第185話 以前のレベルを取り戻す

 どうやら少しのあいだだけ気を失っていたようだ。

 それでもアルトは自分が設置した【罠】の繋がりが消えていないのを確認し、ほっと息を吐き出した。


 突然アルトが苦しみ出したのは、もちろんアルトが設置した【罠】で魔物を大量に葬ったからである。


 ただ今まで使ってきた【罠】は主に物理系。

 物理のみではダメージを与えられない死霊系モンスターに対しては、若干の足止め効果しか与えられない。

 故にアルトは、新しいスキルを開発することにした。


 イノハの迷宮は国の管理下に置かれているが、探索する冒険者――労働者は装備もレベルも貧弱なものが多い。


 深部にさえ潜ってしまえば、キノトグリスの迷宮のように冒険者が同じ階層でバッティングする可能性がない。

 つまり、ここは永続的に魔物を排出する、アルトのためだけの訓練装置だった。


 少し前のアルトであれば、これほどのレベリングを行おうなどとは思わなかった。

 レベルアップ酔いはきついし、強いものになれば死に一歩足を踏み入れたように体が冷たくなる。

 だが現在、ハンナは何者かの手によって攫われている。


 ハンナを奪還する際に立ちはだかる可能性のある戦力は、少なく見積もってもユーフォニアで戦った善魔クラスだ。

 最低でもあのレベルの相手を、1人で難なく倒せるくらい実力を伸ばさなければいけない。


 レベリングできるリミットは来年かもしれない。

 あるいは明日かもしれない。

 マギカが現われた時点で、自由なレベリングタイムは終了するとアルトは考えている。

 それくらいの想定をしなければ、決して善魔を楽に倒せる力は身につかない。


 であれば、明日現われると想定し、なるべく早い段階で実力を伸ばす必要がある。

 それも、通常の方法では考えられぬほど高く……。


 故にアルトは、強引なレベリングを試すことにした。


 ハンナを救う。

 それがアルトの存在理由。

 行動原理。

 ――すべてだ。


 死ぬことは怖くない。

 自分がハンナを救えない未来のほうが、よっぽど耐えきれない。

 であれば肉体の苦痛程度、笑って乗り切れる。


 アルトは下層に来るまで、そして下層にもいくつもの罠を設置した。

 この罠は、エルフの刻印を参考にして生み出した工作スキル【設置魔術罠(マイン)】だ。


 壁や床、天井に刻印を模した【マイン】を設置。それらを発動させると、魔物を感知して自動的に魔術が発動させる。


 発動した【マイン】は光属性を帯びたマナを噴射し、次々と魔物を葬った。


 これほど狙い通りに行ったのは、イノハの迷宮の魔物のほとんどが光属性に極端に弱いからだ。


【名前】アルト 【Lv】45→50 【存在力】☆☆

【職業】工作員 【天賦】創造  【Pt】4→0

【筋力】720→800   【体力】504→560

【敏捷】360→400   【魔力】2880→3200

【精神力】2520→2800 【知力】1292→1436


【パッシブ】

・身体操作50→53/100    ・体力回復50→52/100

・魔力操作70→73/100    ・魔力回復63→65/100

・剣術49→50/100      ・体術32→35/100

・気配遮断21→24/100    ・気配察知43→48/100

・回避51→52/100      ・空腹耐性56→59/100

・重耐性51→55/100     ・工作68→70/100

【アクティブ】

・熱魔術47/100     ・水魔術46/100

・風魔術44/100     ・土魔術45/100

・忍び足16/100     ・解体7/100

・鑑定 31/100

【天賦スキル】

・グレイブLv4       ・ハックLv3→4

・マインLv1→4NEW   ・格差耐性



 レベルはさほど上がってないにも拘わらず、疲労が激しい。

 どうやら【マイン】は体に相当負担がかかるようだ。


「なあ師匠。今度はなにをやらかしたんだ?」

「光属性の罠を設置して、魔物を狩りました」

「ふぅん。で、いまレベルいくつ?」

「50です」

「うげ、かなり上がってる。このままだと師匠に追いつかれるかも……」

「え? まってくださいまし! 何故そんなにレベルが上がっているんですの!?」


 リオンはアルトの罠の性質を体感したからだろうすんなり受け入れてるけれど、シトリーはそうでもないようだ。


「罠を広範囲に設置して、それを発動したんです。大体1000くらいでしょうか」

「せっ――!?」

「ただこの方法はあまりにキツイので、真似しない方がいいと思います」

「「……どう真似しろと?」」


 たしかに。

 二人の冷たい視線から逃れるように、アルトはステータスを確認する。


 熟練はかなり成長し、70の大台を超えたもの、そこに近づいたものが増えてきた。

 これからはキノトグリスのように、いくつもの熟練を上げるのではなくて、一つに的を絞って挙げていくべきだろう。


「さて、少し休憩して体力も戻ったことですし――」

「あら、やっと地上に戻りますの?」

「――また狩りを始めましょうか」

「またですのっ!?」


 シトリーの悲鳴が響く中、アルトは再び狩りを再開するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る