第244話 忍からの報告

「まずは、ホクトのある北島に向かう船ですねぇ。ボクらが乗り込めるでしょうか?」


 アルトの不安のひとつはそれだ。

 ホクトが魔物で陥落したのであれば、海路は国が掌握してるだろう。

 平民が戦闘に参加するのは良いが、各個撃破されないため、港で足止めしているかもしれない。

 少なくともアルトが指揮官ならば、武装平民を足止めして足軽軍隊としてまとめ上げ、一気に北島に上陸させる。


「乗れなかったらどうすんだ? 泳いでいくか?」

「モブ男さん泳げるんですか?」

「…………」


 すぅっと目がアルトから離れていく。

 ですよねぇ……。

 嵐に遭って船が転覆したときも、リオンはひたすら悲鳴をあげ続けていた。

 黙って暴れ続けたマギカはもっと酷い。危うくアルトは溺れる前に死ぬところだった。

 泳いで渡るなどもってのほかだ。


「で、どうすんだよ? できれば一番のりしてみんなが来る前に魔物を全部倒したいんだが」

「うーん」


 足止めを食らうのは、アルトも好みではない。

 港にただ黙っているしかないのは、最高に時間の無駄だ。


 であれば……。

 アルトはいくつか方法を考え、しかしやはり最後にはそこに行き着いた。


「イカダで上陸しましょうか」

「「……」」


 そうアルトが提案すると、無言の2人は脱力し、走行速度ががくんと落下した。

 あれだけ勇ましく歩いていた自称勇者などは、完全に腰が引けている。


(なるほど、この手があったか)


 次にリオンが暴走したときは、イカダに乗せると言おう。

 そうすればきっと、瞬時におとなしくなるはずだ。




  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □




 朝食の優雅なひとときが、最悪の報告によりぶち壊された。


「伝令。ホクト陥落の知らせです!!」


 官吏の報告を聞いて、シズカは僅かに青ざめた。


 ホクトには1人の守護を筆頭に数百の武士を常駐させている。

 外壁があるので簡易的な要塞としても機能するホクトを魔物が落とすには、10000や20000の兵力では足りないだろう。

 北島の魔物の平均レベルは10程度。いくら数を集めたところで、突然陥落するほど控えている武士たちは弱くはない。


 初めシズカは伝令の情報を疑った。

 だがシズカ直下の隠密舞台が、偽情報を伝えるはずがない。


 であれば、武士が対処出来ないほどおびただしい魔物が現われたか。あるいは、対処できないレベルの魔物が現われたか。


 邪神め……。

 戦争を仕掛けよったな!?


 シズカはすぐさま官吏に指令を通達。

 トウヤ守護以外の武士を集め、北の港に向かわせる。

 それと同時に、上士は武士隊を、下士には平民からなる足軽隊を指揮するよう指示を飛ばした。


 味噌汁をご飯に注いで一気に啜り、シズカは陣羽織を羽織ってすぐさま広間に陣を敷いた。


 今後、魔物は海を越えて攻めてくるかどうか。

 次に狙われるのは東の都か西の都、あるいは南の都か……。


 まずは情報だ。

 手始めにシズカは隠密部隊“忍”を総動員し、全力で情報収集するよう指示を出す。

 同時に州都防衛の強化を守護に一任する。


 さて、相手はどう出てくるか。

 最高指揮官の表情となったシズカは、駆け回る官吏たちを眺めながら祈るように呟く。


「頼むから、善魔は出てこんでな……」




  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □




 報告します!


 ホクト壊滅。被害甚大。

 守護と武士は不明。平民はほとんど逃げ遅れて魔物の餌食になった模様。


 魔物の総数は数万。3万から10万。誤差が大きいのは、面で計算しようとしても、魔物が種類により体躯の大きさがまったく違うためです。


 魔物はゴブリン、狼、猪人、鬼。


「鬼!?」


 はい。鬼がおりました。数名で確認したので間違いありません。

 鬼は総勢100匹程。それぞれ散らばり、別種魔物との同行を確認。

 魔物の軍団を操っているものと思われます。


「相手が鬼やから、武士や守護はアカンかったんやなぁ……」



 報告します!


 現在魔物は南に向かって進行を始めました。

 魔物は海を泳げませんのでこちらまでは来ないでしょうが、ホクト奪還のための上陸に差し支えるかもしれません。


「泳げない、と決めつけるのは危ないで。こうなったんも、例外のようなもんやし、例外を想定して対処せなあかん」


 はっ!



 報告します!


 現在ホクト周辺にて、怪奇現象がありました。


「怪奇現象? それは魔物の仕業なんか?」


 いいえ。たぶん、違うかと。

 その……げに信じられませんが魔物が空中に浮かび上がったんです。


「浮かび上がる?」


 飛ばされるというかなんというか……。

 すみません。もう少し調べて折り返します。



 報告しまぁす!


 ホクトに向けて移動中の民間人3名を発見しましたぁ!

 とにかく、化物みたいな3人ですぅ。

 っていうか魔物じゃないの?って思うくらいですねぇ。


「魔物? 新手なん?」


 たぶん違いますけどぉ……。兎に角評価に困る3人でしてぇ。


 1人は獣人で、すごく綺麗な動作でたちまち魔物を殺していってますぅ。ちょっぴりタイプかも!

 やだ、いまの連撃、かっこいい!

 殴られたぁい!!


「アホ。ちゃんと報告せぃ!」


 はぁい。

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