第44話 最大攻撃
射手を交代させながら魔術の込められた矢を放ち、間断なく攻め続ける騎士達。すでに20分近く撃ち続けているが、飛竜の勢いは止まらない。
「副団長!あれを見てください!」
騎士の一人が岩肌の地面を指差す。窪地から黒い影がぽつぽつと浮かび上がり、それが人型に変形していく。人間というよりはフードを被った骸骨が無数に湧いてきた。
「死霊兵だ……」
「あんなにたくさん出現して……」
ここに来ての魔族の出現。上空と地上の双方から攻められて、ただでさえ少ない戦力を割かなくてはならなくなった。
「待機している10名は私と共に来い!他の者は飛竜に撃ち続けろ!絶対に近寄らせてはいけない」
「お待ちになって!あの数を10名なんて無茶ですわ」
戻ってきたリナはクロエの無茶な行動を止める。
「20名を飛竜に、もう30名を死霊兵に向けるべきです」
「交代で撃たないとすぐに近付かれる。脅威でいえば飛竜の方が上だ。あちらを牽制し続けないと!」
「その役はわたくしが引き受けますわ」
リナの自信にクロエは
「射手の方々はそのまま飛竜を牽制してください!わたくしが魔術で一掃します!」
リナは杖を構えて魔術を唱える準備をする。直人から授かった『魔王の必殺技』だ。
『魔王の技を取り入れる!本気で言ってますの?』
『ええ、旧魔王城へ行って魔王の秘石を写しておいて正解でしたね。それを飛竜戦で転用したいと思います』
魔王の秘石に書いてあったコードを、そのまま宮廷魔術師の秘石に記せば転用は可能だ。だが、倫理的な問題がある。
『お待ちなさい!かつて世界を震撼させた魔王の術など使えませんわよ!』
『ああ、大丈夫!大丈夫!禍々しいエフェクトとか効果音とかは全部取っ払って!なんかこう!キラキラしたすげー感じにしておきます!』
『…………また、異世界用語ですの?それは……』
呆れつつも直人の言葉の翻訳をするリナ。要するに、邪悪な見た目を直して、その
『でも、広範囲攻撃で威力もお墨付きです!飛竜の軍勢相手にはこれ以上ないほどの一手ですよ』
リナは渋い顔のままであった。理屈も利点も分かるが、どうしても踏み切れない。
『できれば、誰も死んでほしくないんです。だから、利用できるものはなんでも利用したいんです』
直人の考えは合理的で、背信的でもある。この世界の人間ではないからの見方であり、価値観が違うのだろうが、根本にあるのは『犠牲者なしの勝利』だ。そのための最善策を彼は考えている。
『いいでしょう!魔王の技、使いましょう』
『リナさんならそう言ってくれると思ってましたよ』
直人はにっこりと微笑む。リナの革新的な発想や行動力を見込んでの頼みだったが、リナからすれば自分はまだまだ頭が固いと思わされた。
全く、どちらが型破りですの?わたくしが想像もしていない事をあなたはどんどん提案してくる。
これでもわたくし、あなたに付いていこうと必死ですのよ。
あなたの考えに、知識に、追い付きたい。手に入れたい。認めてほしい。
わたくしだけを……見ていてほしいんです。
杖の先に魔術が集約されていき、それが球体状となって何層も重なっていく。リナはそれを飛竜に向けて解き放つ。
「
扇状に攻めてくる飛竜達の所に光の球体が連なり、次々と周囲を壊滅していく。あっという間に飛竜30体が消滅してしまった。威力と攻撃範囲は申し分なかったが、音と演出がきらびやか過ぎる技だった。
「確かにすごい威力ですわね。でも……ちょっと、これは盛りすぎではなくて?」
圧倒的な力に騎士達は唖然とする。リナの側にいたクロエはそれが秘石師によるものだと確信した。
「それはナオトに授けてもらった力かな?」
「そうですわよ」
「ふむふむ、ナオトは案外読めない男だな。気弱ですぐに押しきれそうなのに、意外と芯があって落とせないんだよな~」
「……あなたがどんな色仕掛けをしているのかは知りませんが、彼は渡しませんわ!」
「おやおや、ナオトの女でもないのに威嚇かな?彼はまだ誰のものでもないはずだが?」
「言っておきますが!ナオトは女騎士や強い女性に憧れがあるだけです!あなたを特別視している訳ではありません!」
「ほうほう!つまり、ナオトは属性好きなのか!それは良いことを聞いたな!ならば……」
クロエは剣を抜刀し、一文字に切り裂く。すると、辺り一面にいた死霊兵は真っ二つに崩れていった。細く煌めく剣身が振動する。
「魔族共を
「なっ!」
「魔族を一掃するぞ!ではな、リナ!飛竜の方は任せた!」
銀の髪をひらりと靡かせ騎士達を先導するクロエ。リナは頬をむくれさせ、わなわなと肩を揺らした。
「ああん、もう!ナオトったら!『モテない』なんて嘘でしたわね!」
異性に気付かれもしないと言っていた直人だが、今の彼は時の人だ。ライバルはモニカだけではなかったようだ。
「これ以上!恋敵なんていりませんわっ!」
リナは八つ当たりのように杖を振り、『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます