PSYCHO-PASS
さとすみれ
1話完結
夜七時。渋谷は帰宅者で溢れている。その中から私は彼を見つけて手を振った。
「つーくん! こっちこっち!」
紺のコートにスーツを着ているつーくん。右手だけポケットに入れてるのもかっこいい。つーくんはどんな時でも右手を出さない。出すとしてもいつも手袋をつけている。つーくんがどうして右手を隠すかは気になるが私には関係ない。つーくんさえいればいいのだ。
「待たせた?」
「ううん。今来たところ」
本当は楽しみすぎて二十分前に着いたけど。今日はつーくんが私の家に来て、私の手料理を初めて食べる日。自分で言うのもあれだけど、正直料理は下手な方だって思ってる。だけどつーくんのために料理教室に行って練習したんだもん。絶対美味しいって言ってくれるはず。家に着くまでの間、私はワクワクでずっとニヤニヤしていた。
私が住んでいるのは八王子のアパートの二階。親が二階の方が安全だとか言ってここを選んだ。
「お邪魔します」
後ろで声がして我に返った。そうだ、今日はつーくんがいる。こんなことを考えている場合じゃないんだった。
「どうぞ。汚いけど。ゆっくりしてって」
つーくんは軽く頷いた後、リビングのドアを開けた。
「すごい綺麗だね。女性の部屋って感じ」
「ほんと? 嬉しい」
全体的に青色の部屋。ベットもカーテンも円のカーペットも。
「じゃあ、テレビでも見てて待ってて。頑張って作るから」
「うん。楽しみだなぁ」
つーくんがテレビを付けたのを見て、私は幸福感に満ちながら野菜を切り始めた。
「今日は何を作ってくれるの?」
それは私がジャガイモを切っている時。つーくんが急に私にバッグハグしてきた。そして耳元でそう言ったのだ。どぎまぎしながら私は言った。
「パ、パスタとジャーマンポテト」
「そうなんだ。美味しそうだね。だけど、今日俺はそんな気分じゃないんだ。ごめんね……」
その瞬間、背中に鋭い痛みが走った。
「あっ……」
足の力がなくなり、私はその場にしゃがみ込んだ。すると頭の上から声が聞こえた。
「背中から血を流している君が一番可愛い。最後にいいものをありがとう」
そう言うと、つーくんは私のカバンから何かを取り出して、紺のコートのポケットに入れ、この部屋を出て行ってしまった。
「つーくん……。大好きだよ……。こんな私でごめ……」
「本日、八王子のアパートで若い女性が亡くなっているのを友人が発見しました。亡くなったのは塔山陽葵さん、二十二歳。遺体の背中に大きな刺し傷があったことから警察は他殺と見て捜査をしています。それでは次のニュースです」
「八王子で殺人事件がね……。物騒な世の中だね。たけしくん、何かあったら私を守ってね」
「あぁ、もちろん」
今日、私の隣にはたけしくんがいる。一昨日、昨日と会えなかったのは寂しいけど、今日は可愛がってもらえるから許す!
「俺、何か作るけど、何かリクエストある?」
「うーん。オムライス!」
「いいよ」
たけしくんがカッコよくどんどん野菜を切っていく。右手には火傷のような傷があった。
「恥ずかしいから見ないでよ」
「はーい。美味しいの期待してる……」
「どう? 少しずつ血が流れてる。小さな川みたい……苦しい? それとも嬉しい?」
えっ何? なんか首が痛いんだけど……うぅ……。
「う……れ……し……い……」
喋るのがきつい……。声が出しにくい……。……助けて……。
「そっか、綺麗だよ。その姿」
「……ん……」
あーあ。死んじゃった。背中をさしたらすぐにあの世に行ったから首をちょっと刺せばいいかなって思ったら……。そんなに長い時間生きてないな……。にしても、血って綺麗だな……。俺の血はどこか汚いのに、女の血は鮮やかな赤色……。この色はほんとに綺麗だ。女はどうしてこんなに綺麗な色を見せないんだろう。
『「最後くらい、綺麗な姿で死ねばいいのにって思ったので殺しました」
清水容疑者は警察に対しこう言ったそうです。右手には火傷のような痕があり、複数の人を殺してきたと考え、余罪も含めて捜査をしています……。』
PSYCHO-PASS さとすみれ @Sato_Sumire
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます