2:勇者一行の旅立ち

 未緒が言うには、召喚した連中が先の勇者について話をしていたらしい。

 急遽呼び出して気絶させた召喚士たちを叩き起こして優しく尋ねたところ、正直に答えてくれた。素直な人は好きだよ。未緒はドン引きしているけど。


「葛見殿は見かけによらず豪快なのですね」

「豪快? いや、優しくしてるつもりなんだけど」


 不思議だなーと思いながら、ボコボコになった召喚士を投げ出す。どうも召喚士相手だと恨みがこもってしまって、いつもより手が多く出てしまう。

 なんとか聞きだした話では、この世界で昨日、ひとり召喚して契約した上、魔王の元に送り出したらしい。若い男で、名前はサカキユウヤ。


「召喚を探知できなかったのか……」


 こうなると、契約してしまった先の勇者を連れ戻すには魔王を倒すしかない。別の仕事仲間を呼び寄せるのは不可能なので、僕が魔王を殺って、2人を連れて戻るしかない。

 結局、未緒が契約に縛られた場合と同じ結果になってしまった。魔王を倒すしかないのは癪に障る。この世界のためじゃないんだからね!


「じゃあ、佐久良さんは安全なところに――」

「いえ、私も参ります!」


 かぶせ気味に未緒が言う。


「しかし、僕の仕事は連れ戻すことなので、危険な目に――」

「斬ってみたいのです!」

「へ?」

「い、いえ! 自分の剣を試してみたいのです!」


 今、前のめりに斬りたいって言ったよ、この人。

 ドン引きする僕に真剣な眼差しで未緒が迫って来る。


「修練した剣の技を使いたいと望むのはおかしな事でしょうか!?」


 まあ、僕が否定できるわけもなく……。それに残していくと合流するのが手間だし、一緒に行った方が楽でいいか。

 そう思い直して、未緒に答える。


「わかった。でも、指示には従ってね。僕の仕事はキミたちを無事に連れ戻すことだから」

「承知つかまつりました!」


 よほど嬉しかったのか、未緒は二つ返事で条件を飲んだ。


「ってことで、仕方ないから魔王を倒してくるけど、また召喚なんてやったら、どうなるかわかってるよね?」


 ボコボコにされた召喚士や国の偉いさんたちににこやかな笑みを向ける。

 全員喜んで同意してくれた。やはり優しく話してあげると理解してくれるんだ。


「葛見殿というお方がよくわかりました」

「そう?」

「はい。逆らわないようにします」

「うん、言うことを聞いてくれるのは嬉しいな。じゃあ行こうか」


 こうして僕はビキニアーマーの女勇者と一緒に魔王を倒す旅に出ることになった。お伴はいない。


(いや、この通り控えておるぞ?)


 足元の影が伸び上がってノアが姿を現す。ああ、キジか。まさか、イヌもいたりしないよね?


「わん! やっとヤクにたつ!」


 アルジェが影から這い出してきた。

 ってことは、勇者はサルか。


(勇者は桃太郎ではないのか?)

「おーい、じゃあ、僕はサルだったのか!」


 不本意なポジションだけど、容姿的にも未緒の方がヴィジュアル映えがするな。僕がプロデューサーなら売りは未緒にするよな。


「葛見殿、この女性は人ですか? それにこの犬は普通ではありませんね」

「うん。こんな世界に来て普通ってなんだろうね」

「え? いえ、そう言われると……」

「気にしないで行こう」

「そうですか……」


 未緒は戸惑った表情でノアとアルジェを見る。


(主様、説明放棄しおったな)

「これ以上ややこしくしたくないだけだよ」

(ちゃんと情婦じゃと紹介すればよかろ?)

「違うから!」


 ノアの声は聞こえないのでひとりでしゃべっている形になった僕を未緒は不審者を見る目つきで見る。未緒はアルジェに屈み込んでお辞儀をする。


「私は未緒と申します。不束者ですがよろしくお願い申し上げます」

「よろしく、わん!」

「お利口なのですね」

「ワシ、りこう!」

「凄い凄い」

「……適応してるね」


 未緒はしゃべるアルジェに当然のように返事をして、頭をなでる。言っておくけど、こいつは豆柴のように見えるけど豆柴じゃないからね。


「しかし、葛見殿は魔王を倒しに行こうというのにまったく怖れがないのだな」


 未緒はアルジェの喉の下をなでながら僕を見る。アルジェは完全に気を許している。女好きだもんな、こいつ。


「そうかな?」

「はい。まるでわんぱく坊主を懲らしめに行くくらいの気楽さです」

「そんなことないよー。ガクブルしてるよー」

「よほど腕に覚えがあるのか、それとも……」

「それとも?」

「魔王の回し者かもしれぬなと思いまして」

「いや、僕は正真正銘人間だし、佐久良さんと同じ世界から来たって」

「そうですね。さすがにそんなことはありませんね」

「そうそう」

「もしそんなことがあったら、私が斬ります」

「お手柔らかに」


 長剣の柄に手をかける未緒を見て、思わず両手を掲げる。


「冗談ですよ」

「あはは……。佐久良さんも冗談言うんだね。じゃあ、行こうか」


 引きつった顔でそう言って、城を振り返ったところで、既視感を覚えた。なんだか、見覚えがあるような気がする。

 まあ、こんな城はよくあるし、ラノベのイラストやら映画やらで見たことがあるんだろう。

 と、そこで聞き忘れていた事を思い出す。


「そういえば、魔王の名前を聞いてなかったな」

「確かレオデスケードと言っていたと思います」

「え?」


 何か聞き覚えがある。


「もう一度お願い」

「魔王レオデスケードです」

「ブーッ!?」

(主様、はしたないではないか!)

「うぉんっ!? ばっちい!」


 思わず盛大に吹き出して、ノアにたしなめられ、アルジェには飛び退かれてしまった。

 聞き覚えがあるどころじゃない。

 ここは前に来たことのある世界だ。城に既視感があったのも当たり前だった。

 しかし、レオデスケードなんてまだいるのか? さすがにそれはないよね。期間的にも短かったし。僕の姿も違ってるし。バレることもないよね。

 とはいえ、あの名前が残ってると言うことは、あの後の世界なのは間違いない。

 これは責任取って魔王を倒すしかないようだ。

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