鉄と血の平和

序章です。人間VSヴァルキュリアです!

ルーツィア侵攻

 ===ヴァルキュリア首長会議===

 薄暗いテントの中、8人の首長が神妙な顔でチリチリと音を立てている焚き火の周りに集まっている。


「今回、首長会議を開いたのは勿論御存知の通り隣国によるエラト地方への一方的な侵略行為に関してである。」首長議長であるピアッツィは粛々と述べる。


 ヴァルキリアとはこのあたり一帯に居住している種族である。ヒト種とヴァルキリアの違いはとても色白の種族である事だ。シルクのような白や薄いブロンドの髪を持ち、その肌は絶対に日焼けをしないような白さを持っている。


「議長。その件についてはわたくしから説明させてください。」そう発言したのはテミス族首長代理のレサーだ。

「テミス族首長代理。発言を許可する。」ピアッツィの低い声で自身の大きな顎髭を触りながら答えた。


「議長!我がテミス族は、5日前に隣国のエルニエッタ公国により侵攻されました。現地部隊で対処しきれず昨日の時点でオフィーリア川まで撤退しそこで防衛をしている状況です。」

 その後細かな戦闘の経過を述べた後にレサーは最後にこう発言した。

「状況としては我が部隊が圧倒的不利です。敵は約7倍の数を有しています。

 議長。各部族からの援軍を進言お願いします。」

 レサーは疲れっきた顔だった。彼女は美人であるが目の下のくまやシワで台無しになってしまっている。状況はそれほど悪化しているのだ。


 レサーが話し終わり少しの間が空いた後ピアッツィが口を開いた。

「各首長、テミス族への援軍の要請を受諾する者は挙手せよ。」

 ―――しかし手を上げたのはエウノミア族首長ガスパリスのみだった。

 おそらくエウノミア族とテミス族の支配領域の間に河川や丘陵が無く自分の部族が侵攻を受けると判断しての事だろう。


「貴様ら!こんな状況に出し惜しみとは!裏切り者共め!」レサーが声を荒げるが

「首長代理!!直接答弁を控えよ!」ピアッツィがレサーの言葉を遮る。

「議長!あなたもです。このままではヴァルキュリア全体がエルニエッタに支配されてもおかしくないのですよ!」

「レサー。―――いや首長代理。気持ちがわかるが話を聞いてくれ。皆テミスを裏切っている訳ではないのだ。ただ部族間での関係悪化や魔獣への対処で援軍を出す余裕など無いのだ。本当に申し訳ない。」

 ピアッツィは深く頭を下げた。彼の白髪に焚き火の火の粉がパチパチと当たっている。


 レサーはそれを見て黙り込んでしまっている。他の首長達も口を開こうとせずテントは静寂に包まれる。

 ―――ピアッツィが頭を上げ口を開く

「テミス族首長代理。これは部族首長としてではなくワシ個人としてだ。ワシの所有するサムハイン古代遺跡についてだ。昨年、遺跡内部の古代魔法陣が修復できた事は覚えているか。」

「議長。はい。覚えています。」

「その魔法陣の使用をテミス族に譲渡する。魔法陣はフュルギヤ(異世界から人間や物質を召喚する未解明の古代魔法陣の一種。)のたぐいらしい。戦略的な価値があるかもしれない。」

「議長。バカをおっしゃらないで下さい。そんな骨董品クラスの魔法陣で何をすればいいというのですか。たしかにフィルギアから召喚された者は強いスキルなどを有しています。しかし強者が一人いても戦略的な決定打にはなりません。それに召喚された者は例にもれず身勝手だと言うではありませんか。だいたいそれも運が良ければの話です。ほとんどの場合召喚できても塵や風などと聞きます。」

「だがレサー。ワシ個人にできる事はこれくらいしかないのだ。済まない。どうかワシのために受け取ってくれないか。」


そのごも首長会議はは長引くも結局援軍を出す部族はエウノミア族のみだった。レサーはフィルギアに対して期待はしていなかった。だがそれは今後の戦局、いや国際社会全体に対して大きな影響を与える事になる。


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