった場所に集められ、リャイの指示のもとで一つの小屋を作り上げた。近くに居た騎士が問いかけると、清々しい顔でリャイが住む家だという。そのことに難色を示した国王は大臣に命令を出して、謁見の間では失礼に当たるとしてリャイを応接間に呼び出した。しかし応接間に来たリャイには複数の男を引き連れて入ってきた。
「リャイ殿。急な呼び出し、申し訳ない。ところで、そちらの者達は?」
「この者らは今、騎士の稽古に当たっている者です。それと教会があった場所に小屋を建てたとか…。一体なぜ作ったのですかな?」
「ああ、それはですね。他の建物や王宮に住むよりも静かだったので、あそこに簡易的な小屋を建てさせて頂きました。…何分、今回の出来事をキッカケに襲われる場合のことを考えてのことですから。いくらなんでも、王宮に迷惑を掛けてしまうのも、王都の民を怖がらせても行けませんでしょう?」
「確かにそうではあるが、もう少し大きめの小屋にしても良いのではない…のですか?流石に小屋を襲う者は少なく思いますし、小屋ですと襲われた際になにかと大変では…ないかと思いまして。」
「そこら辺は大丈夫ですよ、陛下。小屋の周囲には複数の罠を張っておりますから、何かあれば掛かるでしょう。まあ刺客でしたら、失敗したと思えば自害する可能性がありますから、罠には麻痺毒や睡眠薬を塗っていますから。」
「そっ…、そうか。そうで…あるか、分かったのである。」
「話はそれだけでありましょうか?それでしたら、小屋に…いえ、家に帰ろうと思いますが。」
「(まさか小屋を家という者に会うとは思わなんだが!)…いや、まだ有るから少々座っていてほしいのじゃが。おい、あの子らを呼びに行ってくれ!」
「はっ、分かりました。少々お待ちください。」
「ではこちらはこちらで、少し話し合いをしておきますので。用意が済みましたら、お呼びください。…『おい、報告を聞こう』。」
「『はっ、ボス。例の件ですが、教会の裏で闇取引があったそうです。後ほど、報告に来るかと思われます。』では、失礼します。」
「ああ。」
「(一体なにの報告だったんだ!何か話し中に顔が暗くなっていたが、これから何かあるのか?)」
…この報告をし終わってリャイが国王と雑談をし始めた頃、応接間の扉をノックされたのであった。
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