第123話 愛しい親友との再会

本日よりピッコマにて、WEBTOON版【最強の底辺魔術士~工作スキルでリスタート~】が連載スタート!

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 突然頭を襲った衝撃に、アルトの集中が途切れた。


(い、一体なんだ!?)


 驚いて辺りを見回すと、懐かしい姿があった。


「も、モブ男さ――」

「おまえ、いい加減にしろよ! 一体どんな思いでルゥがここまで来たと思ってんだよ! 折角会えたのに散々無視されたルゥがどう思ってるかおまえにはわからないのか!? それでもルゥのご主人か!? 無視するとか酷いと思わないのかッ!?」


 一気にまくし立てたリオンの勢いに圧され、アルトは僅かに仰け反った。


「ちょ、ちょっと待ってくださいモブ男さん。落ち着いて」

「これが、落ち着けるわけないだろ!!」


 パシーン、と再びアルトはリオンに頭を叩かれた。

 その音源は、アルト謹製のハリセンだ。


(あ、それ、まだ持ってたんだ)


 感心すると同時に、リオンの様子がおかしいことに気づいた。

 激怒する彼の両目から、大粒の涙がこぼれ落ちている。


「えっと、すみません。考え事をしていて、なにが起こったのかさっぱりで……。ルゥ? ああ、すみません。モブ男さんにルゥの核を預けっぱなしにしたままでしたね……」

「いいんだよそんなことは。それよりも言うべきことが、ルゥにあるだろっ!!」

「え? ルゥに?」

「なんでまだ気づかないんだよ!? おまえ、ユーフォニアから吹っ飛ばされた時に、脳みそ落っことしてきたのか!?」

「えっ? ……えっ?」


 リオンの怒りは本気だった。

 アルトは初めて、リオンが真剣に怒っているところを見た気がする。

 しかし、何故こんなにも彼が怒っているのかが、わからない。


 頭を悩ませていたとき、ふとアルトのくるぶしになにかが触れた。


 その感触に胸騒ぎを感じ、アルトは慌てて足下を見た。

 そこには――、


「…………るぅ?」


 アルトのくるぶしをそっと触手で触れる、スライムがいた。


「(ぷるぷる)」

「……本当に、ルゥ?」

「(ごしゅじんさま、ぼくを、すてないで……)」


 そのスライムは、間違いない。

 ルゥだ。

 足下に、ルゥがいた。

 王都で死んだはずのルゥがいた。


(それがなんで、生きてるんだ?)

(実は生きていたのか?)


 考えるけれど、アルトはすぐに頭を振る。

 あのとき、ルゥは間違いなく死んでいた。

 死んだ魔物が魔石になるのと同じように、ルゥは核――魔石だけになった。


「ルゥ……の、弟ですか?」

「なわけないだろ!」

「でも、ルゥは死んだはずで――」


 そう。アルトはルゥの死にずっと囚われていた。

 ルゥの死の影に取り憑かれていた。


 ルゥはもう二度と戻ってこない。

 長い時間をかけて、やっとルゥの死に折り合いをつけられたからこそ、アルトはリベットの前で子どものように泣きじゃくったのだ。

 すべてを受け入れたのだ。


(なのに、どうして……)


「生き返ったんだよ」

「はい?」

「突然、俺の腕の中で息を吹き返した」

「えっ、なんですかそれは? モブ男さんの作り話?」

「なわけねぇだろ!」


 リオンが憤るけれど、死者の蘇生は、この世の理を外れている。

 偶然などでは絶対に起こりえない。

 特別な方法か、神が奇跡を起こさぬ限り、蘇生はあり得ないのだ。


「目の前にルゥがいるのになんで信じられないんだよ! 馬鹿なの? 死ぬの!?」

「い、いやいや、落ち着いてくださいモブ男さん。落ち着いて説明を――」

「落ち着けるわけないだろ!!」


 森中に響き渡るくらいの怒声で、リオンが叫んだ。

 同時に繰り出した攻撃はしかし、声とは裏腹に弱々しいものだった。

 拳をアルトの胸にぶつけ、リオンが肩を振るわせた。


「ほんと、死んだんじゃないかと思ったんだぞ。どんだけ心配したと思ってんだよ。ずっと、ずっと待ってた。おまえのこと、ユーフォニアで、待ってたんだ。なのに、いつまで経っても帰って来ないじゃねぇか。約束しただろ、必ず帰って来るって、オレと約束しただろ!!」

「リオンさん……」

「3年だぞ? ユーフォニアで、師匠と別れてから3年も経ったんだぞ!? おまえ、一体その間なにして――」

「3年?!」


 言葉を遮り、アルトはリオンの肩を両手で掴んだ。


「3年って言いました?」

「い、言ったぜ? そ、それがどうしたんだよ?」


 まさかとは思った。

 しかし、指折り数えると、彼の言葉に間違いないことがわかった。


「これは、僕の間違いかもしれないので一緒に考えてもらいたいんです」

「あ、ああ。いいぜ」


 アルトの雰囲気に、リオンが真剣な顔になる。


「僕らはレッサードラゴンを倒しましたよね?」

「ああ。俺達は間違いなく、ドラゴンを倒したな」

「そのドラゴンの生の部分は――」

「ルゥが食べたぜ」

「そのとき、僕らは初めて、ルゥにインベントリのスキルがあることを知りましたよね?」

「ああ、そういえばそうだったな」


 アルトは一度深呼吸をして、整理した己の推理を指でなぞる。


「ドラゴンの生の素材は、いくつもの薬に使われます。肝臓は万能薬だったり、血液は回復薬だったり。ちなみに、あのとき心臓はなんの素材だって言ったか覚えていますか?」

「…………精力剤?」

「アホですか?」


 さすがはリオンだ。

 相も変わらぬボケっぷりについ頭がくらっとした。


「蘇生薬です。あのとき、消化しなかった心臓がルゥのインベントリに入っていたとしたら。そして、その心臓がインベントリの中で3年間熟成されていたら。その心臓がルゥの体に作用したのだとしたら」

「…………生き返る?」

「ええ。3年経ったいま、突然蘇生したことに説明は付きます」


 ルゥに視線を下ろし、アルトは腰を屈めた。


 ルゥが、まるで傷付いた子どものように小さく振るえている。

 その様子に、胸が張り裂けそうになる。


「……ごめんね、ルゥ。お帰り」


 アルトはルゥを、強く抱きしめた。

 懐かしい感触。懐かしい匂い。懐かしい温もり。


「……会いたかった」


 胸から溢れ出た言葉が、喉で擦れた。

 涙ではない、記憶ではない、痛みでもない。

 この声こそが、ルゥを失ったアルトの穴の大きさを、なによりも現わしていたのだった。

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