第42話 水着コーナーには入れない
はいっ、とゆー訳でやってきました。
昨日、乃々華と来たばかりのショッピングモールへ。足を運んだ店は違うけども。
俺が今立っている場所から見える景色は水着。水着水着水着の水着だらけ。あと、女の人。
中学生から高校生、そして大人のお姉様。
みんなその手に水着を持って胸に当てながら、「どう?」みたいな事をしたり、何着も持って試着室に入ったりしている。
男は……いない。彼氏連れの女の子もいない。
つまり男は俺一人。おおぅ……。
「えっと……杏太郎くん?」
「ナンデスカ?」
「やめ……とこっか?」
「ソウデスネ」
「ご、ごめんね? さすがに恥ずかしいよね?」
いや、これはさすがに無理だって。
だって初日だぜ? 付き合ってある程度経ってからなら、まだいけるのかもしれないけどさ。
これで普通に入れる奴いたら、よっぽど女に慣れてるか、鋼の精神持ってる奴くらいだって。俺が両手パンってやっても手が赤くなるだけだし。
「でも、せっかく来たんですから見てきたらどうですか? 俺はすぐそこのベンチに座ってるんで」
俺は店の前の通路に置かれたベンチを指さす。
見てみると男の人が一人座っていたからだ。おそらく、俺と同じような感じなんだろうな……。なんか変な親近感が湧く。
「そう? じゃあ少しだけ見てきてもいいかな?」
「いいですよ」
「うん! でも、まだ買わないよ? やっぱり杏太郎くんに選んで欲しくて」
「え? 選ぶって……俺でいいんですか?」
「だって……杏太郎くんと一緒に海とか行きたいし……。それならやっぱり杏太郎くんの好きな水着着たいし……」
それはつまり俺の好みに染まりたい、ということでいいのしょうか? どうなんですか? 聞けないけども。抱きしめてもいいですか? 無理だけど。
「わ、わかりました! こ、今度! 今度はちゃんと選びます! 今日はほら、まだ付き合ったばかりだし……」
「そ、そうだよね! 付き合ったばかりだもんね! ちょっと先走っちゃったかも……。じゃあ見てくるね♪」
そう言うと海琴さんは水着の群れへと消えてきった。……いや、水着の群れってなんだよ。
「ふぅ……」
俺はベンチに座って一息。
朝からずっと緊張したり悶えたり夢中になったりでずっと忙しかったからな。やっと落ち着けたって感じだな。
そこで俺はちょうど二人分程の距離を置いて隣に座ってる男の人を見る。二十代前半くらいかな?
それにしても、中々のイケメンなのにそれが霞むくらいやけにゲッソリとしているような? 長い時間待たされてるとか?
「っ!」
チラッとだけ見るつもりだったのが、気になって見続けていたせいで、こっちを向いたその人と目が合う。
するとその人は俺を見ると小さく笑い、口を開いた。
「男なのにこういう所に連れてこられると苦労するよね……」
「あ、はい。そうですね……」
「さっきのは君の彼女?」
「はい。まぁ……一応」
「優しそうだね」
なんでこの人はそんな悲しそうな目をするんだ!?
と、その時水着売り場から紙袋を持った女の子が三人、こっちに向かって歩いてきた。
そしてゲッソリイケメンの前に並んで立った。
「セーンセ、おまたせ〜♪」
「ダーリン水着買ってきたよ! 帰ったら見せるからね? 着替えるところも全部!」
「おまたせしました旦那様。ちゃんと旦那様の好きそうな水着にしましたからね?」
「あ、うん……そっか……」
はぁぁぁぁぁぁっ!? え、ちょ、まっ! はぁぁぁぁぁぁっ!?
「じゃあ帰りましょうか。今夜が楽しみですね」
「センセ? 今夜は焼肉にするからね?」
「ダーリン? いっぱい食べないともたないかもよ?」
「は、はは……ははは……」
嘘だろ? この人は三人と付き合ってるとでも言うのか!?
そしてスタスタと歩きだした三人の女の子。
ゲッソリイケメンはベンチから立つと、俺にボソッと一言。
「一目見た時から、君はなんだか僕に似てる気がするって思ってたんだ。いいかい? ちゃんと自分が一番大切な一人の人だけを想うんだ。優柔不断にみんなにいい顔をしていると、僕みたいな抜け殻になるからね?」
「は、はぁ?」
「ダーリン! 早くっ!」
「あ、うん。今行くよ。……じゃあね」
ゲッソメンはそれだけ言うと俺の前から立ち去り、三人の女子の後ろにフラフラとついて行き、やがて姿が見えなくなる。
な、何だったんだ……。
俺がアンタみたいになる? まさか。そんなにモテるわけないだろうが。
海琴さんが俺の事を好きになってくれただけでも奇跡だってのに。
「杏太郎くんお待たせ。見てきたよ〜」
「あ、早かったですね」
「うん。どんなのがあるかな〜? って見てきたくらいだからね。可愛いのあったんだけどサイズがなくて、店員さんに聞いたら今はまだそんなに入荷してないんだって」
「そうなんですか?」
ほう? サイズが……。なるほど。
「来週くらいから本格的に入荷始めるみたいだよ」
「じゃあ、それまでに心の準備しときます」
「あはっ! 心の準備ってぇ〜♪」
そう言ってケラケラと笑う海琴さん。
いや、まじで心の準備しないとヤバいんだってば……。
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